「焼肉低血糖」ってなに?「インスリン注射は最後の手段」それは大きな誤解!?
糖尿病治療の一つであるインスリン注射。飲み薬よりもすぐに効果が表れるインスリン注射ですが、本当に副作用は無いのか、日常生活に支障が無いかなど、いろいろ気になる人もいるのではないでしょうか。
「医師から「インスリン注射を始めましょうか」と言われたら……。だれでも、どうやって打つのか、いつ打つのか、そして何よりも副作用が出て日常生活や仕事に差し支えることはないのだろうかと心配になるはずです。しかし、最近では積極的な意味で評価されています。糖尿病の進行を遅らせ、結果的に合併症から体を守ることにもなる。インスリン注射の副作用について日本糖尿病学会糖尿病専門医の根岸先生に、詳細を伺った。
副作用で起こりやすいのは低血糖
糖尿病の治療にインスリン注射がありますが、副作用はあるのでしょうか?
ありますね。そんなに珍しいことではありません。糖尿病はインスリンの出る量が少なくなったり、分泌されても働きが低下して高血糖の状態が続く病気です。そこで、治療として血糖を下げるために使うのですが、これが効きすぎて血糖が下がりすぎることがあり、低血糖になるのです。
でも、糖尿病になったからといって、すぐに始めるわけではないですね?
もちろんです。日本人に多い2型糖尿病の患者さんの場合は、食事や運動、内服薬などの治療をしても血糖値のコントロールができず、高血糖になってしまう場合に治療をすることになります。
1型糖尿病の患者さんの場合は、インスリンを分泌する膵臓の細胞が壊れているので、当初からインスリン注射による治療が中心になります。
低血糖になった時はすばやくブドウ糖を
低血糖というのは、どんな症状が出るのですか?
心臓がバクバクしたり、冷や汗が出たりするのが低血糖の軽い症状です。それを放置しておくと、昏睡や意識障害となって命が危険にさらされることもあります。
ですから、治療中でも車に乗る患者さんには、乗る前に血糖値を測るようにしてもらっています。また、血糖値が80mg/dl以下だったら、何か糖質を食べてから乗るように、とも言っています
。
確かに、運転中に低血糖になったら大変ですね。
車の運転中に限らないのですが、もし低血糖になってしまったら、すぐに血糖が上がるブドウ糖をとる必要があります。よく私は、「オロナミンCを1本持っているといいですよ」と患者さんにいいます。飴やチョコレートなどは消化吸収に時間がかかりますから、緊急時には不向きです。清涼飲料水やジュースのほうがいいですね。
なぜ低血糖になるのでしょう?
血糖値が極端に低くなると、私たちの体も脳もエネルギー不足になってしまい危険な状態になるのです。血糖値は、高いよりも低過ぎるほうがはるかに怖いのです。
低血糖は、インスリン注射や内服加療中に十分な食事がとれなかったり、食事の時間が遅れたり、空腹の時に激しい運動をしたり、飲み薬やインスリンの量を増やしたりした時などになりやすいものです。
ほかに注意することはありますか?
低血糖を繰り返していると、先ほどいった心臓のバクバクや冷や汗が出るなどの危険を知らせるシグナルが出なくなってしまうことがあります。これを無自覚性低血糖というのですが、ひどく血糖が下がったところで突然バタッと倒れてしまいうので非常に危険です。
また、高齢の患者さんの場合、低血糖を繰り返していると認知症が進むこともあります。血糖値が高過ぎても認知症は進みますが、低過ぎても進んでしまうのです。
いずれの場合も、血糖値を管理することで防ぐことができるのですから、できるだけ低血糖にならないように注意したいですね。医師とも対策についてよく相談することが大切です。
食事や運動など、生活もできるだけ規則正しいほうがいいんですね?
そうですね。医師が適切に処方していても、食事の量が少な過ぎたりすると低血糖を起こしますから、指導どおりに食事をとることは基本です。でも、それがなかなかできないんです。
食事といえば、焼肉を食べる時にご飯を食べない人がいますがインスリンを打っている方や内服加療中に、ご飯を食べないことによって低血糖が起きることも結構あります。「焼肉低血糖」というんですよ。厳密には、焼肉でも血糖は上がるのですが、遅いんですね。ご飯はすぐ血糖が上がるんです。だから「焼肉を食べる時もご飯を食べてください」と注意しますね。それだけで低血糖が防げるのですから、ぜひ実行していただきたい。
先延ばしするより早めの治療で進行を遅らせる
副作用が出るとなると、インスリン治療は嫌だという人も多いのではないですか?
低血糖の危険はありますが、インスリン注射が必要な患者さんは、合併症の進展を防ぐために絶対に適切な量で注射するべきです。
糖尿病腎症で透析をしている患者さんの中には、この治療を導入するのは嫌だ嫌だと言って先延ばしにしていた人が結構多いのですが、透析を始めると皆さん口をそろえて、「もっと早く始めていれば良かった」と言っています。ちなみに血糖コントロールが悪い状態の早い時期に始めれば、その後インスリンを止めることも可能なケースもあります。
糖尿病の治療には必須なのですか?
患者さんの中には、ちょっと食べ過ぎてしまった時のためにインスリンを打っているほうが安心だからと言う人もいますが、結構なお金がかかります。ですからわざわざ打たなくても済む人だったらしないほうがいいですね。当院では医師の指示のもと単位を自己調整している患者様もいます。
必要な場合も、私はインスリン注射だけ処方するということはしません。飲み薬も併用します。飲み薬を併用することによって注射の打つ量が減りますから体重増加を防いだり医療費全体も下げることができるんです。
飲み薬は、具体的にどういう種類ですか?
現在、私が主に使っている飲み薬は3種類あります。DPP-4阻害薬は膵臓を保護するような効果もある薬です。低血糖を起こしにくいので、安全性の面でもよいと思います。 SGLT2阻害薬は太っている人に有効な薬で、尿から糖を排出させます。この薬のいいところは多くの患者さんで体重の減少がみられることです。私の患者さんで、112kgあった人に投与したところ、1年間で12㎏減ったというケースもありました。糖尿病であれば重症・軽症にかかわらず、体重がとても重いという方に処方することが多いですね。肥満の改善は糖尿病の改善にもつながりますから。ただし膀胱(ぼうこう)炎や脱水になりやすいので、予防として1日に500mlから1000mlの水を飲んでもらうことになります。それに伴って尿の回数が増えますから、すぐにトイレに行けない職業の方、たとえばドライバーさんにはちょっと処方しづらい薬です。
ビグアナイド薬は体型にかかわらずよく処方します。インスリンを直接出すような効果はないのですが、筋肉や肝臓のインスリン抵抗性(使用しても効きにくくなった状態)を改善します。抵抗性を改善することで、自分の体から出ているインスリンがより効くことになります。1錠9円で薬価が安い点でも評価できます。
治療を始めたらずっと打ち続けることになるのですか?
1型糖尿病の患者さんは、残念ながら一生打たなければなりません。けれど2型糖尿病の人は、ずっと打って血糖値をコントロールしている人もいますが、先ほども言ったように状態が良くなって打たなくてもよくなるケースもあります。
インスリン注射は最後の手段だと思っている人もいますが、それは大きな誤解です。今ではある程度早い段階で始めることで、血糖値のコントロールがしやすくなり、合併症の進行を抑えることができます。
編集部まとめ
インスリンは自己注射です。患者さん自身が自宅で行うものですから、自己管理がとても大切ですね。ただリスクばかりに目が向くと、消極的になってしまいますが、根岸先生に伺うと、最近はある程度早い段階の方が、のちのち飲み薬だけの治療に戻れたり患者さんの予後を改善したりといった好作用をもたらしているそうです。適切な時期を見極めるには、やはり糖尿病専門医のもとで長期的な視野に立った治療をしたいものですね。
まとめ:インスリン注射も正しく使えば大丈夫
かつては「インスリン自己注射は最後の治療」というイメージがあったかもしれません。
しかし最近では、早期の糖尿病でもインスリンの自己注射を行うようになってきたようです。
もちろんインスリンもお薬ですから、「低血糖」という副作用はあります。しかし、自己注射を行うタイミングや、自己注射後の食事に気を付ければ、糖尿病の状態を改善できる良いお薬です。
あまり消極的にならず、糖尿病専門医に相談しながら正しい自己注射を行いましょう。
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