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【2022年から変更】勤続5年以下だと退職金の税金が増える?「退職所得課税の適正化」とは

 

退職金は、長い老後生活をおくるために必要な資金であるという考えから、所得税がかかりにくくなっています。 

 

これまで退職金は、定年退職をするときに受け取るのが一般的でした。しかし現代の日本では、転職者が増えていることもあり、退職金を受け取るタイミングが定年とは限らなくなってきています。 

 

そのようななか、2022年からは「退職所得課税の適正化」が始まりました。これにより、勤続5年以内に勤務先を退職して退職金を受け取ると、これまでよりも多くの所得税がかかる可能性があります。 

 

今回は、退職所得課税の適正化の内容や増税対象になる人の特徴をわかりやすく解説します。 

退職金は税金が優遇されている!

 

「退職所得課税の適正化」を理解するためには、そもそも退職金にかかる所得税がどのように優遇されているのかを理解する必要があります。

 

退職金は、給与や賞与とおなじく所得税の課税対象です。所得税は、課税の対象となる所得の金額が大きいほど、税率が高くなっていきます。そのため、1,000万円や2,000万円などまとまった金額の退職金を受け取ると、多額の所得税がかかる可能性があります。

 

退職金を受け取っても、所得税の負担が重いと老後の資金が足りなくなって生活が苦しくなるかもしれません。そこで退職金にかかる所得税を計算するときは、以下の3点が適用されて税金が優遇されるようになっています。

 

  • 退職所得控除
  • 2分の1課税
  • 分離課税

 

1つずつみていきましょう。

 

退職所得控除

退職金のすべてが、所得税の課税対象になるわけではありません。受取額のうち以下の計算式でもとめられる金額は、退職所得控除として課税対象外となります。

  • 勤続年数20年以下の場合:40万円×勤続年数(最低80万円)
  • 勤続年数20年以上の場合:800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 

例えば、退職金の受取額が3,000万円、勤続年数が38年である場合、退職所得控除の金額は以下の通りです。

  • 退職所得控除額=800万円+70万円×(38年-20年)
  • =800万円+70万円×18年
  • =2,060万円

 

よって退職金3,000万円のうち、2,060万円には所得税がかかりません。

 

2分の1課税

所得税の課税対象となるのは、退職金から退職所得控除を差し引いた金額の2分の1です。

 

仮に退職金3,000万円、退職所得控除金額が2,060万円である場合、所得税の課税対象となるのは(3,000万円−2,060万円)×1/2=470万円となります。

 

分離課税

所得税の税率は5〜45%であり、課税の対象となる所得が一定金額を超えると、超過した部分にのみ高い税率が適用されます。

 

退職金と給与や賞与を合算して所得税を計算すると、税率が高くなって税負担が大きく増えてしまうかもしれません。そこで税負担が重くなるのを防ぐため、退職金にかかる税金については、給与をはじめとした他の所得とは分けて税額が計算されます。

 

 

短期退職をすると税の優遇を受けられない?退職所得課税の適正化とは

退職所得課税の適正化は、勤続年数5年以内で勤務先を退職して退職金を受け取る人に適用される制度です。

 

退職金の受取額から退職所得控除を差し引いた金額のうち300万円を超える部分については、2分の1課税が適用されなくなります。

 

これまでも、法人の役職員などが5年以内で退職して退職金を受け取ると、受取額にかかわらず所得税を計算するときは2分の1課税が適用されませんでした。それが2022年以降は、法人の役職員でなくとも、勤続5年以内で退職をして退職金を受け取ると、受取額の一部に2分の1課税が適用されなくなります。

 

退職所得課税の適正化が導入されたのは、不当な節税を防止するためです。企業の中には、毎月の給与を抑える代わりに退職金額を増やして税負担を軽くしようとするところがありました。そこで退職所得課税の適正化が導入され、短期間で退職した人が高額な退職金を受け取ると、所得税がかかりやすくなったと考えられます。

 

 

退職所得課税の適正化で税負担はどう代わるのかシミュレーション

では、退職所得課税の適正化が始まったことで、退職金に課せられる税額はどのように変わるのでしょうか?

 

勤続年数5年の人が、800万円の退職金を受け取るケースで考えてみましょう。

 

この場合、退職所得控除の金額は、40万円×5年=200万円です。よって退職所得の金額は、800万円−200万円=600万円です。

 

この金額は、退職所得課税の適正化が導入される前後で変わりはありません。

 

 

適正化が始まる前の税額

適正化が始まる前は、600万円のすべてが2分の1課税の対象になるため、課税対象となる金額は600万円×2分の1=300万円です。

 

課税の対象となる退職所得が195万〜329万円である場合、所得税の計算式は「課税退職所得金額×10%−97,500円」です。よって税額は「300万円×10%−97,500円=202,500円」となります。

 

 

適正化が始まったあとの税額

適正化が始まったあとは、600万円のうち2分の1課税の対象となるのは300万円であり、残りの300万円はすべてが課税対象となります。よって課税退職所得金額は「300万円×1/2+300万円=450万円」です。

 

課税退職所得金額が450万円である場合、税額の計算式は「課税退職所得金額×20%−427,500円」です。税額を計算すると「450万円×20%−427,500円=472,500円」となり、適正化がはじまる前よりも税負担は27万円増える結果となりました。

 

 

 

まとめ

退職所得課税の適正化が始まったことで、短期間で勤務先を退職して受け取った退職金に所得税がかかりやすくなりました。

 

この適正化の影響を受けるのは、勤続年数5年以内で退職をし、かつ退職金の受取額から退職所得控除を差し引いた金額が300万円を超える人です。すべての人が、影響を受けるわけではありません。

 

とはいえ、人々の働き方や退職金の支給額、支給される意味合いは変化してきているため、今後も制度が改正される可能性はあります。ご自身が受け取れるお金に関する制度が改正されていないか、日ごろから確認すると良いでしょう。転職した際の注意点については、以下の記事でも解説しています。あわせて参考にしてみてください。

 

 

続けてご覧になっていただきたい記事はこちら:

転職時の保険の見直し方法。まずは社会保険と福利厚生を確認しよう

 

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