私たちがケガや病気で医療機関を受診した際に受ける医療は、基本的に「保険診療」と言われるものです。
しかし、保険診療以外に、「自由診療」「混合診療」「先進医療」という言葉を耳にすることも少なくないのではないでしょうか?
これらの診療形態は提供される医療やサービスによって区分されていて、患者さんが支払う医療費の仕組みも全く異なります。
また、最近では保険診療以外の診療を受ける方も増えてきているため、これらの違いについては事前にしっかりと把握しておく必要があります。
今回の記事では、保険診療・自由診療・混合診療・先進医療の違いやそれぞれの仕組みについて詳細に解説していきます。
保険診療とは
保険診療とは、国民健康保険や健康保険、後期高齢者医療制度などの公的医療保険に加入している人が、医療機関で受ける「公的医療制度の対象となる診療」のことをいいます。
私たちが病気やケガで病院を受診し、保険診療を受ける時、どの地域のどの病院で診療を受けても診察内容が同じであれば金額は変わりません。
これは国民健康保険法や健康保険法によって、あらかじめ病気に対する治療方法とその診療報酬が決められているためです。
例えば、初診料は288点と保険点数が決められており、1点10円で計算されるため、全国どこの病院であっても2,880円です。
保険診療の最大の特徴は、病院にかかる際に保険証を提示すれば、実際にかかった医療費の内の1〜3割を自己負担分として支払うだけで診療が受けられる点です。
初診料の例で言えば、患者さんの支払う初診料は3割負担で2,880円×0.3=864円まで軽減されます。
具体的には、下図のような仕組みになっています。
(引用)日本医師会
残りの7割は加入している保険組合が負担しており、その負担分は保険組合の加入者から集められた保険料によって賄われています。
これは、日本で導入されている「国民皆保険制度」によって、日本国民全員で公的医療保険を持続させ、本当に医療を必要とする人の経済的な負担を軽減することを目的としているためです。
また、ひと月にかかった医療費が高額な場合は「高額療養費制度」が利用できるので、多額の医療費がかかった場合でも支払いを気にすることなく安心して治療に専念できます。
自由診療とは
それに対し、自由診療とは公的な医療保険が適用されない医療技術や薬剤による治療のことです。
例えば、日本では未承認ですが海外では承認済みの最先端技術を活用した治療を受ける場合などが自由診療に該当します。
自由診療に該当する治療法は数が非常に多いですが、主な例は下表の通りです。
自由診療の例 | ・ レーシックなどの視力矯正手術
・ 美容整形手術 ・ 子宮がん検診 ・ 胃内視鏡検査 ・ 男性型脱毛症(AGA)治療 ・ 人間ドック ・ インプラント ・ 歯列矯正 ・ 網羅的がん遺伝子検査 ・ 免疫チェックポイント阻害剤 等 |
自由診療のメリットは、自分の体質や病気に最適な治療を受けるための選択肢が広がる点です。
例えば、虫歯に対する保険治療では、詰め物にプラスチックやパラジウムを使用します。
それに対し、自由診療でセラミックを使うと、より滑らかで、隙間のない歯を手に入れることができます。
その一方で、自由診療による医療費は公的健康保険制度が適用されないため全額自己負担となり、医療費を各医療機関が自由に決められるので、医療費が高額になりやすいことがデメリットです。
保険診療と自由診療の違いを下表にまとめます。
保険診療 | 自由診療 | |
医療費 | 国内で統一された保険点数に則って算出される | 各医療機関が定める |
医療費負担 | 1〜3割負担 | 10割負担 |
メリット |
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デメリット |
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混合診療とは
混合診療とは、1つの病気に対して保険診療と自由診療を組み合わせた診療方法のことを指します。
海外では認められている場合がありますが、日本国内では原則禁止とされています。
仮に患者が日本で混合診療を望む場合、保険診療部分も含めて全ての診療が自由診療とみなされ、全額を自己負担で支払うことになります。
混合診療が禁止かどうかで下図のような違いがあります。
上図のように保険診療20万円、自由診療10万円の治療を受けた場合の医療費は、混合診療が禁止されている場合全額自己負担となるため、30万円の医療費を支払う必要があります。
それに対し、混合診療が認められる場合は保険診療20万円の3割である6万円と、自由診療の10万円を合わせて合計16万円の自己負担で済みます。
厚生労働省が日本での混合診療を禁止している理由は、主に下記の2点です。
- 全額患者負担の自由診療が一般化すると、患者の経済的負担が不当に拡大される可能性があるため
- 安全性や有効性などが確認されていない医療が保険診療と併用されてしまうことで、科学的根拠のない特殊な医療を助長する可能性があるため
しかし、一部の保険外療養費については例外的に混合診療が認められています。
具体的には以下に該当する場合、保険診療部分は3割負担、自由診療部分は10割負担と棲み分けされます。
混合診療が認められている保険外療養費の範囲 | ||
療養方法 | 評価療養
(保険導入のための評価を行うもの) |
選定療養
(保険導入を前提としないもの) |
例 |
|
|
上表で出てくる先進医療も、混合診療が認められる診療の1つです。
先進医療とは
先進医療は、厚生労働大臣が認めた「高度な医療技術を用いた治療方法」のことです。
具体的には、がんに対する陽子線治療や重粒子線治療などが挙げられます。
一般的な考え方では、先進医療は「自由診療」に含まれますが、一定の施設基準を満たした特定の医療機関で受ける先進医療であれば、通常の保険診療と先進医療の併用が認められています。
つまり、先進医療部分は全額を自己負担で支払うことになりますが、公的医療保険が適用される保険診療部分は通常通り3割負担で治療が受けられるということです。
2016年から始まった「患者申出療養制度」とは?
「患者申出療養制度」とは、患者からの申し出により、未承認薬などの使用の安全性が一定程度確認できたら、保険外併用療養として受けられるようにする制度です。
つまり、保険診療との併用を認められ、その治療や投薬自体が10割負担だとしても、入院費などの保険診療にあたる部分は保険適用される、ということです。
(引用)厚生労働省
■患者申出療養の適応されるケースとは?
患者申出療養の対象となるのは、将来的に保険適用をめざすための計画がたてられる医療に限ります。
具体的には、次のような場合に申し出を行います。
- ・治験、先進医療、患者申出療養のいずれも実施していない医療を受けたい
- ・先進医療で実施しているが、その患者の基準から外れてしまった
- ・先進医療で実施しているが、自分の身近な医療機関で行われていない
- ・すでに実施されている患者申出療養が、自分の身近な医療機関で行われていない
■先進医療との違いとは?
先進医療と患者申出療養の違いを下表に示します。
主な内容 | 審査にかかる期間 | |
先進医療 | ・厚生労働大臣が定める治療
・かぎられた医療機関でのみ受けられる(医療機関が申し出て、施設基準を満たす場合承認される) |
6ヶ月程度 |
患者申出療養 | ・患者が受けたい治療を申し出る
・審査の結果承認されると、身近な医療機関で受けられる |
2〜6週間 |
(参考)厚生労働省
先進医療は医療機関からの申し出により実施されるのに対し、患者申出療養は患者からの申し出により実施される点が違います。
また、患者申出療養を利用したとしても治療や投薬自体は10割負担であるため、高額な費用がかかる可能性は高いため、事前に資金を準備することをおすすめします。
まとめ
今回の記事では、保険診療・自由診療・先進医療・混合診療の違いや、近年登場した患者申出療養制度の仕組みを解説させていただきました。
保険診療と自由診療の最大の違いは、発生する医療費に対する自己負担の割合です。
また、保険診療と自由診療を組み合わせる混合診療は、日本では原則禁止されていますが、先進医療など一部の診療行為に対しては混合診療を認めているため、少ない自己負担額で受けることが出来ます。
しかし、日本では今後深刻な少子高齢化が予想され、国民医療費の逼迫により現行の制度を維持できない可能性もあります。
そうなれば、保険診療ではなく自由診療や混合診療での医療提供が進んでしまう可能性もあり、経済的余裕がなければ必要な医療を受けることが出来なくなってしまうかもしれません。
最近、「セルフメディケーション」という言葉を耳にされたことはあるでしょうか?
世界保健機関(WHO)では、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義されていますが、個人の“姿勢”としては理解できるものの、“国勢”を背景としてメディアが取り上げ始めているメッセージだとしたら…
悪く言えば、「自分のことは、自分で何とかしてください!」と解釈できなくもありません。
各国と比べても、素晴らしい仕組みを誇る「国民皆保険制度」ですが、さすがにこのまま少子高齢化が進むと厳しい状況があるのか…
では、どうすればこの素晴らしい“助け合い制度”を維持し続けることができるのか…
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