いつ起こるかわからない… 現役世代が心配していることの一つが「介護離職」ではないでしょうか?
現在『介護離職』という言葉が社会問題になっています。
介護離職とは介護や家族の看病をきっかけに現在の仕事を退職することで、介護サービスが充実してきた現在においても年間10万人が経験する現状になっています。
30代、40代、50代…現在バリバリに働いている方の中の心配事の一つが
「もしも親の介護が必要になったら、どのように生きていくか?」
ということではないでしょうか。
介護は肉体的、精神的に負担がかかるものであることは間違いありません。
介護離職を決断される方の多くは実際に「介護に専念すれば負担が軽くなり楽になるのでは?」と考えられる方が多い傾向にあります。
しかし、実際には介護離職には経済面を中心に多くのデメリットが存在しており決断は慎重に行う必要があります。
今回の記事では実際の事例をもとに介護離職のメリットやデメリット、離職の際の注意点などについてご紹介していきます。
年間10万人が・・・介護離職の背景は
2018年総務省の公表したデータによると『介護をしている』方の人数は全国で628万に上るとされています。
そのうち『働きながら介護を行っている』という方は346万人、6割近い方が介護と仕事を両立していることになります。
一方介護や看護の為に前職を辞めたという回答は約10万人に上り、様々な理由で離職した方の1.8%が介護が理由で離職しているという現状で平成24年の前回調査とあまり変わらない数値となっています。
その中には働き盛りとされる40代、50代も多く含まれています。
介護離職のメリットとデメリットとは
年間10万人以上が選択する『介護離職』ですが、実際にはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。ここからは実際に介護離職を選択した理由を見ながら考えていきます。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(厚生労働省委託調査)の「平成24(2012)年度仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」によると実際に介護離職を選択した方の理由は
- 介護と仕事の両立が難しい職場だった(職場の問題)
- 自身の健康状態の悪化(自身の体調)
- 介護に専念できる環境にしたかった(介護への専念)
- 施設へ入所できなかった(外部環境の影響)
- サービス利用料軽減のため(お金の問題)
主に5つの原因があることがわかっています。
その中でも特に多かったのが介護と仕事の両立が難しい職場だった(職場の問題)というもので全体の約6割以上を締めているという現状でした。
また同調査で仕事を続けたかったという回答は5割強あり、多くが望まない離職であることがうかがい知れ、社会問題となっている介護離職の現状がわかる結果となりました。
このような内容から介護離職のメリットとデメリットを分析すると
メリット
- 心身の負担が軽減できる
- 介護費用を軽減できる
- 介護に専念できる
デメリット
- 収入が無くなる、減少する
- 好きな仕事を続けられなくなる
- 介護に専念、経済状況の悪化により自由な時間が制限される
ということが一般的に考えられているメリットとデメリットであるということがわかります。
しかし、介護に長年携わってきた筆者としてはデメリットの部分は腑に落ちるものの、メリットに関しては
「果たしてそれは本当なのか?」
という疑問点があるのも事実です。それについてはこの後に解説していきたいと思います。
心の負担は本当に減るのか
メリットにあげた『心身の負担が軽減する』というのは事実なのでしょうか。
実際に介護離職をした方の理由にあるお金や施設の問題以外は『負担を軽減するため』という風に言い換えられる理由です。
対象が職場や自身、親と変わるものの実際に負担は軽減するのでしょうか。
離職の原因でも紹介した調査において、994名に介護離職後の負担の変化について聞き取りを行ったデータによると、多くの方が介護による心身の負担の軽減を目的に介護離職するにも関わらず、実際には、
- 「精神面」が64.9%、
- 「肉体面」が56.6%
- 「経済面」が74.9%
の方が、離職後に「負担が増した」と回答しているのです。
介護離職は仕事を辞めるため経済面の負担が増えることはわかりやすいですが、半数以上が精神的、肉体的な負担が増えてしまったというデータには驚きです。
『精神』『肉体』『経済』はそれぞれお互いに関係しており、一例としては経済面の負担が増えることにより、普段の余暇活動や生活の質をあげるための投資を行うことができなくなった影響で介護者の精神面に負担を生じたり、介護サービスに使えるお金を節約するようになったことにより肉体的な負担面が増えてしまうといった悪循環に陥ってしまいます。
疲れた肉体、減ってしまった社会生活により会話は毎日親とだけ、ストレスが貯まり精神的な負担がかなり増えてしまうというのも良く聞く現状です。
実際に私の知り合いのケアマネジャーさんたちも介護離職により現状はあまり変わらない、または悪化するという現状を知っているため、家族さんに介護離職をおすすめすることはまずありません。
このように多くの方が介護離職前の予測と乖離した状態に陥っており、精神的・肉体的な負担が減るのが本当にメリットなのかどうかは疑問に思えます。
介護離職に本当にメリットはあるのか?
厚生労働省の調査によると、主な介護者と要介護者等との続柄は、6割が同居の『配偶者(夫・妻)』『子(息子・娘)』『子の配偶者(息子・娘の妻)』です。
男女比で見ると離職者9.9万のうち
- 男性:2.4万人
- 女性:7.5万人
で8割が女性という現状です。
以前から女性の離職は多いものの最近では独身の男性も増えてきた影響で働き盛りの40代~50代男性の割合も増えているのが特徴です。
独身であれば収入の全てが無くなってしまいますし、夫婦の場合は世帯収入の多くが減ってしまうという状況になってしまいます。
このような状況は二大固定費といわれる子供の教育費と住宅ローンの返済への影響も大きいです。
また大きな収入減の減少は生活水準の低下を感じさせるもので精神面への影響もあります。
このようにまずは現在の生活全般に不満を感じるでしょう。
しかし本当に問題なのは現在の生活水準だけではなく
- 介護している間の収入損失
- 公的年金額の減少
- 退職金の減少
- 再就職の際の収入減少
- 老後の生活の困窮
などの影響を与える要因になることです。
介護離職は数年だったとしてもその数年の影響は大きく、一生涯の年収が大きく減少してしまうという事実をしっかりと認識したうえで介護離職の決断を行う必要があるといえます。
まとめ
ここまで介護離職による『メリット』『デメリット』について紹介してきました。
筆者の結論としては『介護離職にはほとんどメリットがない』ということです。
とはいえ致し方ない事情で介護離職を選択せざるを得ない方もいらっしゃるのは事実です。
大切なのは介護離職を回避するためにはしっかりとした『備え』をしておくということです。やはり介護離職の問題を大きくする要因は『お金』です。
民間の介護保険に入るなど直接的な備えを今から行っておくことも含めて
- そもそも家で介護を行う必要があるのか?
- どのような状態になったらどのような介護をしていくのか?
- 誰が介護をするのか?役割分担はどうするのか?
- 介護が必要になったらどこに相談するのか?
などについて親が元気なうちにしっかりと打ち合わせを行っておくことは重要です。
現在の日本では介護にかかる年数の平均は9年~12年といわれています。
すぐに介護離職という決断をしてしまう前に、『親の介護が終わった後の人生』を含めたライフプランを設計してみてはいかがでしょうか。
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