遺伝子解析技術の飛躍的発展などにより、人が病気で簡単に死ななくなる時代が来る!
長年不治の病として多くの人命を奪ってきた人類最大の敵である「がん」ですが、近年、遺伝子解析の技術が向上したことで治療の世界にも大きな変革が訪れようとしています。
20年後には人類ががんで死なない時代が本当に来るかもしれない――そんな夢のような未来が、すぐそこまで来ていると、まことしやかに囁かれているのです。
罹患率50%という恐怖
約70年前の日本人の平均寿命は、男女ともに50代でした。しかし2021年には女性の平均寿命が87.74歳と過去最高を記録しました。文明の発達とともに医療分野の高度な発展が背景にあるのは間違いありません。
そんな現代を生きる人類でも勝てていない病気こそが、がんです。今や2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで死亡する時代です。
がんとは一体、何なのか
結論から言えば、がん=遺伝子情報のコピーミスです。
例えば指をナイフで切ってしまっても時間が経てば指は元の形に戻ります。これは指の細胞が細胞分裂することで損傷部位を補完するからです。
細胞分裂は、1つの細胞の遺伝子情報をコピーしてもう1つの新しい細胞を作っています。遺伝子をコピーしているため、指の細胞は指の細胞として細胞分裂するようにできていて、決して他の組織の細胞に分裂することはありません。必ず損傷した部位と同じ性質を持った細胞が再生するのです。
一般的には、ある程度細胞が増殖した段階で自動的に細胞分裂は止まるようにプログラムされています。それにより過剰な細胞分裂を避け、損傷前と同じ形で再生できるのです。
しかし、タバコや放射線などの要因で遺伝子が傷付くと遺伝子情報の一部にコピーミスが生じてしまい、正常細胞とは異なる細胞、つまりがん細胞が生み出されてしまいます。
がんが不治の病である理由
がんが不治の病と言われる理由は主に2つの特徴があるからです。
- 止めどない細胞分裂
がん細胞の細胞分裂は自動的に止まらないため、増殖し続けるという特徴があります。成長して巨大化してくると正常な組織を圧迫し様々な症状をきたします。
- 正常細胞との類似性
体内には異物を認識して排除する、まるで警察のような免疫細胞が存在します。しかしながら、がん細胞は正常細胞の遺伝子情報の一部をコピーミスして発生したものなので、異物ではありますが免疫学的に正常細胞と非常に近いのです。免疫細胞は、より正常細胞と類似したがん細胞を見逃してしまう可能性が高いため、がん細胞は体内で成長しやすいのです。
がんと人類の闘いの歴史
現在に至るまで、人類もがんに打ち勝つために様々な治療法を模索してきました。現在の治療法はそれぞれの患者のがんの進行度や悪性度に合わせて、手術療法、化学療法、放射線療法などを組み合わせたものが標準的です。
手術療法や放射線療法の主な目的は、局所的ながん細胞の除去や縮小です。それに対して化学療法の目的は、がん細胞の増殖を抑制する薬を投与することでがん細胞の増殖や転移、再発を防ぐことです。
そして、今までに多くの化学療法、つまり抗がん剤が開発されてきました。
ではなぜ、がんに打ち勝つことができなかったのでしょうか。
既存の抗がん剤の主な作用機序は「細胞分裂を止めることで不用意な増殖を防ぐ」ことでした。しかし、前述したようにがん細胞と正常細胞は類似性が高いため、正常細胞にまで抗がん剤の影響が出てしまうのです。
特に、細胞分裂が盛んな腸の細胞や髪の毛の細胞には強く影響が出てしまい、嘔気や脱毛などの副作用が生じてしまいます。
つまり抗がん剤としての効果を高めれば高めるほど、正常細胞にも影響が出てしまうため、完全にがん細胞を死滅させることができないジレンマを抱えていたのです。
しかし、2000年代に入ってから個々の人の遺伝子配列を解析する技術が飛躍的に高まったことで、遺伝子に直接アプローチする「分子標的薬」という治療薬とそれを中心に据えた治療法が開発され、確立されました。
がんでも死なない時代は近い?
遺伝子解析技術の向上は医学の進歩に飛躍的な影響を与えました。例えば新型コロナウイルスの遺伝子配列はすでに解明されていて、ワクチンの開発に大きく役立ちました。
がん細胞は正常細胞と類似性が高いですが、遺伝子のコピーミスであるため、正常細胞とは異なるがん胞特有の遺伝子配列が存在します。
遺伝子解析によってウイルスやがん特有の遺伝子配列、つまり「マイナンバー」が分かってしまうようなイメージです。
開発が進む「分子標的薬」
「分子標的薬」はこの遺伝子の解析技術が生み出した「がんに対抗する薬」であり、患者さん個々の遺伝子情報をもとに、がんを引き起こす特定の遺伝子の異常を攻撃してがんを治療します。がん細胞の生存に必須な分子を攻撃し、がん細胞を縮小、もしくは死滅させるのです。正常細胞とがん細胞ではマイナンバーが異なる為、既存の抗がん剤と比較して分子標的薬は正常細胞への影響が少ないのです。
分子標的薬の開発は、乳がん、胃がん、血液がんから始まり、次第に難易度の高いがんに移行してきました。治療が難しいと言われる膵臓がんに対しても、2022年現在で4種類の分子標的薬が承認されています。
またこの技術は他の疾患にも応用可能です。例えば糖尿病はインスリンが分泌できなくなる、もしくはインスリンは分泌できても効果を示さなくなる病気です。前者を1型糖尿病、後者を2型糖尿病と言いますが、どちらも発症に遺伝的要因があることが判明しています。
すでに糖尿病の危険性を高める遺伝子配列は複数同定されていて、今後さらなる遺伝子解析が進めば、将来的に発症予測や発症前予防も可能になります。
新たなる技術
2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑博士らが開発した「免疫チェックポイント阻害剤」は、がん医療の世界における新たな技術として非常に注目されています。
体内の警察である免疫細胞は異物を認識すれば攻撃し排除します。特に免疫細胞の中でもT細胞と呼ばれる細胞はがん細胞を攻撃する特性を持っていますが、がん細胞にはT細胞にブレーキをかける能力があり、これを免疫チェックポイントと言います。この能力によりT細胞はがん細胞を排除しきれないのです。
免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞がT細胞にかけているブレーキを外すことで、がん細胞への攻撃を強めることが可能になります。
既存の抗がん剤や分子標的薬とは全く異なるアプローチでの治療であり、がん治療に変革をもたらす可能性が高いと言われています。
がん治療の将来への期待
標準的治療に加え、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤ががんで苦しむ患者さんにとっての新たな希望になることは間違いありません。しかしながら、実際の臨床では多くの課題があります。
2019年に「がん遺伝子パネル検査」が標準治療終了後という条件付きでようやく保険適応になりましたが、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の中には保険適応外のものもたくさんあります。ご存知の通り、保険適応外の医療を受けた場合は国民皆保険制度による3割負担や高額医療費制度は利用することができず、全額自己負担となってしまいます。
せっかくがんや糖尿病に対する医療が発展しても保険制度が追いついていないため、実際に多くの患者さんは高額な医療費を負担できずに苦しんでいます。健康なうちに先進医療を対象とするがん保険などに加入しておくことが現状唯一の対抗策と言えますが、実際にがんになってからでは加入できない保険もあるので計画性を持って備えておくことが人生を左右するかもしれません。
まとめ:がんの治療法は新しくなるのか
現在、がん治療は分子標的薬と免疫チェックポイント阻害剤をどう組み合わせるか、その最適解を見つけ出すための段階に入っています。
近い将来、これらの課題が解決され、保険制度が整備されて、多くの患者さんががんでも死なない、そんな時代が本当にやってくるかもしれません。
また、まだ研究段階ではありますが、世界中で患者数が増加中の糖尿病にも、そう遠くない将来には「画期的な治療法」が見つかるかもしれません。
とはいえ、現代を生きる私たちは、「今の医療」の恩恵を受けることが第一優先。
今はまだ保険適応とならない治療法も、場合によっては「受けたい治療」となるでしょう。
その時あなたは本当に、「莫大となる医療費」を出せますか?
【エピローグ】 もし、このようにお考えなら
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