兄弟間のトラブルの原因や揉めないための介護分担の方法や介護サービスの利用方法について解説します。
いつか来るかもしれない親の介護について皆様は兄弟や親族で話合ったことはありますか。
実際に現場では『介護を誰が負担するか、どれくらい負担するか』について兄弟や親族でトラブルになっている場面を何度も見てきました。
今回はそんな親の介護にまつわる兄弟間でのトラブルや実際に介護負担の分担方法などについて解説します。
『親の介護は子供の義務』は本当?
親の介護は子供がするもの。というイメージは根強くありますが実は要介護者を中心として上記の図にいる全ての人が介護者の対象になります。
つまり枠内の方々はお互いに協力して介護をする「扶養・扶助の義務」を持っています。
義務はありますがあくまで『お金』について
では介護をする義務とは何なのか、民法で定められている介護についての義務は
”直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある”
と定められています。ここでいう義務は「金銭的な援助」であり生活に必要最低限なお金の援助をさします。
ただし、義務は強制ではなく生活保護受給の有無判断を基準に家庭裁判所が判断します。
したがって扶養義務がある法律上では介護が必要と知りながら放置をしていた場合
『保護責任者遺棄致死罪』『保護責任者遺棄致傷罪』に問われる可能性があります。
一人で背負う必要はありません
介護トラブルに陥りやすい根本的な原因に多いのが『介護負担の集中』です。
身体的・精神的負担のかかる介護を一人で背負う必要はありません。
親族間でトラブルに発展しないように扶養義務のある親族で役割分担を事前に決めておきましょう。
親の介護分担について
まずは
- 夫婦(配偶者)
- 兄弟姉妹(息子・娘)
を中心に介護分担は基本的に均等に分配することが最も望ましい形です。具体的には
- 曜日を分けて親の面倒を見に行く
- 介護にかかるお金を兄弟で分担する
などの方法をとります。
しかし、現実には均等に負担を分けるとはいっても
- 遠方に住んでいる(居住地の差)
- 経済的な差
- 絶対にやりたくない介護がある
などやり方、考え方に違いがあるのは普通です。
金銭的に余裕がない場合は自宅に行く頻度を増やす、実際の介護に行く時間がない場合は多めに金銭的な支援を行うなど負担はトータルとして考え均等に分配していくことを意識しましょう。
特に問題になるのが風習や考え方です。
時に「長男(嫁)だから多めに見るべき」という言葉をよく聞きますが、このような生産性のない意見に全て左右されてしまうと介護負担が偏る傾向にありますので注意しましょう。
兄弟姉妹がいない、親に配偶者がいない場合は孫や親族などに協力を求めることも必要です。
本人との関係が希薄なケースも珍しくないため兄弟姉妹ほどの介護力を望むことは難しいかもしれませんので配慮するようにしましょう。
頼れる人がいない場合は!?
家族構成によって頼れる人がいないということは決して珍しい事ではありません。あきらめず地域の公的機関に相談しましょう。
相談先としては
- 役所など市町村の介護担当窓口
- 地域包括センター
介護の専門家が所属しています。
介護分担しないとどうなるか?
介護を行う場合は経済的・身体的・心理的負担の軽減のため親族間でしっかり役割を決める必要があります。
実際、介護負担が集中すると以下のような問題が生じます。
介護離職、うつ
介護を原因に仕事を退職し専念することを『介護離職』と呼びます。
調査によれば年間約9万人以上が介護を理由に離職している現状です。
一見介護離職は仕事との両立から離れることにより負担が減るように感じますが実際には介護離職をした方の半数以上が精神的、身体的、経済的に負担が増加したと感じているというデータもあり問題が多い選択でもあります。
3つの要素は互いに相関しており
- 安定した収入がなくなり、経済的に困窮する。
- 地域や社会とのかかわりが薄れ、周囲から孤立してしまう。
- 相談できる人がなくなり介護疲れなどから、介護者がうつ状態になってしまう。
といった負のスパイラルを起こしてしまう事があります。
介護放棄、介護殺人などのリスク
介護によるうつは介護者への悪影響だけではなく虐待や介護放棄につながる可能性を含みます。
平成30年厚生労働省の調査では養護者による虐待判断件数は17249件に上り増加しています。
またそのような状況が加速すると『親を殺したい』という考えにいたったり介護殺人にいたってしまうケースもあります。
日本福祉大学の湯原悦子氏によると介護殺人の件数は18年間(1998年~2015年)で716件に及ぶとされており介護放棄によるものも含めれば身近なものになってきた印象がありますす。
兄弟姉妹がもめる原因
兄弟姉妹、親族のトラブルでは主に以下のようなものがあります。
- 「仕事が忙しい」など自分の都合を主張し介護を押し付け合う。
- 介護に必要な費用負担を拒否する。
- 親の預貯金や年金を搾取して、自分のために使ってしまう。
- 親の資産の相続を自分だけ有利にしようとする。
- 「長男なんだから」、「長男の嫁だから」と古い考えで介護を押し付ける。
- お金や労力の支援をしないにもかかわらず、介護に関する文句や口出しだけしてくる。
これらのトラブルはそれぞれの性格の問題だけではなく介護自体に以下のような原因があるからだという風にも考えられます。
- 突然始まる介護(分担が不明瞭)
- 介護の拒否(パス)
- 介護負担の大きさ
- 認知症
突然始まる介護
厚生労働省によると現在、要介護になる原因は多い順番に
- 認知症
- 脳卒中
- 骨折・転倒 となっています
特に脳卒中や転倒は前触れなく起こることも多く、家族が準備していない状態で突然要介護状態になることも珍しくありません。
そのような状態で始まる介護は兄弟家族間の押し付け合いなどが発生しやすい傾向になります。
介護の拒否
要介護になる世代の高齢者の子供世代は40~60代の方が多く管理職をされている方も多い働き盛りの世代です。
同様に子供もある程度大きくなり受検世代など手のかかる事が多いです。
そのため「仕事が忙しい」「子育てが忙しい」という結論にいたりやすい傾向にあるため介護拒否がうまれます。
また固定観念も介護拒否や押し付け合いを助長する原因で「独身者は時間に自由が利く」「親と同居、親と近いところに住んでいる」「長男が親を見るべき」といった理由で介護拒否を行う方も多いです。
また、介護は排せつ関係や嘔吐物の処理など精神的な作業が多く、認知症は病気に対しての理解が付きにくい介護であるため介護自体に持つイメージがかなり大変な印象が多く拒否的な思考を生みやすい原因になります。
トラブルを避け、円滑に介護をすすめるために
原因についてふれたところで具体的に兄弟姉妹、家族間で介護をめぐるトラブルを生じさせないようにどのような対策をたてておくべきなのかについて解説します。
対象者が元気なうちに考えを聞く
まずは介護の中心になる本人から望む介護についての意向を聞き、話し合いましょう。
認知症があったり、すでに介護が始まっている状況ではなく元気なうちから将来的な事を想定して行うことが重要です。
介護に関する話は本人も想定していないことが多く拒否的な傾向があるかもしれません。
うまく機をみて家族が集まった際や気軽なトークの中から人生の最期は自宅・病院・老人ホームが良いのかなど重要な話を引き出しておきましょう。
親族間で話合いを進める
できれば対象者が元気なうちに事前に協議することが望ましいですが、親族で集まりそれぞれの状況に合わせた介護の役割や費用分担について話し合いましょう。
この際に「仕事が忙しい」「子育てが忙しい」などの主張を繰り返してしまうと建設的な話あいができないため、できるだけそういった発言を控えるようにルール決めをしてもよいでしょう。
一度で協議が終了することはなかなかないと思いますので複数回、テレビ電話などのIT機器も活用しながら納得が行くまで話合いましょう。
介護の主担当(キーパーソン)を設定
とはいえ、介護は数値化ができるものではなく均等に分けるというのは難しいものです。
円滑に話し合いを進めるためにも主たる介護者(キーパーソン)を設定し、その方をサポートしていく形でそれぞれの介護負担を考えていくとわかりやすいでしょう。
同居や近隣家族はどうしても直接的な介護や会議への出席、通院の補助など負担が集中しがちです。
遠方の場合は費用負担を多く設ける事や定期的な自宅訪問をするなどで対応していきます。
話し合いの内容は必ず記録する
これらの話合いの内容は「言った、言わない」を避けるため記録を付けておくことをおすすめします。
また対象者本人の介護の意向などはエンディングノートとして本人に残しておいていただくとわかりやすいでしょう。
介護知識と技術を身に着ける
介護の知識・技術は実際に介護が始まらないとどうしても必要性を感じにくいものですが、介護による精神的な負担や腰痛などの身体的な負担は介護うつの原因の一つであり十だに重大な問題です。
移動介助や排せつ介助、おむつ交換などの基本技術は地域で介護教室などが盛んに行われています。同居している主たる介護者だけでなく家族で一緒に受講するなど日頃から介護の知識技術に触れておく習慣を付けましょう。
介護を行う余裕がないときは
とはいえ完全に平等な介護負担の分担は難しいですし、お仕事や介護者自身がケガや病気を持っているなどの事情があることもあるでしょう。
そういったときはどうすれば良いのでしょうか。
生活保護を受給してもらう
親の介護に必要な費用は親の年金や資産で行うことが基本です。
むやみに家族の資産を切り崩したりする前に生活保護や介護施設に入所するということを検討しましょう。
生活保護受給には
- 家やマンションなどの不動産や預金などの資産がないこと
- 病気やケガで働けない
- 生活保護以外の公的支援を受けることができない
- 親族からの支援が受けられない
という事が条件になります。
介護施設を親のお金で利用する
上記で触れたように親の介護に必要な費用は親の年金や資産で行うことが基本です。
親の資産状況に余裕がある場合、かつ十分な介護力が用意できない場合は介護施設に入居することも立派な選択です。
介護施設は継続的に一定額の費用負担が必要ですが
- 普段の介護力は施設にお任せできる
- 家族の時間ができる
- 親の安全が確保される
というメリットを受けることができます。
そのために親の金融資産をしっかりと把握しておくことも重要です。
公的制度・介護サービスを利用する
積極的に介護サービスを利用することも負担を減らすために非常に重要です。具体的には下記のようなサービスをうまく活用しましょう
デイサービス・訪問介護などの在宅サービス
自宅で介護していくうえで、介護保険サービスで使えるデイサービスや訪問ヘルパーを活用することで介護負担を軽減することができます。
デイサービスは送迎付きで日中を施設で過ごしていただき入浴や食事のサービスを受けることができ、定期的に介護者の時間を開けることができます。
また、専門的なサービスや苦手な介護についてはホームヘルパーを自宅に呼び介護を行ってくれる訪問介護などを活用しましょう。
介護保険サービスの利用料金は1~3割の自己負担で受けることができます。
公的支援の活用
市区町村によっては、おむつ代の補助や配食サービス、福祉用具の貸出など独自の事業を行っています。こういったサービスも市区町村の窓口や地域包括支援センターに問い合わせてみてください。
兄弟姉妹間のトラブルを防ぐために
いかがだったでしょうか。
親の介護を原因に兄弟姉妹間でトラブルが生じ、疎遠になってしまったりすることは珍しいことではありません。
また、そのようなトラブルが生じると主たる介護者に負担が集中し健康被害や高齢者虐待などを起こす原因にもなります。
これらのトラブルを防ぐためにできれば親が元気なうちに将来のことについて本人様を含めた話合いを行うということがもっとも重要です。
また様々な介護サービスや公的な補助を使うことで負担を減らすこともできますので積極的に活用しましょう。
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