人生100年時代、老後に必要な「食費」だけでも計算してみると、あることを”実感“することができます。
「老後2000万円問題」については、今や「老後への備え」を話題にする際の“共通語”になりました。
皆さんもWeb上でいろいろと検索してみたり、友人同士の話題に登場したこともあったのではないでしょうか?
筆者も仕事柄、多くの記事やコラムを拝読しましたが、「本当は不足しない」「やはり不足する」と両極の論説が展開されていることもあり、「結局どっちが正しいのか…」「どの説を頼りにすれば良いのか…」と迷われていて、最終的には何も手を打てていない方が大半であるように見受けます。
「お金」について、想像してみよう
ところで皆さんは、こんな想像をしてみたことがあるでしょうか?
- 「“絶対に避けては通れないこと”にかかるお金」って、これから死ぬまでにどれくらい必要なのだろうか?
- 例えば、動物である以上排便は避けられないとして、やはりトイレットペーパーは必要だと考えた場合、一生であと何ロール使うことになるのだろうか?
- それを支出に換算すると、一生であとどれくらいのトイレットペーパー代がかかるのだろうか?
電卓を叩けばすぐに計算できるような金額ですが、これを実際に計算してみたことがあるという方は決して多くないと思います。
「老後2000万円問題」は要するに「収入(+貯え)と支出の過不足」のことを言っているわけですが、この問題を自分ごと化する手順としては、まずは自身が最低限必要だと考える「生活費」を想像してみることから始めてみると良いかもしれません。
実際はトイレットペーパー以外にも多数の「避けては通れない最低限の支出」があると思いますが、すべてを網羅しようとするとこれもまた途方に暮れることになりそうなので、まずは「食費」だけに絞って簡単にイメージしてみてはいかがでしょうか?
できれば皆さんも電卓を用意して、ではさっそくご一緒に「今後一生のうちにかかる最低限必要な食費」を計算してみましょう。
想像してみてください。皆さんが「これは安い」と思う食事は?
「ランチはワンコイン以内で」よく聞かれる食費節約のモノサシです。
皆さんのランチ代はいくらが目安でしょうか?
「スーパーに足を運ぶ時間帯は何時くらいですか?」家計をやり繰りしている方に聴いてみると、こうした答えが返ってきたりします。
「そろそろ半額シールが貼られる時間帯」
総菜売り場に差し掛かると、まだ貼られているシールは「30%OFF」のまま。そこで、もう一周売り場を回って再び総菜売り場に辿り着くと「半額」に。これは、節約術の“いろはの「い」”だそうです。
単身生活が長い筆者の場合、「480円」の幕の内弁当に半額のシールが貼ってあると「240円は安い」「今晩はこれで決まり」と思わず手が伸びたりします。
皆さんが「安い」と思う1食分の値段はどれくらいでしょうか?
「割安な1食」の代表選手であるカップラーメンは、安いものから少し高いものまで多くの種類がありますが、よく食べている人たちにヒアリングしてみるとこのような結果になりました。
Q.カップラーメンは、いくらだと高いと思う?いくらだと安く感じる?
A.高い→300円以上、安い→100円前後
皆さんの感覚も同じでしょうか?
よく食べる人たちは、100円前後の商品では「ちょっと寂しい」と思い、300円以上だと「ちょっとしたリッチ」を感じながら食しているようです。
想像してみてください。毎日、ずっと、これを食べ続けます。
「食費」を計算するにあたり、簡単にシミュレーションを行うため、毎食同じものを食べ続けることにします。
筆者が講師を務めるセミナーでこの話をする際は「カップラーメン」を用いて、また価格帯は参加者の多数決により決めています。
実際に「一日3食×365日×一生」食べ続けることを想像しながら多数決を取ると、先ほどの“よく食べる人たち”の感覚と同じで「100円だとちょっと寂しい」「300円以上は贅沢」との意見に収斂され、最終的に「200円」で設定するケースが大半です。
そこで、おそらくは読者の皆さんの感覚も同様であろうと仮定し、ここでも「200円」で計算してみたいと思います。
テーマが「老後の食費」なので高齢者世帯を想定し、また“お一人さま”ではなく“ご夫婦”を前提に計算します。
計算式は「200円×一日3食×2人分×365日×一生」ということになりますが、ここで決めておかなければならないのが「年数」です。
「一生」と言っても、皆さんの現在年齢も平均余命も各々であり、ここでは「30年」と定めて計算してみたいと思います。従って設定するイメージは、「65歳の方が95歳までに必要とする最低限の食費」といった感じになります。
では、実際に計算してみましょう。
「200円×一日3食×2人分×365日×30年」で、さていくらになるでしょうか?
皆さんにも“実感”していただきたいので、できれば電卓をご用意のうえ実際に計算してみてください。
答えは、何万円になりましたか?
セミナーでは、実はここで少し会場がざわつきます。
様子を見てみると、何やら電卓の表示に目を凝らして「一、十、百、千、万…」と何度も数え直しています。おそらくは、あまり見慣れない桁数の金額なので「えっ?ウソでしょ!」という感覚に陥っているからだと思いますが、もちろんいくら数え直しても答えは変わりません。
答えは、「200円×一日3食×2人分×365日×30年=13,140,000円」です。
この数字を見て皆さんが受ける印象はどうでしょうか?
安いと感じている「200円」のカップラーメンでも、30年間食べ続けた場合、なんと「1000万円を超えて食費がかかる」という計算になります。
「1000万円」という言葉の響きからは、皆さんが共通に「それなりの大金だ」という印象を持つのではないでしょうか?
ここで大事なのは“実感”です。
このような単純な計算でも、「65歳の方が95歳までに必要とする最低限の食費」といった具体的なイメージを描きながら実際に計算してみることで、またその計算結果が「1000万円」という大金に至る事実を認識することで、その大きさを“実感”することが“はじめの一歩”になります。
では、続けて「この大金をどのように準備するのか?」について考えてみたいと思います。いつから、どのくらいの期間をかけて積み立てれば「1000万円以上」の大金を準備できるのでしょうか?
想像してみてください。毎月、ずっと、欠かさずに積み立てます。
ここでも精緻な利息計算などは除いて、まずは感覚的に捉えてみたいと思います。
ここで具体的にイメージしたいのが、積み立てる「期間」です。
どれくらいの年数をかけるのか?これにより、毎月、毎年の負担感も変わってきますが、ここでは以下の理由から「30年間」に設定したいと思います。
先ほど「30年間」の生活を想定した食費を計算しているので、同じ「30年間」であれば感覚的に比較しやすいと思います。
ところで、想像してみてください。
「毎月、ずっと、ひと月も欠かさずに30年間積み立てる」これをコミットメントしたうえで、皆さんは毎月いくらくらいであれば、その積立が可能だと思いますか?
実際に、現在は毎月いくらの貯金をされていますか?
1万円ですか?2万円でしょうか?
セミナーの場でこれを確認すると、多くの方が1~2万円で手を挙げ、3万円になると挙手が少なくなり始めます。
もちろん読者の中には「それ以上」という方もいらっしゃるかとは思いますが、多くの会場では4万円になるとほぼ手が挙がらなくなります。
続けて、こうして相場感を確認し合ったうえで講師からある“お願い”をすると、参加者の表情が一瞬で強張ります。
「いいですか皆さん!今から私のほうで勝手ながら金額を決めさせてもらいます。」
「皆さんがこれから30年間、毎月、ひと月も欠かさずに積み立て続ける金額は“5万円”です!」
「1~2万円?甘いです(笑)毎月5万円を、いまここで全員がコミットメントしてください!」
皆さんが、もしこのセミナーに参加していたらどう感じるでしょうか?
同じく「えーっ!今の生活で毎月5万円は厳しい…」「頑張っても3万円が限度…」「30年も続けるなんてムリ!」と言いたくなるでしょうか?
では、実際に計算してみましょう。
「1ヵ月5万円×12ヶ月×30年」でいくらになるか?
これは暗算でも計算できるかと思いますが、答えは「1,800万円」です。
毎月5万円の積み立てを30年も続ければ「1,800万円」もの大金になるわけですが、ここで皆さんに伝えたいことは“算数”の計算ではなく、先ほどと同じ“実感”です。
まず「30年間」という期間の長さですが、皆さんにとっての「30年」は短いですか?それとも長いですか?
皆さんは30年前、どこで何をされていたでしょうか?
高校生ですか?もう社会人になっていましたか?
その「30年前」から現在に至るまでの人生を振り返ると、それなりの道のりであり、長さだったのではないでしょうか?
仮に、その「30年前」から積み立てを始めていたとして、「大変だな…」と思いながらも苦労して、ひと月も欠かさずに積み立てた「1,800万円」は、皆さんにとって決して軽いとは言えない“重さ”であるように想像します。
次に、その“重さ”を感じたうえで、前段で計算した「最低限必要だと思う食費」と比較してみましょう。
皆さんが頑張って貯えた「1,800万円」のうち、なんと「1,300万円」が食費だけで消えてしまうことになるわけですが、皆さんはこの現実をどのように感じるでしょうか?
他にも、トイレットペーパーも使うでしょうし、30年間一歩も家から出ないなんてこともあり得ません。
外出してちょっとコンビニに立ち寄ろうものなら、「これくらいなら…」と思わず甘いモノに手が伸びてしまうことはないでしょうか?
“たられば“を言えばキリがありませんが、ぜひここで皆さんに“実感”して頂きたかったのは、いま皆さんが感じているそのモヤモヤとした感覚です。
冒頭に《まずは自身が最低限必要だと考える「生活費」を想像してみることから始めてみると良いかもしれません》とお伝えしましたが、このように「最低限の食費」や「そのために必要な準備の大きさ」を具体的に“実感”すると、「実際どうする?」「何から動き始めれば良いの?」と、ようやく脳内のシグナルが「興味」から「欲求」へと変わり始めるのではないでしょうか?
「老後2000万円問題」をいくら専門的に解説されてもピンと来なかったのは、もしかしたら今回のような“脳内のストレッチ”ができていなかったからかもしれません。
想像だけしていても解決しません。では、「どうすれば」解決すると思いますか?
一方で、先ほどまでの“ストレッチ”により皆さんがいま思っていることは、もしかしたらこういうことではありませんか?
「いくら必要性を感じたとしても、今の生活を続ける限りそのような金額を積み立てるのは難しい…」
「将来への備えも大事かもしれないが、それよりも今は目の前の生活で精一杯だ…」
もし、本当にそう思い始めているようであれば、それこそが皆さんが“実感”し始めている証左であり“はじめの一歩”を踏み出したと、そうお考え下さい。
さらに現実的な話をすれば、実感し始めた皆さんが収入面を想定する際に期待したいことは、こういうことではありませんか?
- 公的年金はいくらもらえる?
- 退職一時金はいくら?退職年金はどれくらいになる?
- 健康で働き続けるとして、収入は月々いくらくらいになりそう?
- 少しでも有利な金融商品はどれ?投資を考えてみるのはどう?
- 我が家には、親から譲り受ける資産はある?
- 宝くじが当たりそうな可能性は?
各々を具体的に確認するアクションプランはいくつか考えられると思いますが、そのひとつとしてお勧めしたいのが「老後2,000万円問題」の“因数分解”です。
- どんな条件を設定したうえで「2,000万円不足する」という結論に至っているのか?
- 年齢は? 家族構成は? 世帯収入は? 公的年金の水準は? 等々
- 設定されているモデルを自分自身に置き換えてシミュレーションした場合、果たして本当に不足はあるのか? どれくらいの不足が生じるのか?
このように、一つ一つの因数(判定基準)を分解してみると、今回“実感”したことをもう少し具体的に捉えることができ“二歩目”を踏み出すことができます。
【おすすめ】
当サイトは、皆さんの各種リテラシーをアップデートする情報やコラムを多数掲載しています。
特に、今回の解説に連動したこちらの記事はおすすめです。直下(黒いボタン↓)の 「続けてご覧になっていただきたい記事はこちら」 からご確認ください。
また、他の情報が気になる方には、下方の 「今回の記事に関連するおすすめ記事」 をお勧めします。お好みに合わせてご選択ください。
■ 続けてご覧になっていただきたい記事はこちら:
実は「老後の貯蓄平均2,000万円」って知ってる?本当に必要な老後資金の考え方
■ 今回の記事に関連するおすすめ記事:
- 老後資金準備にはiDeCoとNISAどちらを利用すればいい?3つの大きな違い
- 「年金」 と言っても、いろいろあるんです。
- 私たちの年金は巨大な”クジラ”が運用しているってどういうこと!?
- 年金は受け取り方次第で大違い!一度受け取り始めると変更できない点に注意
- いまや夢物語?公的年金を受け取りながら悠々自適な老後の生活
この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。