「ご家族のガンはすでに全身に転移しているため、残念ながら積極的な治療は行えません。」
これは皆さんも一度は聞いたことがあるであろう、医療ドラマでは定番のセリフとなっていますが、なぜ転移すると手術ができないのでしょうか?
そもそもガンが転移するというのは、一体どんな状況なのでしょうか?
ドラマに限った話ではなく、実際の医療現場でもこういったケースは毎日のように繰り返されています。
転移していることを知った多くのご家族や患者本人は、仕方ないと諦めるよりも、もっと早く見つかっていればと後悔していることが多いです。
なぜ転移しているとダメなのか、なぜ早期発見が重要なのかを理解していれば、もっと多くの命が助かっていたかもしれません。
そこで本書では、ガンの転移について基本的事項やその影響、われわれが取るべき対応について詳しく解説していきます。
<ガンはなぜ転移するのか?>
そもそも、転移を理解する上ではガンの成り立ちを理解する必要があります。
ガンは、細胞の破壊と再生の過程で生まれる細胞のコピーミスで発生します。
破壊された細胞は、同じ細胞が細胞分裂することで再生します。
細胞分裂とは、自身の細胞内に含まれる遺伝子情報を元に、全く同じ機能、形態を有したコピー細胞を作り上げることです。
遺伝子とはまさにその細胞の設計図であり、その設計図をコピーすることで細胞分裂を行っています。
しかし、あまりにも細胞の破壊と再生を繰り返してしまうと、細胞の遺伝子に傷が付いてしまい、遺伝子情報のコピーミスが起こってしまいます。
これこそが、正常とは異なる細胞、つまりガン細胞であり、基本的に死ぬことなく無秩序に増え続け、やがてかたまりとしての「ガン」となり、臓器の機能を阻害するようになります。
以上のことから分かる通り、ガン細胞は破壊と再生が頻繁に行われる場所にこそ発生しやすいのです。
では、この破壊と再生が頻繁に行われる場所とはどこなのでしょうか?
例えばタバコを吸えば肺の内側が傷付きますし、変な食べ物を食べれば胃の内側が傷付きます。
胃や腸、肺などの多くの臓器は断層構造になっており、最も内側の層が粘膜上皮になります。
つまり、粘膜上皮が最も損傷を受けやすい場所になります。
決して外側が傷付くわけではないので、ほとんどのガンは最も内側の粘膜上皮から発生するわけです。
粘膜上皮に発生したガンは、徐々に周囲を巻き込むように様々な方向に浸潤して成長していきます。
これはガン特有の成長の仕方であり、浸潤性発育と言います。
徐々にガンの浸潤が広がっていくと、粘膜上皮内に留まらず基底膜と言われる境界線を超えて粘膜下層にまで到達します。
粘膜上皮内に留まっていたガンは上皮内新生物、留まらずに深層に突き進んでいったガンを悪性新生物といいます。
この2つの最大の違いは、ガンが血管やリンパ管が多く走行している粘膜下層に到達しているか否かです。
粘膜下層には血管やリンパ管が豊富に走行しているため、ガン細胞がこの深さまで浸潤してしまうと、いずれ血管やリンパ管内にもガン細胞が浸潤してしまうのです。
その結果、ガン細胞は血管やリンパ管から全身に飛んでしまい、他の臓器に生着してしまいその場で再び増殖し始めるのです。
これが、ガンが転移してしまう理由です。
<ガンが転移する3つの経路>
では、それぞれの転移パターンについて解説していきます。
- リンパ性転移
そもそもリンパ管とは、主にリンパ球と呼ばれる免疫細胞を運ぶための通り道であり、血管と同様全身にくまなく張り巡らされています。
リンパ管は体液を静脈へと一定方向に押し流していますので、リンパ管に入ったガン細胞もこの流れに沿って進んでいきます。
ところどころにリンパ節という異物をせき止める関所のような場所があり、そこで一部のガンは退治されますが、しぶとく生き続けたガンはリンパ節で増殖(リンパ節転移)しリンパ管をつたってさらに別のリンパ節へと進行していき、これをリンパ性転移と言います。
リンパ節転移している場合は、全身への転移を予防する目的で転移しているリンパ節を手術で切除します。
臓器の周囲のリンパ節まで含めて切除するので通常より広い範囲で切除することになります。
また、転移しているリンパ節に放射線を照射する場合や原発巣から遠いリンパ節に転移が見つかっているときは、抗ガン剤を使用することもあります。
ちなみに、血液のガンである悪性リンパ腫は、リンパ性転移と名前が似ているため混同しやすいので要注意です。
悪性リンパ腫は、リンパ球という血液成分がガン化する病気のことで、リンパ節にガン細胞があるという状態は確かに同じですが、一般的にリンパ性転移という場合は固形ガンがリンパ管を通して転移している状態を指します。
- 血行性転移
その名の通り、原発巣の近くにある毛細血管や細い静脈にガン細胞が侵入し、血流を介して全身の臓器に転移します。
一般的には、静脈の流れにしたがってガン細胞は移動するので、大腸ガンでは肝臓に、腎ガンでは肺に転移しやすいのですが、必ずしもそうとは限りません。
転移様式に関わらず他臓器に転移した以上は、リンパや血流に乗ってガン細胞が全身に移動したことになります。
一度血管に転移が起これば、ガンは一定の場所に留まる事なく体中にばらまかれたという認識であり、もはや手術で原発巣を除去しても意味がないため、全身治療である抗ガン剤による治療を行います。
ちなみに、血液のガンである白血病は白血球という血液成分がガン化する病気のことで、血管内にガン細胞があるという状態は確かに同じですが、一般的に血行性転移という場合は固形ガンが血管内を通して転移している状態を指します。
- 播種
粘膜下層に浸潤したガン細胞が血管やリンパ管に浸潤し転移する血行性転移やリンパ性転移とは異なり、粘膜下層からさらに外側の筋層を超え、一番外側の臓器を覆っている漿膜すらも食い破って、臓器の外側にガン細胞がばらまかれた状態を播種と言います。
肺の入っている「胸腔」や腹部の臓器が入っている「腹腔」にガン細胞が漏れ出て、胸膜や腹膜に飛び散るようにして広がる状態の事です。
まるで小麦粉をばらまいたように飛び散った小さいガンが炎症を起こすことで膜に穴が開き、水(胸水・腹水)がたまることがあります。
基本的に、横隔膜より上の臓器では胸水が、下の臓器であれば腹水が溜まりやすく、ガンが進行することで水分バランスが崩れコントロールできない状態となり胸水や腹水の量が増えていきます。
貯留した水は、肺そのものを圧迫してくるため呼吸困難に陥ることもあります。
また、腸を圧迫し排便障害になることもあります。
この段階ではすでに完治を目指す治療が難しいことが多く、胸水や腹水を抜くなどの処置的治療に留まるため、ガン治療としては非常に困難な状態です。
まとめ
ここまで記したように、ガンが転移した状態はすでにガン細胞が1箇所に留まらず、全身のありとあらゆる部位に飛び散ってしまっていることを意味します。
多くの患者様は、どうして手術してくれないのかと疑問を持つかもしれませんが、すでに全身に飛んだガン細胞を全て回収することは不可能であり、回収できないのであれば手術を行う意味がないのです。
むしろ手術によって体力を消費してしまい、最期の時間をイタズラに縮め兼ねません。
現状、転移してからの手立てはほとんどなく、我々が取るべき対策としてはいかに早期発見、早期介入を行うかに限ります。
そして今、より早期にガンを発見できるような最新の検査が日々開発されています。
これらの検査によって、皆さんやそのご家族の命にも大きな影響があるかもしれません。
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