日本では消費税に対する不満が取り沙汰されがちです。
一方で、消費税の増収分は「全額が全世帯型の社会保障に充当されている」ことはご存じでしょうか?
つまり、消費税によって日本の社会保障制度は機能しています。もし消費税がなければ公的医療保険サービスの維持ができず、各自が任意で民間の生命保険に加入する社会になっていたかもしれません。
消費税が少なく公的医療保険(社会保障)が機能していない社会と、消費税が多くともある程度公的医療保険(社会保障)が機能している社会。一体どちらがいいのでしょうか。
米国と北欧の医療制度を解説しながら、日本の皆保険制度の意義を考えてみましょう。
世界の公的医療制度は大きく分けて3タイプ
公的医療制度の仕組みは国によって違いますが、大きく分けると以下の3つです。
- 民間保険システム:米国で採用されている。国民一般に対する公的医療サービスがなく、多くの国民は民間の医療保険に加入する。ちなみに米国では消費税がなく、州や郡によって異なる小売上税がある
- 国営システム:英国や北欧で採用されている。税金を財源として広く国民に無料で公的医療サービスや手厚い福祉を提供しているため、日本や米国よりも税金が高いのが特徴。(※スウェーデン、デンマーク、ノルウェーの北欧三か国は消費税率(付加価値税)が25%)
- 社会保険システム:日本で採用されている皆保険制度。国民の多くが公的医療サービスを利用しており、その財源は国民から徴収する社会保険料+税金(消費税含む)でなりたっている
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
米国の民間保険システムとは
米国では、公的医療保険制度ではなく民間医療保険を主体とした民間保険システムを採用しています。
米国で公的医療保険制度を受けられるのは、高齢者や障がい者といった一部の人だけです。
大半の国民は企業が提供する民間の医療保険に加入していますが、無保険者も一定数います。
2010年のオバマ政権下では、こうした無保険者を減らして多くの国民が医療を受けられるように医療保険の改革に着手しました。
しかし2023年現在、米国で高額な医療費と無保険者が一定数いる状況は今も続いています。
競争社会ならではの医療保険制度と高額な医療の現状を見てみましょう。
米国の公的医療保険は高齢者と障がい者のみ対象
米国にある公的医療保険制度は、基本的に以下の2つです。
- メディケア(Medicare):65才以上の高齢者と65才未満の障がい者を対象としている
- メディケイド(Medicaid):生活保護受給者を対象としている
上記の他に、特定の子供が加入できる児童医療保険プログラムや、退役軍人を対象とした保険制度などが存在します。広く大多数を対象とした公的医療保険制度はありません。
公的医療保険制度の対象にならない国民の大半は、勤務先の企業が加入している民間医療保険に加入しています。
ただし、すべての企業で民間医療保険を提供しているわけではなく、自営業者については自分で民間医療保険に加入するしかありません。
そのため公的医療保険にも民間医療保険にも加入していないまったくの無保険者が一定数いるのが現状です。
米国は世界的に医療費が高く、州や病院によっての金額も違う
医療保険がない無保険者が多いうえに、米国は日本に比べて元々の医療費が非常に高額です。
州や病院によっては、出産時の入院費などが無保険状態で100万円以上かかるケースもあり、救急車を呼ぶにもお金がかかります。
財ニューヨーク日本国総領事館によると、米国の一般的な治療費水準は以下のとおり。
- 急性虫垂炎で入院・手術(1日入院)を受けた場合:1万ドル以上
- 歯科治療:歯一本の治療につき約千ドル
特にマンハッタン区は同区外の医療費の2~3倍ともいわれていて、住んでいる場所によってはさらに高額な医療費がかかります。
このように米国では元の医療費が高いうえに無保険者もいることから、個々で受けられる医療に大きな格差があるのが現状です。
他方で、場所や病院によって医療費が異なる自由競争を基本とした医療制度のおかげで、医師や病院が競い合い、医療が発展するというメリットもあります。
ただ、お金を払うだけその分良い医療を受けられることは、裏を返せば経済的に余裕がない人は良い医療を受けられないことを意味します。
米国の医療システムは、競争社会ならではの良さ・悪さがあると言えるでしょう。
北欧や英国の国営システムとは
北欧や英国の医療は、主に税金や国民保険料を財源とし、すべての国民にほぼ無料で公的医療サービスを提供する国営システムです。
米国と違い、すべての国民が平等に医療サービスを受けられる公平性が特徴です。
医療費が無料という安心感は大きなメリットですが、主な財源を税金とするため税金が高くなりやすいというデメリットもあります。
また、幅広く公的医療サービスを提供するために、医療へのフリーアクセスが制限されています。これは日本との大きな違いです。
北欧や英国の医療は無料だがフリーアクセスは制限されている
英国のNHS(国民保健サービス)では、大半の病院がNHSに属する国営となっているため、NHSで受ける医療については原則無料です。(※民間のプライベート医療も1割程度ある)
北欧も同様で、福祉国家として話題の北欧のデンマークでも医療は原則無料です。
しかしどちらの国も、無料で医療サービスを提供するために一定の医療システムが構築されていて、受診の流れや受診する病院がある程度決まっています。
たとえば英国では診療所の後に病院、デンマークでは家庭医の後に病院という流れが決まっており、いきなり病院に行くことができません。
特に英国は病院へのアクセスが厳しく、病院に行くにも1か月~数か月待ちになると言われるほどです。
デンマークについても家庭医の診断が厳しいため、簡単に薬を出してもらえずに必要最低限の治療しか行われない側面があるようです。
日本では、全国都道府県どこでも一定の負担で自由に病院・医師を選ぶことができ、比較的少ない待ち時間で医療を受けられます。
しかし、英国や北欧では日本のようなフリーアクセス機能はなく、制限された中で無料の医療が提供されているのです。
北欧と英国の消費税に相当する税金は20%超え
北欧や英国では手厚い医療・福祉サービスを提供するために、日本の消費税に相当する付加価値税の税率が高くなっています。
英国の付加価値税はほとんどの商品やサービスで20%、家庭用燃料や電力などは軽減税率5%、食品や水道水などは0%です。
加えて、公的医療サービスの財源となる国民保険料の負担が必要になります。
福祉国家と名高いデンマークの付加価値税については、25%もあります。
デンマークは医療だけではなく、教育費や子育て費といった幅広い福祉・教育体制を提供しており、それ故に世界的にも「税金が高い国」と言われています。
また、平均的な所得であれば所得税は55%程度、つまり給与の半額以上におよびます。
公的医療サービスを無料で受けられる裏側には、さまざまな制約と高額な税金があるのです。
まとめ
米国の医療は格差が激しい分医療技術が発展しやすく、お金さえ出せば良い医療を受けられます。
ただ、経済的に貧しく医療保険に加入できない層にとっては、病院で薬をもらうことすらままなりません。
北欧や英国は誰でも無料で医療サービスが受けられて、競争社会の米国とは反対の公平な医療体制が特徴です。
一方で、医師や病院は自由に選べず、すぐに診療してもらうこともできません。
医療へのアクセスに制限があるうえ、税金が高いため自由度は低いと言えます。
両国の間にある日本では、原則すべての国民が公的医療保険制度に加入し、2~3割負担で医療サービスを受けることができます。
医療費はかかるものの自由に病院を選べて、消費税は10%。不足があれば民間の医療保険に加入して保障を補うこともできます。
ベースにしっかりとした公的保障がありながらも、ある程度自由度が高くバランスの取れた医療を提供しているのは、日本の良さではないでしょうか。
実際、日本の社会保障制度は優れています。
民間の保険を考える場合は公的保障をふまえたうえで検討しなければなりません。
ところで、皆さんはご自身が受けられる公的保障を詳細に把握していますか?
日本の公的保障は加入している健康保険によって異なるうえ、企業勤めであれば福利厚生による保障もあります。
本来民間の保険はそれらをすべて把握したうえで加入するものですが、前提として公的保障や福利厚生を詳しく把握できていると答えられる人は多くありません。
一人ひとり保障が違うのに、どうやって把握したらいいの?と思う人もいるでしょう。
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