一般企業の多くは「株式会社」という形態を成していますが、保険会社には「相互会社」と「株式会社」という2種類の組織形態があることをご存じでしょうか?
保険業界に属していない方にとって聞き馴染みがないと思いますが、「相互会社」とは保険業界の独特な組織形態と言えます。
なぜこのような異なる組織形態があり、それぞれどのような特徴があるのでしょうか?
今回の記事では、相互会社について解説するとともに、株式会社との違いについても解説していきます。
保険業界のみに認められている相互会社とは
相互会社とは契約者同士がお互いを支え合う(相互扶助)ための相互保険を扱う会社のことです。
保険とは、大勢の人たちがあらかじめ少しずつ保険料を出し合って、誰かがケガや病気、事故、死亡した場合などに必要なお金(保険金)を支払う仕組みであり、それを取り扱う保険会社は「助け合い(相互扶助)」を行うための組織だと言えます。
このような保険の基本概念に基づき、日本では保険業法により保険会社にのみ相互会社という特殊な組織形態が認められています。
かつては大手の生命保険会社を中心に、多くの会社がこの形態をとっていました。
では、具体的に株式会社とどのような違いがあるのでしょうか?
「株式会社」と「相互会社」の違い
保険会社は全て相互会社な訳ではなく、株式会社の組織形態も認められています。
相互会社 | 株式会社 | |
性質 | 保険業法に基づく非営利法人 | 会社法に基づく営利法人 |
構成員 | 社員(保険契約者) | 株主 |
資本 | 基金(基金拠出者が拠出) | 資本金(株主が出資) |
意思決定機関 | 社員総会(総代会) | 株主総会 |
ご存知の通り、株式会社は会社法に基づいて設立する営利法人です。
それに対し、相互会社は相互扶助の概念に基づいた非営利法人で、設立に関しては保険業法に規定されています。
相互会社の構成員は保険契約者であり、これを「社員」と呼びます。
株式会社の構成員である「株主」に近いもので、実際に営業や経理などの実務を行っている社員とは概念が異なります。
株式会社の資本は株主からの「資本金」ですが、相互会社の資本は他の企業や機関投資家などの基金拠出者が拠出する「基金」となります。
ただし、基金は一定期間に償却(返済)する必要があるため、「基金償却積立金」を積み立てておくことが保険業法で定められています。
ちなみに、会社に利益が出た場合、株式会社の形態をとる保険会社は契約者だけでなく株主にも配当という形で利益を還元しなければなりません。
それに対して相互会社の場合は、余剰金という形で契約者にのみ還元すればよく、より契約者本位の組織形態だと言えます。
しかし、相互会社にはいくつかの問題点があります。
相互会社の問題点
①総代会の形骸化
上表に記載の通り、契約者を社員とする相互会社ではすべての社員で構成される「社員総会」が最高意思決定機関となります。
ところが、株式会社の意思決定機関である「株主総会」が多くても数十万人であるのに対し、相互会社は数百万人規模や数千万人規模と桁違いに多くなるため、合議は事実上不可能に近いと言えます。
そのため、社員の中から「総代」と呼ばれる代表者を選出し、その人たちが集まって合議する「総代会」を意思決定機関にしています。
問題は、この総代会がうまく機能していない点です。
株式会社ではいわゆる「物言う株主」が増え、会社経営のために活発な議論がなされていますが、相互会社では経営陣の意向を反映した人物が「総代」になってしまうことで適切な議論がなされず、「総代会」が形骸化してしまうケースが増えたのです。
この事が2005年以降の保険金不払いなど多くの不祥事の遠因だと言われており、相互会社における企業統治の脆弱さがデメリットと言えます。
②資金調達が困難
保険業界では1996年の規制緩和により、生命保険会社と損害保険会社がどちらも第3分野保険(医療保険など)を扱えるようになるなど、業界内の競争が激化しているため、より多くの資金調達をすることや経営戦略の自由度を増すことが年々重要になってきています。
株式会社では自社の株式を発行することで、比較的容易に資金調達ができますが、相互会社が資金調達をする場合は、返済義務がある基金を機関投資家などから募る必要があり、資金調達がしにくいです。
また、相互会社は相互会社同士でしか合併できないためM&Aがやりにくく、他企業との連携や海外進出がしにくいという難点もあります。
相互会社から株式会社への変換
2000年には保険業法が改正され、相互会社から株式会社への移行がスムーズにできる仕組みの整備がなされたため、多くの保険会社が株式会社に移行しました。
また、競争の激化と保険会社の株式会社化は、保険料にも影響を及ぼしました。
相互会社では、配当を出さない代わりに保険料を安くする無配当保険の販売は法律で制限されているため、契約者へ余剰金という形で配当を出す有配当保険が商品の中心でした、
一方で、株式会社にはこのような制限がないため、より安い保険料の無配当保険の商品が数多く出てきたのです。
また、最近はインターネット販売でより格安の保険料をうたう外資系企業の参入などもあり、保険業界の競争は今後もさらに激化して行く事が予想されます。
まとめ
今回の記事では、相互会社と株式会社の違いについて解説させて頂きました。
保険会社の多くが株式会社の組織形態をとるようになった一方で、老舗の大手生命保険会社の中には現在も相互会社のままの事業形態が散見されます。
ところで、この事業形態の違いは配当の有無に現われ、私たちが支払う保険料に影響していると解説しましたが、皆さんは次のように疑問を持たれたのではないでしょうか?
「同じ株式会社でも、あんなに保険料に差があるのはなぜ?」
「保険料の差に影響しているのは、配当の有無だけではないのでは?」
確かに、最近では新電力や携帯電話の「サブブランド」「セカンドキャリア」と同じような商品ラインナップが生保市場にも登場していることで、ますます各社の保険料に差が生じています。
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