退職金は、長年勤務した人が受け取れる大きな財産です。
特に定年退職時に受け取る退職金は金額が大きいうえ、今後の老後生活を送るための原資となる重要な役割をもっています。 一方、大きな金額を受け取るだけに、心配になるのが税金です。多額の退職金を受け取ったときには、一体どの程度の税金がかかってしまうのでしょうか。
今回は退職金にかかる税金のルールについてご紹介します。自分の退職金に税金がかかるのか、もらえる時期と金額を照らし合わせてみましょう。
「退職金には税金がかからない」は本当?
日本の税法においては、あらゆる所得に対してほぼ例外なく税金が課せられます。もちろん退職金も例外ではありません。
ただし、退職金は退職後の生活基盤となる資金の役割が大きいと考えられています。そのため税金の計算方法は他の所得に比べ非常に優遇されており、非常に広い金額の範囲で非課税となります。
また、退職金が高額で課税対象になるとしても、普段受け取っている給与や賞与から想像する所得税・住民税の額よりも相当低い税額で済むように税率が設定されているため、税金負担のために手元にほとんど残らないといったことはありません。
関連記事:【2022年から】勤続5年以下だと退職金の税金が増える!「退職所得課税の適正化」
退職金の税金計算
退職金を一括で受け取る場合には、他の所得から独立した所得として扱う「分離課税」方式で税金が計算されます。これは退職金と他の所得と合算して税額を計算し、退職金の大部分を税金で徴収されないようにするためとされています。
退職所得の計算方法
退職金総額に特定の計算式を当てはめて算出される額を「退職所得」といいます。退職所得は所得税・住民税の納税額を算出するための元となる所得金額であり、以下の計算式で求められます。
- (収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2
引用:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁
退職所得控除額とは、退職金の総額のうち、課税される対象に組み入れなくてもよいと国が認める金額の範囲です。退職所得控除額は勤続年数が長くなるにつれて額が大きくなるような計算式となっています。これにより長い勤続年数によって退職金が増えたとしても、税金として徴収される額を小さく抑えられます。
退職所得控除額の計算式は以下の通りです。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数ー20年) |
引用:退職金と税|国税庁
退職所得への税率
退職所得に対する所得税・住民税の税率は、一般的な給与・賞与などの税率と変わりません。ただし、前述のとおり退職所得は分離課税の対象となっているため、退職所得のみを独立して税金を計算します。
退職所得にかかる令和3年の所得税率は以下の通りです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
退職金に税金がかからない額とは
退職金は、他の所得に比べ税金がかかりにくいという説明をしてきました。では実際に退職金がどの程度の金額までなら非課税となるのでしょうか。具体的に非課税となる退職金の金額を見てみましょう。
退職金総額<退職所得控除
退職所得は、前述の通り退職金の総額から退職所得控除を差し引いた額です。すなわち、退職所得控除が退職金総額よりも大きいなら、退職所得は0円となるため、税金はかかりません。
退職所得控除は、勤続年数に応じて以下のように変動します。
勤続年数 | 退職所得控除 |
5年 | 200万円 |
10年 | 400万円 |
15年 | 600万円 |
20年 | 800万円 |
25年 | 1,150万円 |
30年 | 1,500万円 |
35年 | 1,850万円 |
40年 | 2,200万円 |
42年 | 2,340万円 |
この表のように、勤続年数が延びれば延びるほど退職所得控除の額は大きくなり、税金がかからない退職金の額が増えます。かりに高校を卒業してすぐに就職した会社に42年間勤続したとすれば、2,340万円以内の退職金を全額受け取ることができます。
年金受け取りは「雑所得」として計算
退職金の受け取り方は、退職時に全額を一括で受け取るだけではありません。会社が企業年金制度を設けているなら、退職金を65歳以降に企業年金の給付金として分割して受け取れます。
退職金を年金として受け取る場合も、年間の年金額が一定額を超えるまでは所得税はかかりません。年金に対する課税は、65歳未満なら年間108万円(公的年金等控除60万円+基礎控除48万円)、65歳以上なら年間158万円(公的年金等控除110万円+基礎控除48万円)までが非課税とされます。
ただし、公的年金等控除は他の公的年金も全て合算した年金給付額に対して適用されます。仮に65歳の時点で、国民年金・厚生年金と企業年金を合計して年間160万円の年金が受け取れるなら、控除額からはみ出した2万円が所得税の課税対象となります。
まとめ
退職金は老後の生活資金となる重要なお金であるため、他の所得に比べ税金が優遇されています。勤続年数に応じて増えていく退職所得控除以下の退職金であるなら、退職金の受け取り時には全く税金がかかりません。
退職金は一括で受け取るだけでなく、年金形式での受け取りも可能です。また企業年金制度を設けている企業の一部では、退職金総額の一部だけを一時金として受け取ることもできます。自分にとってどのような退職金の受け取り方が一番お得なのか、退職金の金額と会社の制度を調べて計算してみましょう。
以下の記事では、退職金にかかる税金の注意点について解説しています。あわせて参考にしてみてください。
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退職金にかかる税金の注意点!高額課税を防ぐためにお得な受け取り方を考えよう
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