特に男性では年々増加傾向にある心疾患。
医療技術の発達や予防医学の向上が背景にあるにも関わらず、心疾患は多くの人命を奪い続けています。
日本人の死因別ランキングでも昭和60年以降はガンに次いで第2位であり、2021年の全死亡数に占める割合はなんと14.9%でした。
心疾患には狭心症や心筋梗塞が含まれますが、中でも心筋梗塞は致死性が高い疾患であり、急性心筋梗塞に限れば年間約15万人が発症し、そのうちの約30%が亡くなっていると言われています。
よく、狭心症の延長線上に急性心筋梗塞があると思われがちですが、厳密にはそうではありません。
そこで本書では、心筋梗塞と急性心筋梗塞の違いについて解説し、我々が気をつけるべきことを紹介します。
<もはや現代病!虚血性心疾患とは?>
心臓は睡眠中でも止まることはなく、運動時には負荷に合わせて激しく拍動してくれます。
そもそも、なぜ心臓は動き続けられるのでしょうか?
結論から言えば、心臓自体も心臓から駆出された血液によって常に栄養されているからです。
心臓から駆出された血液には豊富な糖分や酸素が含まれており、大動脈を通って全身に送られ、様々な臓器のエネルギー源となります。
例えば、筋肉や内臓がそうであるように、血液を送る役割を持つ心臓が動くのにも血液の供給が必要なのです。
中でも脳と心臓は常に休むことなく働かなくてはならない臓器であり、非常に酸素需要の高い臓器です。
裏を返せば、脳や心臓は酸素の供給不足に最も弱い臓器とも言えます。
心臓から駆出された新鮮な血液は大動脈を通り全身に送られますが、大動脈の根元に左右1本ずつある冠動脈と呼ばれる血管から、すぐに心臓の筋肉に血液が供給されます。
冠動脈には右冠状動脈、左前下行枝、左回旋枝の3本があり、左前下行枝と左回旋枝は、合わせて左冠状動脈と言います。
この冠動脈を介して常に心筋には新鮮な血液が供給されるため、心臓は休まずに動き続けることができるわけです。
みなさんがよく耳にする虚血性心疾患は「狭心症」や「心筋梗塞」の総称であり、その名の通り、冠動脈に異常が生じて心臓に供給される血液が足りなくなっている状態です。
では、この2つの疾患は何が違うのでしょうか?
<狭心症と心筋梗塞の違いとは?>
狭心症とは、高血圧や糖尿病などの生活習慣病によって冠動脈に動脈硬化が生じて、内腔が徐々に狭小化していく病気です。
動脈硬化とは、高血圧や脂質の過剰摂取などのさまざまな要因で血管が柔軟性を失い、硬くなってしまう現象です。
完全に血流が途絶えたわけではないので心筋が壊死するわけではありませんが、労作時に心筋の酸素需要が高まってしまうと、酸素供給が相対的に不足するため、胸部圧迫感や胸痛などの症状が生じます。
それに対し、急性心筋梗塞はさらに深刻です。
心筋梗塞の原因の大部分は狭心症と同様に動脈硬化です。
動脈硬化が進展すると、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が傷のついた血管内皮細胞のすき間に入り込みます。
さらに、それを退治しようとする免疫細胞や、その他の細胞も入り込むため、血管壁がコブのように膨れ上がります
この血管内に出来たコブをアテロームと呼び、アテロームが大きくなって破裂するとそこに血栓が急速に形成され、一気に冠動脈が閉塞してしまいます。
これが急性心筋梗塞の病態です。
一度閉塞してしまうと数分で心筋の壊死が始まり、まともな収縮運動は得られなくなってしまいます。
以上のことから分かる通り、心筋梗塞では冠動脈の内径が半分も狭くなっていなくても、アテロームが破裂してしまえば血栓が形成されて発症するため、必ずしも狭心症の延長にある疾患ではないということです。
また、狭心症の場合は徐々に内腔が閉塞していくため、労作時に胸の痛みや圧迫感を覚えるようになる人が多いですが、心筋梗塞の場合は自覚症状がないのに発症してしまうケースも多いです。
ちなみに、動脈硬化や血栓以外の原因で引き起こる急性心筋梗塞もあります。
例えば、冠動脈がけいれんしてしまう冠動脈攣縮、冠動脈が裂けてしまい内腔が閉塞する大動脈解離などが挙げられます。
では、次に急性心筋梗塞についてさらに詳しく解説していきます。
<致死率30%!急性心筋梗塞を徹底解説>
心筋梗塞を起こす人の約半数は、発症1-2ヶ月以内に胸痛や胸部絞扼感などの前兆を経験しますが、残りの半数は前兆なしにいきなり発症します。
前兆がある場合は、胸痛や胸部絞扼感が5-10分程度数回繰り返され、その後大きく激しくなったり、頻度を増したりしますが、安静にしていれば症状は改善するため軽視して放置してしまう人も少なくありません。
安静時に症状が出るようであれば、かなり危険な状況の可能性が高く、早急に医療機関を受診する必要があります。
また、胸の痛み以外にも左肩の痛みや歯痛、腹痛と訴える方もいます。
症状が進行して、本格的に心臓がポンプとしての役割を果たせなくなってくると急性心不全に陥り、呼吸苦、冷や汗、吐き気、顔面蒼白、脱力感、動悸、めまい、失神、ショック症状を呈する場合もあります。
このように、心筋梗塞は非常に危険な病気ですが、早期に治療をすれば助かる確率が高くなる病気でもあります。
発症後6時間以内に治療開始できれば、9割ほどの方が助かると言われているため、早期発見が肝要です。
「発症後6時間」という目安は、それまでに冠動脈が再灌流すれば梗塞範囲が小さくなると言われているからです。
再灌流療法には、血栓溶解療法とカテーテル・インターベンション(PCI)、そして冠動脈バイパス手術があります。
近年では、特に低侵襲なPCIが治療の第1選択肢となっています。
血栓溶解療法は可能な施設が限定されるため、日本ではあくまで第2選択肢となっています。
ただし、病状によってはPCIではなく冠動脈バイパス手術を選択することもあります。
現在、1枝病変(冠動脈の1本が詰まった状態)では、主にPCIが選択されますが、2枝病変や3枝病変、あるいは他の疾患も合併しているような、より重篤な症状の場合は冠動脈バイパス手術でなければ対応できません。
一度心筋梗塞に罹患して心筋が壊死してしまうと心機能は著しく低下してしまい、発症前の生活の質を取り戻すのは大変です。
また仮に再灌流したとしても、心臓外科手術ともなれば入院期間はとても長く、筋力低下や経済的負担も生じます。
さらに、再発する可能性もあるため、心筋梗塞に罹患しないようにしっかりと日常生活から予防することが大切です。
特に、高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病や、乱れた食生活、運動不足、ストレス、喫煙は心筋梗塞のリスクを高めるため注意が必要です。
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