日本が本格的な少子高齢化・人口減少時代を迎えつつある中、政府は全ての世代が能力に応じて支え合い、ライフステージごとに必要な保障を受けられる「全世代型社会保障」を提唱しています。
しかし、現実には少子高齢化には歯止めが利かず、現役世代への負担が強まる一方であるのが現状です。
日本の未来のために少子高齢化・人口減少の流れを変えるのは至上命題といえますが、果たして全世代型社会保障という取り組みは現実的なのでしょうか?
今回は全世代型社会保障が抱える4つの問題点の指摘を通じ、現役世代が考えるべき対策についてお話しします。
全世代型社会保障が抱える4つの問題点
日本が突き進みつつある少子高齢化・人口減少の問題に対する取り組みとして、政府は令和元年(2019年)9月に「全世代型社会保障検討会議」を設置し社会保障全般にわたる持続可能な改革を検討しました。
しかし、2度の中間報告を経た令和2年(2020年)12月に閣議決定された改革案では、現在日本が社会保障に抱える問題の根本的な解決につながらない4つの問題点が浮き彫りとなったのです。
【課題1】高齢者向け医療の供給不足
令和2年12月に閣議決定された「全世代型社会保障改革案」において、後期高齢者の一部の医療費負担を1割から2割に引き上げられました。
これは後期高齢者の自己負担増により、現役世代の5倍ともいわれる後期高齢者の医療費の発生を抑制する狙いがありますが、なぜ後期高齢者が高額の医療費を必要としているのかという根本的な問題の解決には至っていません。
後期高齢者の医療費が増える根本的な原因のひとつに、高齢者が適切な医療を選択できる環境になく、無駄な通院を繰り返す点が指摘されています。
日本は患者が医療機関を自らの意思で選択できますが、患者側に正しい知識が無い場合、本来必要な治療につながらない診療を受けるリスクが高まります。
しかし、全ての患者が医療知識を身につけるのは現実問題として不可能です。
そのため、あらゆる病気への対応が可能であり、必要に応じて大病院等とのパイプ役となれる臨床医を各地域に配置するのが地域医療の理想形です。
今回の改革案では患者側の負担増加による通院の抑制が図られていますが、現実には高い費用をかけてもこれまでと変わらない通院を繰り返すか、通院を控えた挙げ句に病気の悪化を招いてしまうかのいずれかになることが懸念されるとの見解があります。
残念ながらこの改革案には、不要な医療行為が発生する根本的な問題の解決という視点が欠けていると言わざるを得ない可能性が否めません。
【課題2】有名無実な年金受給年齢の繰り下げ制度
平成24年(2012年)の法律改正により、厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳へ段階的に引き上げられることになりました。
発足当初から支給開始が65歳とされていた国民年金と足並みを揃える形になっています。
また、令和4年(2022年)4月より年金受給開始年齢の繰り下げが始まり、受け取り開始を最長で75歳まで延長できるようになりました。
繰り下げは年金の開始時期を遅らせた分、受給開始後に受け取れる年金を増額する仕組みです。1カ月繰り下げるごとに0.7%増えるため、65歳から75歳まで繰り上げれば、84%増額した年金を受け取れるようになります。
一見、定年後も働き続ける高齢者に寄り添った制度のように見えますが、一方の支給側からすれば、年金受給時期を繰り下げられても支給総額にはあまり変化がないため、財政負担が軽くなることはありません。
また、年金制度は現役世代の負担増が大きな問題として取り沙汰されていますが、高齢者への年金支給額が変わらない以上、現役世代が負担する総額に変化はありません。
それどころか、少子化に伴い現役世代は減少し続けていますので、一人当たりの負担で見れば少なくとも改善する方向への期待は薄いというのが現実です。
すなわち、年金の受け取り方が変わるだけで、年金制度が抱える問題を根本的に解決するものではないと言わざるを得ません。
【課題3】70歳まで再雇用義務づけ
令和3年4月1日に施行された高年齢者雇用安定法により、現行の企業は従業員の雇用を70歳まで継続することが義務づけられました(当面は努力義務)。
多くの企業が抱える人手不足問題の解消や、従業員が年金受給開始するまでの収入源確保には有効ですが、その一方で雇用の流動化といった面では課題が残ります。
60歳を越えても実力を発揮できる人材にとって、70歳までの雇用義務は再転職の機会を奪われることにつながります。
一方で、職場に貢献しないまま高給取りとなったシニアが3割程度の賃金カットで会社に居座りやすくなると、それよりも低い賃金で働く現役世代の士気にも影響があるでしょう。
近年は、若者世代を中心に転職が当たり前であるという文化が広まりつつありますが、高齢になるほど終身雇用を前提とした文化は根強く残っています。70歳までの雇用義務化は事実上の終身雇用期間の延長とも捉えられてしまうため、現役世代の蓋となる高齢者人材を生み出す土壌となってしまう懸念を否定できません。
【課題4】不足する若年層への社会保障
全世代型社会保障改革案では、不妊治療への保険適用や男性の育児休業の取得促進、待機児童の解消案といった若年層向けの方針が数多く盛り込まれました。
これらの案は現役世代が働きやすい環境作りにつながる改革は望ましいと一定の評価を受けています。
一方、この方針に対する具体的な改善案はほぼ提示されていないのが現状です。
年収1,200万円以上世帯への児童手当の給付停止などネガティブな施策については具体性を伴っているだけに、ポジティブな施策の具体化を待望する声が少なくありません。
ちなみに、過去には待機児童の解消に向けた保育所等の無償化の実現といった実績がありますが、受け皿となる保育所の不足、保育士等の人材の不足といった根本的な問題は未だ解決に至っていません。
厚生労働省が発表した人口動態統計の速報では、令和3年の出生数が80万人を割り込み過去最低を記録しました。この結果は、日本が“産みにくく、育てにくい国”であるひとつの証左であり、少子高齢化を食い止めるためにも、今こそ抜本的かつ具体的な解決策の提案が待たれるところです。
まとめ
国は「全世代型社会保障」をキーワードに掲げた社会保障制度の改善を進める一方、残念ながら未だに高齢者優遇・若年者冷遇の傾向が色濃く残る傾向は否定できません。
今後年代の変化と共に社会全体の考え方が変わることで、社会保障制度の改革が具体性を持ち、現役世代が過ごしやすい社会になる可能性は残されていますが、変化や改革には時間が必要であるため、その日が到来するのを待てないという人も多いでしょう。
こうした日本国における現状を踏まえ私たちにできることは「自助努力の強化」です。「強化」と言うと、どうしても「増やす」という印象が拭えず「これ以上の自己負担は勘弁してほしい」といった声が聞こえてきそうですが、ここで言う「強化」とは、言い換えれば「効率化」だと理解いただくのが適切です。
家計における限られた自己負担額(枠)を効率的に活かすには、社会保障制度や勤務先の福利厚生制度など、自己負担を増やすことなく得ることができている保障に目を向け、自助努力を最低限に抑えることが肝要です。
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