現在に至るまでガンについて多くの研究がなされ新たな治療法が次々に生み出されてきましたが、いまだに人類はガンに勝てず死亡する人は後を絶ちません。
これまでの多くの研究の結果、なぜ人間がガンを発症するのかは解明されつつあり、主な原因は遺伝子の異常であるとされています。
多くの患者ではガンの原因となるような要因に長期間暴露されることで遺伝子が傷つき発ガンしているため、世界中で予防医学が進み、要因からの暴露を最小限に止める事で実際にガンの罹患率を下げることに成功したガンもあります。
しかし、中には原因となる要因に暴露されていないにも関わらず、若くして突如ガンに罹患してしまう人もいます。
これは、異常な遺伝子を遺伝的に保有して生まれてきてしまうことが原因かもしれません。
そこで本書では、遺伝性に発症するいくつかのガンを紹介し、それに対して取るべき対策についても解説していきます。
<どうして人間はガンになる?>
そもそも人間はなぜガンに罹患するのでしょうか?
今や2人に1人がガンに罹患する時代ですが、言語化して説明できる人は意外に少ないかもしれません。
人体はなんらかの損傷や劣化により細胞が壊れると、細胞が分裂すること(細胞分裂)で全く同一の新しい細胞を作り出し、損傷した細胞を補填しています。
分裂する際には、細胞内にある遺伝子と呼ばれる細胞の設計図をコピーして全く同じ細胞を作り出すわけですが、なんらかの要因によってこの遺伝子に傷がつくと、設計図のコピーミスが起こり元の細胞とは異なる細胞、つまりガン細胞が発生するわけです。
これが現時点での発ガンに関する主流的な考えですが、ではなぜ遺伝子に傷がつくのでしょうか?
例えば、タバコは肺や気管支の細胞を損傷し肺ガンの発症に関わり、塩分は胃粘膜の細胞を損傷し胃ガンの発症に関わります。
このようにそれぞれのガンの原因となるような要因は多くの研究の結果ある程度特定されており、ガンの発症を抑えるためにも禁煙や塩分摂取量の制限など様々な対策が過去に講じられてきました。
しかし、中にはこういった努力を全て無視して、環境要因とは無関係に突如発症するガンも存在します。
それこそが遺伝性腫瘍症候群です。
<50%の確率で遺伝する遺伝性腫瘍症候群とは?>
遺伝性腫瘍症候群は、発ガンに関係する遺伝子の一部が両親から子供に遺伝してしまうことで、理由なくガンを発症する病気です。
遺伝性腫瘍症候群の場合、同一のガンでも非遺伝性のものと比べて発症年齢が低い、家系内に何回もガンに罹患した人がいる、家系内に特定のガンが多く発生しているなどの特徴を持っています。
遺伝性腫瘍症候群の中には具体的にどういったガンがあるのでしょうか?
- 遺伝する大腸ガン!家族性大腸ポリポーシス
遺伝性に大腸ガンを発症する割合は全大腸ガンの約5%と言われています。
その中でも代表的な遺伝性疾患の1つに、家族性大腸ポリポーシス(Familial Adeonomatous Polyposis: FAP)が挙げられます。
FAPはAPC遺伝子と呼ばれる遺伝子に変異が生じ、その変化が親から子供に50%の確率で遺伝します。
発症してしまうと、一般的に大腸内に100個以上、多いものでは500個以上のポリープが発生します。
このポリープは一般的に良性腫瘍ですが、中にはガンに転化するものがあるため、ポリープの数が多ければ多いほど発ガンリスクは高まります。
主な治療は、外科的に全ての大腸を切除して小腸を肛門あるいは直腸に吻合する大腸全摘術です。
FAPでは、この他に十二指腸や胃にポリープやガンを発症することもありますが、早期発見できれば内視鏡での治療が可能です。
また同家系内にFAPの診断を受けた血縁者は、10-12歳から大腸ガン検診として大腸内視鏡検査を受けることができます。
- 遺伝する大腸ガン!リンチ症候群
もう1つの遺伝する大腸ガンとして、リンチ症候群 (Hereditary Non-Polyposis Colorectal Cancer: HNPCC)があります。
リンチ症候群は遺伝性大腸ガンとしてはFAPよりも多く、全大腸ガンの2-3%程度を占めています。
リンチ症候群は、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2という4つの遺伝子のうちの1つに変異が生じ、FAP同様その変化が親から子供に50%の確率で遺伝することで発症します。
リンチ症候群の厄介な点は、大腸以外にも子宮内膜、小腸、胃、卵巣、腎盂・尿管などにガンが発症しやすくなる点です。
リンチ症候群が疑われる場合、マイクロサテライト不安定性(MSI)検査というスクリーニング検査を保険適応で行い、その結果さらに疑う場合は遺伝子検査を実施し確定診断に至ります。
- 遺伝する乳ガン!遺伝性乳癌卵巣癌症候群
日本における乳ガン罹患率は年々増加傾向にあります。
食生活の欧米化に伴う女性ホルモンの分泌量増加が乳ガン増加の主な原因とされていますが、中にはFAP同様50&の確率で親から子に遺伝する乳ガンもあります。
その中で最も代表的な疾患は、BRCA1もしくはBRCA2遺伝子の変異が原因となる遺伝性乳癌卵巣癌症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer: HBOC)です。
HBOCは、一般的な乳ガンと比較して発症年齢が低く、両側発症例が多く、卵巣癌を発症することもあるなどの特徴があります。
HBOCが疑われる場合、ある一定の条件を満たしていれば遺伝子検査を保険適応で行うことができます。
乳ガンや卵巣ガンと診断された事があり、かつ遺伝子検査でHBOCと診断された場合に限り、MRIによる乳房サーベイランスやリスク低減手術も保険適用となりました。
<遺伝性腫瘍症候群の診断に役立つ遺伝子検査!>
上記で解説した様に遺伝性腫瘍症候群はあくまでガンとして発症するため、遺伝性なのか非遺伝性なのか見分ける為には遺伝子検査が必要になります。
遺伝子検査の実際の工程では、患者の血液の白血球から遺伝子を抽出し原因となる遺伝子に異常がないかどうかをチェックします。
人の細胞1個に2万個以上の遺伝子が存在する為、無目的に全ての遺伝子をチェックするのは不可能であり、あくまで目的とする遺伝子に異常がないかどうかをチェックすることになります。
遺伝子の情報は変わることが無いため、遺伝子検査の結果も生涯変わることは無く、早期に検査すれば将来自分が遺伝的に発ガンする可能性があるかどうかを調べることも可能です。
つまり、遺伝性腫瘍症候群に対して遺伝子検査は唯一と言える対抗策になり得るのです。
そんな遺伝子検査ですが、残念ながら現状日本の医療制度ではそこまで便利に使える検査ではありません。
もし自由に若いうちから自分の遺伝子検査を行うことができれば早期に発ガンリスクを知ることができ、予防的にガンの発症を防ぐ事も可能になるのは間違いありませんが、遺伝子検査には多大なる労力とコストが必要で、検査結果の解釈にも専門的な知識が必要となります。
さらに遺伝子検査の結果は患者本人のみならず、同じ遺伝子を共有している血縁者にも影響しうるため、情報の扱いや心理的配慮に慎重さを求められます。
これらの理由から、多くの遺伝子検査は保険適応では提供できていないのが現状であり、殆どが自費診療での検査となっています。
近年では徐々に保険適応の範囲も拡大しつつありますが、多くはすでに発ガンした後の確定診断のための検査であり、未然にガンを防ぐための病前検査ではありません。
現状、遺伝子検査を保険診療以外で受ける最善策は事前にガン保険に加入するか、もしくは自分でお金を用意する必要があります。
これからの時代、健康と命を守る為にはお金と情報が必要なのです!
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