毎年発生する介護殺人はどのような状況の基で起きているのか、またその原因は何なのか?
介護殺人は1998年から2015年の18年間で716件発生しており、介護を原因とする殺人事件は年間数十件のペースで起こっています。
介護『殺人』までいくとテレビの向こう側の事象に思えますが、介護殺人の多くの原因は介護者のストレスや体調不良などが積み重なったもの、虐待から始まったものが多くこれから介護を行っていく方にとっては決して他人事ではありません。
今回は代表的な介護殺人事件を特集し、介護殺人が起こってしまう経緯や原因、そうならないための対策について詳しく紹介していきます。
代表的な介護殺人事件
私たちの周りでは様々な介護殺人事件が実際に起こっています。ここからはまず実際に起こってしまった介護殺人事件について紹介していきます。
川崎老人ホーム連続殺人事件
2014年11月から同年12月にかけ、神奈川県川崎市幸区幸町2丁目の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で発生し、2016年(平成28年)2月に救急救命士の国家資格を持つ施設の元職員Iが逮捕された連続殺人事件です。
この事件では要介護2〜3の高齢者が次々に施設敷地内にて転落死してしまう事件で世間の注目を集めました。
逮捕された容疑者は現場では『優秀な介護職』という評価を受けており周りから評判も良かったとのこと。
詳細な動機はいまだに語られてはいませんが、「手がかかる人だった」「介護の仕事にストレスがたまっていた」という趣旨の供述をしており介護によるストレスが原因だったのではないかと考えられています。
京都伏見介護殺人
2006年2月1日、京都市伏見区の桂川の遊歩道で、区内の無職の長男(事件当時54歳)が、認知症の母親(86歳)の首を絞めて殺害、自身も死のうとしたが未遂に終わった事件。
息子が実際に母を殺めるまでの金銭的に追い詰められていく過程や壮絶な人生から裁判官が「裁かれているのは被告だけではない。介護制度や生活保護のあり方も問われている」と長男に同情した事件で介護殺人の中でもかなり有名な事件です。
認知症を発症した母の介護を10年以上経たのち、介護をするためにやむを得ず休職を決断、生活保護も申請できず経済的な苦境に追い込まれ、母との心中という決断にいたってしまいました。
この事件をきっかけに介護の相談先や社会制度、介護制度に多くの避難や疑問を集め、世間が介護する家族の現状に興味を持ち出したきっかけにもなりました。
他人事ではない!?介護殺人が起きてしまう原因
どんな理由があっても殺人は許されるものではありません。しかし多くの介護殺人は長年連れ添った配偶者や家族、介護という仕事を志した職員などです。
いったい何がこのような結果を招いてしまうのか、その原因について考察していきます。
介護によるストレス
家族が介護を行うきっかけは『仕方なく介護を行う』という状況がほとんどで、いつ介護が始まるのかを予測し準備を行っておくのが困難です。
介護には軽度から重度のものがありますが、寝たきりの方の介護を自宅で行った場合一日のほとんどを介護の時間に費やすことになります。
このような状況は身体的・精神的に大きなストレスとなります。
肉体的なストレスだけにとどまらず精神的なストレスもあり、それらのストレスは独立した者ではなく重なり介護うつを引き起こす原因にもなります。
また特に認知症を患っている場合、これまで生活してきた中での一般常識が通用しない場合や思い通りにならないことも多いため介護ストレスを貯めこみやすい傾向があります。
金銭的な問題
介護を行う際に利用できるのが介護保険を使用した介護サービスですが1割の料金負担があるためお金がかかります。
また介護を行うために今の職場を退職する『介護離職』により収入が低下することで経済的な負担が上昇します。
京都伏見介護殺人に代表されるような状況が誰にも訪れる可能性があるということです。
また身体的・精神的負担同様に金銭的な負担は下記のような生活苦を及ぼします。
- 金銭的な余裕がなくなり自分の余暇時間に投資できない
- 金銭的な余裕がないことで不安が重なり介護うつを引き起こす
- 介護うつが精神的な負担と重なり更なる生活の質の低下を及ぼす
介護施設の職場環境、人間関係、ストレスなど
川崎老人ホーム事件のように介護施設での介護殺人のケースでは介護業界特有の人手不足やそれによる勤務負担の増加、給与面の不満により殺人にまでいたってしまうという事がみられます。
介護殺人をおこさないためになにができるのか?
介護殺人にいたる主な原因は介護によるストレスや金銭の問題ということを解説しました。
このような状況にならないため、抜け出すためには介護を行う際にどのようなことに注意する必要があるのでしょうか。
介護により引き起こされる『生活苦』を避ける
上記で説明したように経済的な負担の上昇は将来の不安を上昇させ、虐待や介護殺人にいたってしまう原因になりかねません。
まずは収入源を確保するためにも介護を行う際は一人で抱え込まず、親族の協力や効率の良い介護サービスの導入を行うことを介護をおこなう時点で検討しましょう。
介護と仕事を両立できる方法を考えるために仕事を辞める前に介護休業制度などを利用して環境づくりからはじめてみましょう。
また寝たきりなどの場合、介護疲れによりご自身の精神や肉体が壊れてしまう可能性が高まります。そのような想定ができる場合は介護施設に入居することも検討する必要があります。
大切な家族の介護をご自身の手で行いたいという気持ちは確かに素晴らしいことですが、介護だけでなくその先のご自身の人生をどのように生きたいのか考えることも重要です。
相談先、相談窓口を持っておく
京都伏見介護殺人に代表されるようなケースでは介護に追い込まれた状況を打開できず、人に相談できないというケースが発生しています。
現在こそ、行政による相談窓口が増えたものの常に相談できる人が以内のは介護において大きなストレスになる原因になります。
いざ、介護を行う立場になったとき介護を行う可能性がある時に親族や行政窓口など気軽に相談ができる先を確保しておくことが介護うつなどを未然に防ぐために重要です。
介護施設の人手不足の解消
介護殺人の中でも介護施設で発生するものの多くは職場環境や人間関係、雇用条件の不満から虐待、殺人に発展するものがほとんどです。
このような状況を打開するためには介護を取り巻く職場環境が重要になってきます。近年では介護業界に処遇改善加算と呼ばれる給与の改善施策などが行政から行われており、介護職を取り巻く環境改善が図られています。
介護殺人の傾向とは?
日本福祉大学の湯原悦子教授の研究によると冒頭で紹介した介護殺人716件を分析し、共通項目を探すことで5つのポイントがあると指摘しました。
- 約4割の事件で加害者は心中を考えていた
- 2人世帯での事件発生率は約4割で発生しやすい
- 加害者一人に大きな介護負担がかかっている
- 加害者に精神的ストレス、病気、体調不良の問題があった
- 約4分の1の被害者が寝たきり状態だった
といわれています。
すでにこのような状態にある場合はもちろん誰かに相談することが必要です。自分が家族や利用者を殺めてしまう、傷付けてしまう前にこのような状態を避けることが非常に重要です。
まとめ
介護というのは場合によって人を殺めるきっかけになるほど壮絶なものになり得ます。
現在介護を行っている方はもちろん、現在介護とは無縁な方でも皆様のご両親がいつ介護が必要な状況になるかはわかりません。
社会制度や介護制度がより介護を頑張る家族にとって良いものに変わっていくことはもちろんですが、介護を行う側が身体的・精神的に健康に介護を行える環境を整えることがこのような悲劇を起こさないために最も重要な事です。
今回の記事を参考に現在の介護、将来の介護の可能性に目を向け準備を整えてみてはいかがでしょうか。
【エピローグ】 もし、このようにお考えなら
超高齢化社会を迎え65歳以上の人口が約4人に一人となった現在の日本では、社会問題と化した「介護」がもはや避けては通れないリスクとなりました。その課題の中心にあるのが「担い手問題」「費用負担問題」の二重苦であり、いずれも現役世代の皆さんに降りかかってくる問題です。
今や7割を占める夫婦共働き世帯においてどちらかが担い手になれば、それは同時に収入ダウンを意味することになります。また、費用は親の年金で何とかなると考えている方が多く、直面して初めて頭を抱える方が少なくありません。
《参考》
・介護費用(月平均)8.3万円/生命保険文化センター「令和3年度生命保険に関する全国実態調査」
・厚生年金(月平均)14.6万円、国民年金(月平均)5.6万円/厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和2年度)」
他方、本来なら頼りにしたい社会保障も財政難に直面しており、国民の負担は増加傾向にあります。
《参考》
・利用者の自己負担割合:創設時( H12年度)1割から、現役並みの所得がある場合は3割へ(H30年8 月制度改定)
・40~64歳の月平均介護保険料:H12年度 2,075円から、令和2年度 5,669円に増加/厚生労働省「介護保険制度をめぐる最近の動向について」
かかる状況下、生活苦に伴うストレス等を原因に殺人まで惹起する深刻な問題である一方で、現役世代の大半は目の前の生活に追われ何ら対策を講じていないことも多く、実際に介護が発生してから後悔する方が後を絶ちません。
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