生活保護を受給中であっても障害年金を請求することはできますが、同時に受け取る場合は…
筆者は地方中核病院に勤務する医師です。
タイトルの疑問への答えを先にいうと「収入は、減りも増えもしません」。生活保護の受給額と障害年金の受給額の合計は一定になるように調整されるからです。
この記事では、その理由と背景を中心に生活保護と障害年金について解説します。
日本では、生活に困窮してしまった人を支えるセーフティーネットがあります。例えば病院では病気やケガで生活に不安がでてしまう人が数多くいます。「生活保護」や「障害年金」はセーフティーネットの代表例です。わたしが診察している患者さんにも病気やケガが原因でそれらを受給している人は多いです。いずれも自分で働いて生活費を十分に得ることができなくて、困窮してしまうときに役に立つ制度です。
障害年金を受け取ると、その分だけ生活保護の受給額が減る
生活保護を受給中でも、条件を満たしていれば障害年金を請求することができます。
障害年金を受給するためには、年金保険料を納めていて一定の障害状態にあるといった障害年金の受給要件を満たしている必要があります。
よくある勘違いに「生活保護と障害年金を両方受け取ることで、収入が増える」というものがあります。実際は、生活保護と障害年金はもらえる額が総額で変わらないように調整されるため、トータルの受給額が増えることはありません。
障害年金は生活保護受給者の「収入」にあたります。
収入がある場合は生活保護費から差し引かれる原則があります。
障害年金を受給できる場合は、生活保護にある障害者加算に該当する可能性が高いです。この場合は、障害のない人が受給する生活保護の受給額よりも障害者加算分だけ受給額が増加します。
生活保護とは?
生活に困窮している世帯に対して、国が保障をする制度です。憲法で定められている「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を背景にしています。
生活保護を受けるための条件は、以下のように解説されています。 (厚生労働省より)
- 資産の活用
- 能力の活用
- あらゆるものの活用
- 扶養義務者の扶養
つまり、働ける人は働く、公的な制度で利用できるものは利用する、持っている財産で売却できるものは生活費にする、扶養義務者がいるなら扶養に入るということです。
これらを活用できる時点では生活保護を受けることができません。利用できるものを精一杯活用してもどうしても生活に困窮してしまう状態であれば、生活保護を受け取ることができます。
生活保護と公的年金の関係
生活保護の受給条件にある「あらゆるものの活用」には、公的年金や公的補償の一時金なども含まれます。
生活保護を受給していて世帯収入がある場合は、最低生活費と収入との差額が支給されることになります。この収入には以下のようにあらゆるものが含まれます。
- 給料
- 仕送り
- 保険金
- 年金
また、多くの場合で生活保護費は障害年金を上回ります。障害年金が受給できる場合は、差額のみが生活保護から受け取れます。あくまで、生活保護は障害年金を利用した上で利用することができる制度ということです。
生活保護を受けていると支払いが免除になるもの
障害年金ではない制度ですが、生活保護の受給中は税金などで支払いが免除になるものがあります。
免除になる代表的な税金・費用は以下のとおりです。
- 所得税・住民税
- 国民年金保険料
- 健康保険料
- 介護保険料
- 医療費
- NHK受信料
- 水道の基本料金
- 雇用保険料
- 保育料
障害年金とは?
障害年金とは、病気やケガで働けない人が受け取ることができる公的年金のことです。主に現役世代の人が対象になります。
障害年金は「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2つがあります。
自営業者など国民健康保険に加入している人は「障害基礎年金」のみ受給できます。また、会社員や公務員など健康保険に加入している人は「障害基礎年金」と「障害厚生年金」を受け取ることができます。
障害年金は生活保護で規定されている「収入」に含まれます。
障害基礎年金や障害厚生年金の受給額は障害等級 (1〜3級) とそれまでの収入によって変化します。以下に概要を示します。
- 障害基礎年金 (令和4年)
1級=972,250円+子の加算額
2級=777,800円+子の加算額
子の加算額は
2人まで、子ども1人につき223,800円
3人目以降、子ども1人につき74,600円
- 障害厚生年金 (令和4年)
1級=(報酬比例の年金額) × 1.25 + 配偶者の加給年金額(223,800円)
2級=(報酬比例の年金額) + 配偶者の加給年金額(223,800円)
3級=報酬比例の年金額(最低保障額 583,400円)
3級に該当しない場合でも、軽い障害が残る場合に障害手当金 (一時金) が支給されます。障害厚生年金は障害基礎年金よりも手厚く、障害等級3級以下でも年金・一時金を受給することができます。
生活保護よりも障害年金が優先
生活保護と障害年金を両方受給できる場合は、障害年金を先に申請する必要があります。生活保護は「あらゆるものを活用して」それでも生活に困窮する場合に利用できるセーフティーネットだからです。障害年金が活用できる人は、障害年金を受け取る必要があります。この場合に生活保護だけを受給する状況と生活保護と障害年金を受給する状況では受け取る金額に差はありませんが、必ず障害年金を受給する必要がある仕組みになっています。
障害年金は「収入」ですから、生活保護を受給するためには利用できる収入は全て受け取る必要があります。これは障害年金に限らず、他の公的年金や社会保障制度でも同じことがいえます。また、安易に生活保護を受給すると、生活保護には制限・デメリットも多くありますので注意をしましょう。
生活保護を受給することで起こるデメリットについて解説します。
障害年金だけで生活すれば生活保護のデメリットは考慮しなくていい
障害年金を受け取っている人は、生活保護を新たに申請することは慎重に考えるべきです。
生活保護の方が多く金額をもらえるため、経済的には安定しますが障害年金にはないデメリットが多くあります。
- 引っ越しの必要がない
- 扶養義務がある親族にバレない
- 資産を処分しなくていい
- 自由に病院に通える
- 働いて収入を増やせる
引っ越しの必要がない
生活保護には家賃を補助する「住宅扶助」があります。生活保護受給者は住宅扶助で補助される範囲内での家賃の物件にしか住めません。例えば住宅扶助が4万円であれば、家賃が4万円以下の物件に引っ越す必要があります。
障害年金を受給する場合に、住宅の家賃に制限はありません。
扶養義務がある親族にバレない
生活保護を申請するときに、身近な親族で扶養義務がある人に照会があります。生活保護を受給する前に、周囲で扶養ができる人を確認する目的です。このときに、生活保護を申請したことが、親族に知られてしまうことになります。
障害年金は扶養義務とは全く関係のない制度です。
資産を処分する必要がない
生活保護を受ける際には、資産やぜいたく品を原則として所有することができません。
例えば土地、持ち家、車の所有であったり、他には生命保険の加入やクレジットカードの所有などは一定の制限があります。車は通勤に絶対必要など生活を維持するための理由があれば良いですが、レジャーに使用することはできません。
障害年金を受給する場合は、資産やぜいたく品の保有に制限はありません。
自由に病院を選べる
生活保護の受給者は、指定された病院しか受診できません。
指定医療機関でなければ、自分が希望するかかりつけ医の診察を受けたいという希望は通りません。障害年金の受給に、受診できる病院の制限はありません。
働いて収入を増やせる
生活保護を受給している場合、労働収入も生活保護費から差し引かれます。一定額を超えて生活保護受給を停止するまで、受け取れる上限は変わりません。障害年金の受給の場合は、労働収入が増加することで障害年金の受給額が減少するということはありません。
障害年金は65歳までに申請が必要
障害年金を請求できる年齢は、原則65歳までです。
65歳以降も受け取れる年金で、老齢年金と同時に受給しても調整はありません。申請しておくことで、同様の障害状態が続くのであれば収入増加が見込めます。一定の障害状態が続く可能性があれば、申請すべきです。障害年金は、受給条件を満たしているようであればできるだけ早く申請しておいた方が良いでしょう。
まとめ
生活保護を受けている人で、一定の障害状態にある人は障害年金を受給する必要があります。障害年金を含めたあらゆる手段を利用した上で、それでも生活に困窮する人が利用できる制度だからです。また、障害年金は収入として見なされるため、生活保護と合わせると受給額が増加するということはありません。
障害年金は65歳までに申請しないと受け取れないため、条件がそろうのであれば早いうちに申し込みましょう。生活保護が打ち切られても障害年金は利用できます。生活保護では制限などのデメリットも多く、障害年金で生活を賄えるのであれば不必要に受け取らない方がいいです。自身が障害年金をどの程度もらえるのかも、把握しておきたいですね。
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