日本では、保険診療と自由診療を組み合わせる「混合治療」は原則として認められていません。
患者の医療費負担の増加や化学的根拠のない特殊な治療法の拡散防止といった“患者保護”の観点から禁止されているといわれています。
その一方では、患者が未認可の治療法を選択することにより治療の幅が広がるという意見もあり、長い年月をかけてゆっくりと混合治療の部分的な解禁が進められています。
「患者申出療養制度」は、そんな混合治療の部分的な解放につながる制度のひとつです。
本制度の登場により、患者はどのような選択肢を手にしたのでしょうか?
今回は正しく本制度を利用するための基礎知識について解説します。
患者申出療養制度とは
患者申出療養制度とは、日本で承認されていない薬などを国の機関が審査し、安全性を確認した上で利用を認めるための制度です。患者から未承認薬使用の要求を受けた医療機関は臨床研究中核病院と連携して国に申請を行い、承認を得られれば保険診療と併用した治療が可能となります。
先進医療との違い:
患者申出療養制度と類似の制度に「先進医療」があります。どちらも未承認の治療法を使えるという点は共通していますが、対象の治療法や実施方法などに大きな違いがあります。
患者申出療養制度 | 先進医療 | |
利用できる技術・治療法 | 国からの承認を得られた技術・治療法 | 厚生労働省が先進医療として認定した83種類の技術・治療法 |
実施可能な医療機関 | かかりつけ医など、身近な医療機関でも利用可 | 厚生労働省が承認した1,953医療機関(令和5年2月1日現在)に限られる |
審査期間 | 2~6週間 | 3~6カ月 |
治療法の起点 | 患者がかかりつけ医・臨床研究中核病院に使用を申し出 | 医療機関が主導 |
先進医療の対象となるのは、厚生労働省が認定した83種類(※)の技術・治療法に限定されます。
また、先進医療を実施できる医療機関も厚生労働省が承認した1,953の医療機関(※)に限定され、また医療機関によって受けられる医療内容が異なります。なお原則として先進医療の使用には医療機関から患者への提案が必要であり、患者側の意思だけで先進医療を選ぶことはできません。(※2022年度現在)
他方、患者申出療養制度は患者自らが医療機関に使用を申し出て未承認の治療法・新薬を使うことができる制度です。
国からの承認を得られた治療法は、最寄りの”かかりつけ医“でも利用できる可能性があります。
また、先進医療は3~6カ月と長い審査期間を必要としますが、患者申出療養制度は最長でも6週間、過去に承認の実績がある治療法なら2週間程度と承認期間は短めです。
混合診療とは:
混合治療は、公的医療保険が適用される保険診療と、適用されない自由診療を組み合わせて行う医療行為です。混合治療への公的医療保険の適用はたとえ部分的であっても健康保険法違反となります。
自由診療に該当する治療行為がわずかでも行われる場合は、原則として全ての治療費に保険が適用されずに自己負担となります。
しかし、1984年10月に先進医療の前身である「特定療養費制度による高度先進医療」が創設され、2004年12月には当時の内閣により「混合診療問題に係る基本的合意」が結ばれましたことで段階的な混合治療の解放が進められることになり、公的医療部分にのみ保険を適用できる「保険外併用療養」が認められるようになりました。
2016年4月に正式に開始された患者申出療養制度においても保険外併用療養が認められているため、患者は認可外治療の治療費負担をわずかながらでも軽減できるようになっています。
患者申出療養制度の申出を行うには
医療の可能性を広げる制度ともいわれる患者申出療養制度は、どのような手順で申し出ればよいのでしょうか。
患者申出療養制度の利用は、まずは患者とかかりつけ医の相談から始まります。治療を検討するきっかけは以下の様な患者の気持ちが起点です。
- 海外で使われている治療法を試したい
- 都市部の病院で受けられる治療法を近隣の病院で受けたい
- 治験と同じ治療を受けたい
- 先進医療の募集要項に外れてしまった
まずは主治医と十分な話し合いの時間を持ち、可能性とリスクを踏まえた治療方針の検討が必要です。
申し出先である臨床研究中核病院は、治療法の化学的根拠や試験計画などを盛り込んだ計画書を作成し、国の審査期間へ提出します。
国は過去に事例がある治療法なら約2週間、事例がない治療法なら約6週間の審査を行い、治療効果や安全性が認められれば晴れて承認を受けられます。
承認された治療法は指定の医療機関でのみ受けられるといったことはなく、自身が信頼を寄せる“かかりつけ医”でも利用可能です。
まとめ
患者申出療養制度は、これまで保険診療の範疇で有効な治療法がなかった患者にとって可能性が広がる制度のひとつです。
先進医療のように専門の医療機関まで出向く必要なく治療を受けられるため、通院が難しいために治療を諦めていた患者も自由診療を受けやすくなっています。
また、こうした先進医療や患者申出療養といった制度の登場は混合診療の段階的な解放を意味していますが、一部ではこうした動きが今後の医療に与える影響を不安視する声もあります。
ご承知のとおり、国家予算に占める医療費の割合は増え続け国の財政を逼迫し続けている中、自由診療を受けやすくするその方針の“裏”にはどんな事情があるのでしょうか?
「それってどういうこと?」「気になる…」という方には、続けてこちらのコラムのご確認をおすすめします。
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