会社員は、病気やけがで働けなくなったとき「傷病手当金」を受給できます。しかし、働いていたころに得ていた収入のすべてをカバーできるわけではないため、必要に応じて民間の保険にも加入して備えることが大切です。
働けなくなるリスクに備えたいのであれば、民間の医療保険ではなく「就業不能保険」に加入することをおすすめします。民間の医療保険は、病気やけがの治療費はカバーできても、収入の減少まではカバーできない可能性があるためです。
今回は、働けないリスクに備えるときに役立つ就業不能保険の保障内容や、医療保険では働けないリスクに対処しきれない理由を解説します。
病気やけがで働けない人が年々増加中
近年、傷病手当金の受給者は増加傾向にあります。
厚生労働省の調査によると、傷病手当金の受給者は、平成22年度(2010年度)は約163万人でしたが、令和元年度(2019年度)には約213万人まで増加しています。
※出典:厚生労働省保険局調査課「医療保険に関する基礎資料〜令和元年度の医療費等の状況」
傷病手当金の支給額は、給与のおおよそ2/3です。支給期間は、支給がはじまった日から通算で1年6か月です。よって傷病手当金は、給与の全額をカバーできるわけではなく、支給開始日から通算で1年6か月が経過すると支給は止まります。
例えば、幼い子どもを育てている方や住宅ローンを組んで持ち家がある方は、働けなくなって収入が減少したあとも、教育費の支払いやローンの返済は続くでしょう。たとえ傷病手当金を受給できたとしても、療養期間が長期にわたるといずれ家計がひっ迫するかもしれません。
傷病手当金は会社員にとって心強い存在ですが、あくまで当面の救済措置であると考えられます。働けないリスクに備えるためには、民間の保険にも加入することが重要です。
民間の医療保険は働けなくなるリスクへの備えとして不十分
病気やけがに備える保険として、民間の保険会社が取り扱う「医療保険」をイメージする方も多いのではないでしょうか。
民間医療保険は、病気やけがの治療費を保障する保険であり、治療を目的とした入院または手術をしない限り給付金は支払われません。そのため「しばらく自宅で療養してください」と医師から指示された場合、民間医療保険の給付金は基本的に受け取れないのです。※特約を付けていれば給付金を受け取れることがあります。
また医療保険の入院給付金には、支払いの対象となる入院日数に上限があります。1入院あたりの上限日数は、30日、60日、120日が一般的です。例えば、上限日数が60日である場合、大病をわずらって入院をしても、60日を超えると給付金の支払いはストップします。
このように民間医療保険は、働けなくなるリスクに対する備えとしては不十分であるといえます。
働けなくなるリスクは「就業不能保険」で備える
働けなくなるリスクに備えられる民間保険は「就業不能保険」が代表的です。就業不能保険は、病気やけがで長期間にわたって働けなくなると、10万円や15万円など決まった金額の保険金・給付金を給与のように毎月受け取れる保険です。
受け取った保険金は、生活費や教育費、住居費などの支払いに充てられます。保険期間(保障が有効である期間)は「60歳まで」や「65歳まで」など一定期間です。
保険金の支払いが始まるのは、就業不能保険を契約するときに決めた「免責期間」が経過したあとです。 免責期間は、一般的に60日または180日となります。免責期間が終わったあとは、働けない状態が続く限り、保険期間が満了するまで保険金を受け取れます。
入院だけでなく在宅療養も保障
就業不能保険は、働けない状態(就業不能状態)になると保険金が支払われます。就業不能状態の定義は保険会社によって異なりますが、一般的には以下の通りです。
- 病気またはけがの治療を目的として病院や診療所に入院している状態
- 医師の指導にもとづいて自宅で療養している状態
- 病気やけがで一定の障害が残り、障害等級1級または2級の状態・または同程度の状態 など
医療保険とは異なり就業不能保険のほとんどは、入院や手術をしていなくても保険金を受け取れます。ただし商品によっては、がんや心筋梗塞など特定の疾病でなければ、保険金の支払い対象にならないことがあります。
うつ病をはじめとしたメンタル疾患も保障される就業不能保険もある
保険会社によっては、うつ病や統合失調症などの精神疾患も保障の対象とする就業不能保険を取り扱っています。
精神疾患が原因で仕事を休む人は少なくありません。健康保険を運営する団体の1つである協会けんぽの調査によると、傷病手当金を受給した人のうち約33%が精神及び行動の障害を理由としています。
※出典:全国健康保険協会「現金給付受給者状況調査(令和2年度)」
うつ病や統合失調症などが心配な方は、精神疾患も保障の対象である就業不能保険を選ぶといいでしょう。
ただし、働けなくなった理由が精神疾患である場合は、保険金の支払い期間や支払い回数などが制限されることがあります。保険金の支払い要件も保険会社によって異なるため、加入を検討するときによく確認することが大切です。
「就業不能保険」と「所得補償保険」との違い
働けないリスクに備えられる保険には、就業不能保険のほかにも「所得補償保険」があります。両者の主な違いは、以下の通りです。
就業不能保険 | 所得補償保険 | |
取扱保険会社 | 生命保険会社 | 損害保険会社 |
保険期間 | 60歳や65歳など一定の年齢まで | 1年や2年など一定期間※ |
免責期間 | 60日や180日など長期間 | 7日など短期間 |
保険金額 | 職業や年収に応じた上限が設定される | 契約前の1年間における平均所得の50〜70%が上限 |
※長期間にわたる補償が受けられる所得補償保険もあります。
「就業不能保険」は免責期間が長く、保険金の受取開始までに時間がかかりますが、最長で保険期間が満了するまで保険金を受け取れます。
「所得補償保険」」は、すぐに保険金を受け取れますが、受取期間は1年や2年と短期間であることが大きな違いです。そのため、傷病手当金を補填するために加入するのであれば、受け取り期間が長い就業不能保険のほうが適しているでしょう。
一方で、収入が少しでも減ると生活が困る人や、収入の減少をカバーするほどの貯蓄がない人は、所得補償保険にも加入して備えるのも方法の一つです。家族構成や資産状況、家計の収支などをもとに、ご自身に合った方法で働けなくなるリスクに備えましょう。
まとめ
働けなくなった場合、会社員であれば「傷病手当金」である程度収入を補填できます。しかし傷病手当金では全額保障されるわけではなく、そもそも自営業者や個人事業主には保障そのものがありません。
傷病手当金を受けられる人も受けられない人も、万が一に備えて民間の就業不能保険や所得補償保険を備えておくと安心です。
就業不能保険は受取期間が長く、保険会社によっては精神疾患による就業不能も対象となるため、傷病手当金ではカバーしきれない部分も備えられるのが特徴です。
一方で所得補償保険は免責期間と保険期間が短く、短期の補償を備えることに適しています。ご自身のライフスタイルや他の保険の加入状況をよく見て、適したほうを選択しましょう。
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