「親なき後問題」は社会全体の問題です。不安の根源、問題点、問題の解決策などを紹介します。
筆者は地方中核病院に勤務する医師です。
障がいのある子やその両親と病院で治療方針について相談することがあります。治療方針を考える上で、親子の抱えている社会背景や利用できる社会資源、サービスを知り対応していく必要があります。
「親なき後問題」は社会全体の問題です。「親なき後問題」とは障がいのある子の生活を支えている親がいなくなってしまったときに起こってくる問題のことを指します。
この記事では、障がいのある子の将来について親が抱える不安の根源、問題点、問題の解決策を紹介します。
障がいのある子の親が抱える不安の根源
親が元気なうちは、親が障がいのある子の生活を支えることができます。親自身がいなくなってしまった後に「誰が、どのように」わが子の生活を支えてくれるのか、と将来について考えると不安になってしまう親は少なくありません。
一般的に親が抱える不安のタネや問題点は以下の通りです。
- 成年後見人の選任
- 生活基盤の安定
- 財産管理や金銭トラブル
- 親が亡くなった後の各種手続き
- 子どもが亡くなった後の財産の行く末
親なき後問題の本質は、障がいのある子の「将来に対する不安」です。親なき後問題を解決するためには、親子生活の現状を再確認しましょう。その上で、不安を解消をするために今何をするべきなのかを考える必要があります。
親や家族が元気なうちに、現状にあう具体的な備えをすることが重要です。具体的な問題を明らかにし、問題に応じた解決策を検討します。
成年後見人の選任
「成年後見制度」は、障がいのある子の生活を支援する方法の1つです。成年後見人として望ましいのは、近くに住んでいる親族と言われています。身近に住んでいる親族であれば障害に対する理解も深く、成年後見人に最適な人選になることが多いです。
身近に適した人物がいない場合には、弁護士や司法書士などの「第三者後見人」を選ぶ方法が一般的です。
適切な人物を見つけた後は、家庭裁判所が成年後見人を選任します。選任以降は成年後見人が障がいのある子の生活支援や財産管理を行います。
生活基盤の安定
障がいのある子の生活基盤の維持は大きな問題です。親以外に同居ができる親族がいない場合は、生活を支援してくれるサービスの利用や施設への通所・入所が必要になることが多いです。
また、サービスや施設の利用には契約が必要です。障がいの程度によっては自分ひとりで契約を結ぶことはできません。契約を代わりに行うためには、成年後見人を事前に選任しておく必要があります。
財産管理や金銭トラブル
生活資金の確保をはじめとした財産管理や金銭トラブルも親なき後問題で懸念されるポイントです。生活資金に含まれるものは食費、光熱費、通信費、交際費、家賃など多岐に渡ります。障がいのある子が介護サービスや施設を利用する場合は利用料も含まれます。
生活資金を含めて、親が遺した財産を障がいのある子が管理することは困難なことが多いです。購入意欲を刺激する広告にあふれた現代社会では浪費で財産を失ってしまうこともあります。
精神障がいや知的障がいの場合は判断能力が不十分な人が多いです。そのため、悪質な押し売りや詐欺の被害にあう可能性が高まります。対価に見合わないような高額商品を売りつけられてしまうようなケースもあります。
障がいのある子に関わる金銭トラブルを予防するために、成年後見制度や信託の利用を検討しましょう。
親が亡くなった後の各種手続き
親が亡くなったとき、事務的な手続きや葬儀の手配などが発生します。障がいのある子が親の死後にさまざまな手続きを行うことは現実的に難しいです。
「死後事務委任契約」をご存じでしょうか?この制度について、詳細は後述します。
子どもが亡くなった後の財産の行く末
親が存命のときに金銭を子どもの名義の口座へ移すと、親も子も自由に使いきれないまま国庫に帰属するおそれがあります。なぜなら、子どもの口座のお金を親が自由に使うことを銀行が認めないからです。財産処分の柔軟さや行く末を重視する場合には、親の財産を安易に子どもの口座に移すのは避けましょう。
財産を子ども名義の口座に移すと実質的には親の金銭であっても親が自由に引き出したり、活用できなくなります。その後、障がいのある子がなくなった後に使えなくなってしまったお金が国庫に帰属してしまうケースは多くあります。
親の死後は子ども名義の預金は成年後見人を選定している場合には、成年後見人と家庭裁判所の管理下におかれます。その後、障がいのある子が亡くなった後は、子どもに相続人がいる場合は相続人に財産が継承されます。しかし、相続人がいない場合には原則として財産は国のものになります。
親なき後問題、解決策は?
親なき後問題の解決策を紹介します。
- 成年後見制度を利用する
- 遺言を利用する
- 死後事務委任契約を利用する
- 自治体や専門家の相談窓口を利用する
- 特定贈与信託を利用する
成年後見制度を利用する
親なき後問題の解決には、成年後見制度の利用が一般的です。成年後見人は各種の手続き、契約ができることに加えて障がいのある子が結んだ契約を後から取り消すこともできます。
親が元気な間は、成年後見制度は必要ないことが多いです。しかし、親が元気なうちから成年後見制度を利用し、納得のいく形で身近な親族や信頼できる専門家を後見人にするという方法もあります。
デメリットとして、成年後見制度は一度利用すると途中で止めることができません。また、最終的に誰が成年後見人になるかを決める権限は家庭裁判所にあるため、希望に沿った人が選ばれない可能性があることには留意しておきましょう。
遺言を利用する
相続人が複数いる場合、遺言を利用することで障がいのある子に渡す財産を指定したり相続させる財産の割合を変更したりできます。
ただし、遺言は万能ではありません。仮に障がいのある子を思って多額の財産を相続させたとしても他の相続人が納得しなければもめごとに発展するケースは少なくありません。
また、「遺留分」という仕組みがあり、ある一定の比率まではどの相続人にも財産を相続する権利があります。全財産を障がいのある子に渡そうと親が遺言に残したとしても、他の相続人が納得していない場合には一定の比率まで財産相続を請求する権利が他の相続人にもあります。
したがって、他の相続人が納得していなければ親の思うような相続財産の配分ができないこともあります。
遺言の内容や相続人同士の関係によっては「不公平感」が生まれてしまうことがあります。不公平感によっては、生前は良好だった親族関係が破綻してトラブルにまで発展してしまうおそれがあります。
遺言の内容は相続人が納得するように検討する必要があります。
死後事務委託契約を利用する
信頼できる親族や専門家と契約を結び、自身の死後の事務をあらかじめ依頼しておく契約です。死後事務委任契約を結んでおくと、親が亡くなったときの、子どもにかかる各種手続きの負担を軽減することができます。
死後事務委任契約にかかる費用は、葬式の費用など死後事務の処理自体にかかる費用と依頼した相手への報酬に分けられます。
依頼した相手への報酬は自由に決定できます。相手が納得すれば無報酬ということもあります。専門家と死後事務委任契約を結んだ場合は報酬がかかりますが、第三者の方が安心というケースもあるでしょう。
専門家に依頼する場合は、契約時に託しておく方法と遺産の中から充当する方法があります。
自治体や専門家の相談窓口を利用する
成年後見制度や遺言について解説しましたが、実際に自分のケースに当てはめると状況が異なるというケースは多くあります。「親なき後問題」に取り組むときには、相談に応じている法律の専門家らに相談しましょう。対応が難しい場合でも、関係のある自治体の支援サービスや制度を紹介してくれる場合もあります。問題解決の糸口になることは間違いありません。
特定贈与信託を利用する
障がいを持つ人の生活の安定を支える信託、商品のことで、ご両親や親族、篤志家などが信託銀行などに財産を信託します。信託銀行などはその財産を管理・運用し、障がい者の方の生活費、医療費、施設利用料などとして定期的に金銭を障がいを持つ人に交付してくれる制度です。3000万円から6000万円もの巨額な非課税枠を利用できるので、検討してみる価値はあると思います。
例えば、障がいを持つ子の両親が亡くなっても、障がいを持つ子が亡くなるまで生涯にわたって信託銀行などが財産を管理して、定期的に金銭を交付してくれます。
まとめ
不安の原因がわからないから解決策がわからずにさらに不安になってしまうこともあると思います。不安になる原因を一つずつ認識して解決策を検討すると、少しずつ不安が解消されます。考えたあとにはさらに一歩進んで、具体的な行動に移していきましょう。
家族、親族、専門家、地域社会の力を借り、公的制度や支援を利用しましょう。障がいのある子が安心して生活を送れるように、少しずつ行動を起こしてみましょう。
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