突然の大地震や火災、交通事故に巻き込まれ、ある日突然家族が意識不明の重体になってしまった。こんなとき、入院費は誰が支払うのでしょうか?
本人が意識不明で長期入院しているとき、たとえ入院中でも入院費を請求されることがあります。
本人の意識がなければ、意識のある家族が入院費を立て替えるしかありません。
ただ、たとえ家族でも本人名義の口座から勝手に預金を引き出すことはできず、本人が加入している医療保険の請求は原則として本人(被保険者)です。
お金を用意する手段がないまま入院が長期化すれば、入院費を立て替えている家族の負担はどんどん重くなりますよね。
こんなときに活用できる制度が、生命保険の「指定代理請求制度」です。本制度を活用すれば、本人以外の人が保険金・給付金を請求できるようになります。
成年後見制度や家族登録制度とどう違うのか、詳しく見ていきましょう。
指定代理請求制度とは
通常、医療保険やがん保険など、医療費を補う目的の保険金・給付金の受取人は、保険の対象者である被保険者本人です。
そのため、被保険者本人が病気やケガで入院・手術したときの給付金請求は、退院後に落ち着いてからまとめて本人が行うケースが一般的です。
しかし、冒頭で解説したように被保険者本人が大規模な災害や事故に巻き込まれ、寝たきりや意識不明になってしまう可能性もあります。こうなってしまえば、本人は保険に加入していても請求手続きをできません。
このように、被保険者自身に「特別な事情」があるとき、あらかじめ指定した代理人が被保険者の代わりに保険金・給付金を請求できるようにする制度が指定代理請求制度です。
指定代理請求制度を使える保険商品は保険会社によって異なりますが、一般的には以下の給付金・保険金が代理請求の対象になっています。
<指定代理請求できる給付金・保険金>
・被保険者が受取人になっている医療保険、介護保険、がん保険の給付金、死亡保険の高度障害保険金、リビング・ニーズ特約保険金(生前給付金)など
一般的には、契約に「指定代理請求特約」を付加し、指定代理請求人を書面などで指定することで当制度を利用できるようになります※。
特約は無料で付帯できるため、該当の給付金・保険金がある保険商品を契約する際には、できる限り指定代理請求制度を活用しましょう。なお、契約途中でも被保険者の同意を得れば、指定代理請求人の指定や変更は可能です。
※特約ではなく、保険金受取人とあわせて契約時に指定代理請求人を指定する生命保険会社もあります
「代わりの人=指定代理請求人」に指定できるのは誰?
給付金・保険金を代わりに請求できる「指定代理請求人」の範囲は、保険会社によって異なります。一般的には、以下の人が指定されています。
<指定代理請求人の範囲>
- 被保険者の戸籍上の配偶者
- 被保険者の直系血族(子どもや父母、祖父母など)
- 被保険者と同居または生計を一にしている被保険者の3親等内の親族(兄弟姉妹や甥・姪、おじ・おばなど)
最近で、上記の範囲に加えて「被保険者と同居し、生計を一にしている同性パートナーや内縁関係にある人」を指定できる保険会社が増えています。
血縁関係がなくても、事実婚や内縁関係、同性パートナーでも指定できる可能性があるため、まずは契約中の保険会社に問い合わせてみましょう。
指定代理請求制度はどんなときに使える?具体的な事例
指定代理請求制度は、被保険者自身が請求できない「特別な事情」があるときに利用できるとされています。
実際、どのような局面で利用できるのでしょうか。
具体的な事例を以下に記載します。
- ケース1:介護保険の被保険者が認知症になってしまい、認知機能の衰えによりケガをして入院。しかし、被保険者本人は介護保険金に加入していることも忘れており、請求の意思表示すらできない状態
- ケース2:医療保険の被保険者が交通事故で寝たきり状態になってしまう。被保険者は意識不明のため、医療保険の入院給付金などの請求ができない状態
- ケース3:がん保険の被保険者が末期がんで余命宣告を受けたものの、家族が本人の精神状態などを考慮してがんや余命の告知を控えている状態。被保険者はがんや余命のことを知らないため、がん保険金やリビング・ニーズ保険金などの請求ができない状態
このような場合、保険に加入していても本人は意思表示が困難なため、給付金・保険金の請求ができません。
しかし事前に指定代理請求人の届け出をしておけば、被保険者の代わりに代理人が給付金や保険金を請求できます。
ただし、指定代理請求制度を使えば代理人が給付金・保険金を受け取るため、治療目的以外でお金を使うことができてしまいます。代理人を指定するときは、信頼できる人を指定しましょう。
また、ケース3で家族にがんや余命を告知しないまま請求すると、後日本人が保険会社に問合せることで、「すでに請求済み」の事実が発覚してしまう可能性もあります。
本人とトラブルにならないためにも、告知と請求のタイミングはよく考えましょう。
指定代理請求制度と「成年後見制度」「家族登録制度」「家族信託」との違い
近年は認知症患者の増加に伴い、指定代理請求制度とあわせて「成年後見制度」や「家族登録制度」「家族信託」などの利用を呼びかける保険会社も出てきました。
これらの制度と指定代理請求制度は何が違うのでしょうか。以下に各制度の概要をまとめました。
・成年後見制度
認知症などの理由で本人の判断能力が不十分な場合、本人の財産管理や介護・生活・医療・福祉など身の回りの事を保護・支援するために国が設けた制度。
身寄りがまったくいない人で、指定代理請求制度を利用できない場合は後見人を指定することにより、保険金・給付金の代理請求ができるようになる。
ただし、手続きの手間や費用がかかるため、使い勝手が良いとは言えない。基本は無料で利用できる指定代理請求制度を活用しよう
・家族登録制度
災害や認知症などに備え、契約者の家族の連絡先を保険会社に登録しておく制度。
大規模災害時などで保険会社から契約者に連絡が取れない場合、事前に登録している家族に連絡をすることで、保険金・給付金の請求漏れを防ぐことができる。
また、登録している家族であれば、契約内容の照会や給付金請求書といった書類の取寄せができる保険会社もある。
ただし、家族登録制度だけでは保険金・給付金の代理請求はできない。指定代理請求制度とあわせて活用する必要がある
・家族信託
財産管理の手法の一つで、本人が保有する不動産や現金、有価証券といった財産を、各自の目的に応じて家族に託せる制度。
国の制度である成年後見制度と違い、民間の事業者が提供する仕組みのため自由度が高く、家族間で柔軟に利用できる。
ただし、家族信託で財産管理を任された委託人が管理できるのは不動産や現金であり、保険金・給付金の代理請求権利はない。
保険金・給付金の請求は受取人固有の権利になるため、代理請求するのであれば指定代理請求制度を活用するしかありません。
成年後見制度でも代理請求は可能ですが、後見人の選出や利用手続きには時間がかかり、費用も必要です。
基本的には、無料で利用でき、書面で指定・変更が容易にできる指定代理請求制度を活用してください。
自分が保険金・給付金請求できないときのために
保険に加入していても、自分が病気や事故、認知症などで請求できない状態になっていると、保険金・給付金の請求ができません。
保険金・給付金の請求は受取人固有の権利です。
たとえ家族信託や遺言があっても、受取人の権利は簡単に侵すことができません。
自分が請求できなくなる事態に備えるためには、保険会社が無料で提供している指定代理請求制度を活用しましょう。
もちろん、指定代理請求制度には「代理人が被保険者の意図と違う形で保険金・給付金を使えてしまう」というデメリットもあります。
保険会社によって制度の取扱いが異なるため、各社で留意すべき点も違います。
とはいえ、保険会社によって異なる制度を個人で一つ一つ確認するのは難しいことです。
家族それぞれが異なる保険会社に加入している、あるいは自身が加入する保険が複数あるケースもあるでしょう。
専門家を尋ねて種々の契約内容について一括でアドバイスを受ける方法もありますが、「相談となると面倒くさい、腰が重くなる」という人は少なくありません。
そんなときは、自分で加入内容を診断できる「加入内容チェックシート」をご活用ください。
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