現役世代の「私」のお金・健康に関するお役立ち情報

お得と言われる「64歳11カ月退職」は本当にアリ?注意点を解説

65歳は、退職に関する各種給付制度が切り替わる年齢です。

 

65歳以前と以後の退職を比べると給付金の額が大きく減るため、64歳11か月での退職を勧める声が多く聞かれています。 

 

しかし、64歳11か月での退職は全ての面で得をできるとは限りません。給付金の額と引き換えに、思わぬ損失を生んでしまう場合もあります。はたして64歳11か月での退職はその後の生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 

今回は64歳11か月での退職に潜むデメリットについてご紹介します。 

64歳11か月退職がお得といわれる理由

 

64歳11か月退職のデメリットに触れる前に、改めて64歳11か月がなぜお得といわれるのか、その理由について振り返ってみましょう。

 

多額の基本手当を受給できる

雇用保険に加入していた被雇用者は、退職後には加入期間に応じた給付金を受給できます。

 

この給付金は65歳未満で受給できる「基本手当」と65歳以上が対象となる「高年齢求職者給付金」に分類されていますが、この2つの給付金には受給可能期間に差があり、給付金総額に大きな違いがあります。

 

基本手当と高年齢求職者給付金の受給期間はそれぞれ以下のとおりです。

 

基本手当

雇用保険の被保険者であった期間  1年未満  1年以上5年未満  5年以上10年未満  10年以上20年未満  20年以上 
基本手当の所定給付日数  なし  90日  90日  120日  150日 

高年齢求職者給付金

雇用保険の被保険者であった期間  高年齢求職者給付金の算出日数 
直近1年間で6カ月以上、通算1年未満  30日分 
直近1年間で6カ月以上、通算1年以上  50日分 

引用:基本手当の所定給付日数|ハローワーク 

 

また、両制度の受給額を決める基本手当日額の上限はそれぞれ以下のとおりです。 

   賃金日額の上限  基本手当日額の上限 
60~64歳  15,770円  7,096円 
65歳以上  13,520円  6,760円 

引用:雇用保険の基本手当日額が変更になります ~令和3年8月1日から~ |厚生労働省 

 

これらの日数と日額から算出した、基本手当と高年齢求職者給付金それぞれの受給総額は以下の通りとなります。 

 

基本手当

雇用保険の被保険者であった期間  基本手当総額 
1年以上5年未満  638,640円 
5年以上10年未満  638,640円 
10年以上20年未満  851,520円 
20年以上  1,064,400円 

高年齢求職者給付金

雇用保険の被保険者であった期間  高年齢求職者給付金総額 
直近1年間で6カ月以上、通算1年未満  202,800円 
直近1年間で6カ月以上、通算1年以上  338,000円 

 

上記のとおり、64歳11か月で退職し基本手当を受給した場合と、65歳になってから退職し高年齢求職者給付金を受給した場合では、受給総額に大きな差が生まれます。20年以上勤務した被雇用者の退職においては3倍もの差が生まれるることから、64歳11か月での退職がお得であると考えられています。 

 

 

64歳11か月退職が抱えるデメリット

 

雇用保険から受給できる給付金だけを比べると、64歳11か月での退職には非常に大きなメリットがあるように見えます。

 

しかし退職時期の影響を受ける収入は給付金だけではなく、また長期間の受給が必ずしも退職後の生活プランにとってプラスに働くとも限りません

 

64歳11か月での退職が抱えるデメリットを知り、自分にとって適切な退職時期を考えてみましょう。

 

退職金が減額されるおそれあり

多くの企業では従業員の退職にともない、勤続年数と賃金から算出された退職金を支給します。退職金の制度はそれぞれの企業が独自に設けており、支給額を決める計算式や支給基準も企業ごとに異なります。

 

そのため、企業によっては65歳の誕生日に定年退職した場合の退職金を特別支給として扱い、大きく増額している場合があります。そうした企業では64歳11か月での退職はあくまで中途退職として扱われ、定年退職時に比べて退職金が減額するように取り決めされているかもしれません。

 

前述した基本手当と高年齢求職者給付金の支給総額を比較すると、勤続20年以上の退職者では約73万円の差が生まれます。そのため定年退職と中途退職の退職金の差が73万円以上になるような会社においては、64歳11か月での退職が金銭的な損失に繋がってしまうでしょう。

 

会社の再雇用制度を利用できない

2021年4月より施行された改正高年齢者雇用安定法により、各企業に以下の措置を講ずる努力義務が設けられています。

 

  1. 70歳までの定年引き上げ
  2. 定年制の廃止
  3. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
    b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

引用:高年齢者雇用安定法改正の概要|厚生労働省 ハローワーク 

 

これらの対応は努力義務であり、対応の方針は企業側に一任されています。そのため企業側が制度を適用する対象者を定年退職者と限定した場合には、中途退職である64歳11か月の退職者、再雇用や業務委託契約締結の恩恵を受けられないかもしれません。 

 

 

基本手当支給期間に再就職のチャンスを逃す

高年齢求職者給付金に比べ基本手当の支給総額が多額になりやすいのは前述の通りですが、あくまで全受給期間にわたって給付を受けられた場合の比較であることを忘れてはいけません。基本手当の受給期間は最長で受給開始から150日。退職後の待機期間7日と自己退職時にともなう給付制限の2カ月を足すと、全ての給付を受けきるには7カ月以上の期間が必要です。

 

基本手当の受給を優先して考えてしまうと、受給期間中に再就職の話があっても積極的に動きにくくなってしまうでしょう。再就職時に基本手当の所定給付日数が3分の1以上残っていれば「再就職手当」を受給できますが、受給額は最大で基本手当の支給残日数×70%×基本手当日額とされるため、当初期待していた受給額よりも少額になります。また支給残日数が3分の1を割ってからの再就職には支給されないため、基本手当の減額を避けて再就職しないという心理になってしまうかもしれません。

 

65歳以降の再就職のチャンスは、若い頃に比べてそれほど多くはありません。そのため、受給を目当てに再就職の話を先送りにした結果、受給期間終了後も仕事に就けないという状況に陥るおそれがあります。

 

 

まとめ

64歳11か月での退職は、65歳定年退職に比べ多くの給付金を受給できます。20年以上の勤続年数があれば最大70万円もの差になるため、64歳11か月での退職をお得と考える人が増えても不思議ではありません。

 

しかし64歳11か月の中途退職と65歳の定年退職では、適用される制度に大きな違いがあります。退職金の額や再就職制度の適用など、給付金の額だけでは測れない多くのメリットがあります。

人生100年時代において、65歳はまだまだ現役世代です。退職後の生活に支障がでないよう、あらゆる制度の仕組みを学び、ベストな退職のタイミングを測りましょう。

 

なお、以下の記事では65歳で無職になった場合に備える方法を解説しています。あわせてご覧ください。

 

 

続けてご覧になっていただきたい記事はこちら:

65歳で無職になったらどうする?老後資金の備え方

 

この記事は役に立ちましたか?

もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。

関連記事