自分や家族の加齢・障害・死亡など、様々な要因で自立した生活が困難になるリスクに備えるための仕組みとして公的年金制度があります。
公的年金制度のうち、厚生年金に加入している会社員や公務員の方であれば、国民年金以外に厚生年金も支給されるため、より保障が厚くなっています。
しかし、これらはあくまで仕事とは関係の無い業務外の病気や死亡に対しての保障であり、会社員が業務上で負った病気や怪我、死亡については労災保険によって保障されています。
労災保険の保険料は事業者側が全額負担しているため、なかなか加入している実感が沸きにくいかもしれませんが、特に会社員の方やその家族は有事に備えて労災保険についてもしっかりと把握しておく必要があります。
そこで今回の記事では、労災保険について詳細に解説していきます。
労災保険とは?
大前提として、労災保険は仕事中や通勤中に負ったケガや病気・死亡に対して給付が行われる制度です。
加入者は会社員・公務員などの労働者(パート・アルバイトを含む)で、加入手続きは事業主が行わなければなりません。
労災保険は保険料の全額を事業主が負担していることなどから、保険に加入している実感がなく、実際に労災保険を利用したことがない方にとっては、あまりなじみがないかもしれません。
しかし、実際に業務中や通勤中にケガや病気を負った際には強い味方になってくれる制度です。
具体的には、下表のような給付や保障を受けることができます。
労災保険の給付概要一覧
療養給付 | 業務災害又は通勤災害による傷病に対する療養の給付や、療養費全額給付 |
休業給付 | 業務災害又は通勤災害による傷病に伴う休業に対し、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額の給付 |
障害給付 | 障害等級に応じた年金や一時金の給付 |
遺族給付 | 遺族の数に応じた年金や一時金の給付 |
葬祭料・葬祭給付 | 業務災害又は通勤災害によって死亡した方の葬祭に対し、315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額の給付 |
傷病年金 | 長引く傷病に対して、障害の程度に応じた年金給付 |
介護給付 | 重度の介護は必要な場合の介護費用に対する給付 |
二次健康診断等給付 | 定期健康診断等の結果、脳・心臓疾患に関連する一定の項目について異常の所見があるとき、二次健康診断などを給付 |
(参考)東京労働局
では、具体的にどのような場合に給付を受けることができるのでしょうか?
労災保険で給付が受けられる「業務災害」
労災保険において、仕事中のケガや病気・死亡を「業務災害」といいます。
ケガについては、主に所定労働時間内や残業時間内に職場で業務に従事している場合や、職場外であっても出張・社用で業務に従事している場合のケガは「業務災害」とみなされ、給付対象となります。
また、昼休みや就業時間前後で業務をしていない場合のトイレなどの生理的行為時に生じたケガも給付対象になります。
逆に、下記のようなケースでは給付対象にならないため注意が必要です。
- 業務中に他の従業員とけんかをした際のケガ
- 昼休みや就業時間前後で業務をしていない場合のプライベートな行為によるケガ
- ランチで外出した際のケガ
また、ケガではなく病気の場合、業務との間に因果関係が認められる病気を「業務上疾病」といい、労災保険の給付対象となります。
近年、仕事によるストレス(業務による心理的負荷)が関係した労災請求が増えていますが、「酷い嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」ことにより「うつ病」を発病したとして認定された事例もあります。
労災保険で給付が受けられる「通勤災害」
労災保険において、通勤中のケガや病気・死亡を「通勤災害」といいます。
ここでの「通勤」とは、下記のような移動を、合理的な経路および方法で行うことを指します。
- 住居と就業の場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
途中で寄り道をした場合は、どこに寄ったかなどによって、通勤として認められるかどうかが異なります。
下記のようなケースでは通勤災害として認められない可能性が高いため、注意が必要です。
- 通勤途中にコンビニに立ち寄り転倒して怪我をした場合
- 帰宅中に映画館に入り映画を観た場合やお酒を飲みに行った場合
- 友人宅からの出社中のケガ
- 健康増進のために帰宅中に1駅分歩いた場合のケガ
- 戸建て住居の敷地内の駐車場で通勤前に転倒した場合のケガ
上記のような場合、「合理的」な通勤経路とは言えないため「通勤外」とみなされる可能性が高いです。
また、戸建て住居の敷地内の駐車場はあくまで住居から出ていないと判断され、「通勤」とはみなされません。
労災保険では、このような業務災害や通勤災害が起きてしまった際に、被保険者に対して療養費用などの給付、また障害が残った場合などには年金の支払いが行われます。
労災保険から給付を受けるには、労働基準監督署に備え付けてある請求書を提出した後、労働基準監督署による調査が必要になります。
詳しく知りたい場合には、勤務先の担当部署や労働基準監督署に確認しましょう。
また、労災保険を受ける方の中には、医療機関でつい健康保険証を提示してしまう方もいらっしゃるようです。
業務上のケガや病気で労災保険の適応にも関わらず、間違えて健康保険を使ってしまった場合、労災保険への切り替えや治療費の一時全額負担が必要になるため注意が必要です。
まとめ
今回の記事では、労災保険の仕組みについて解説させていただきました。
労災保険は法律により事業所が実施することを義務づけられている福利厚生のうちの1つであり、事業所側が保険料を全額負担してくれています。
保険料の支払いがないため実感が湧きにくいかもしれませんが、業務中や通勤中の怪我、病気、死亡などに対して給付が行われる制度であり、会社や企業で働く方にとって心強い制度です。
また、事業所側が提供している福利厚生は労災保険以外にもあると思いますが、皆さんはご自身が「どのように会社から守られているか?」について確認されたことはありますか?
いずれも、皆さんのお勤め先の経営者が、大切な従業員の皆さまのために用意してくれている制度です。いざという時のために、一度ご確認しておかれることをおすすめします。
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