今まで男性のガン罹患率で圧倒的に多かったのは、胃ガン、大腸ガン、肺ガンでした。
しかし、近年はこの順位に大きな変動があり、高齢化の影響を除いた部位別ガン年齢調整罹患率(男性)では、圧倒的1位であった胃ガンは徐々に低下傾向、肺ガンは横ばいであり、大腸ガンは増加傾向、前立腺ガンは2000年代に入り急増しており、2020年の部位別罹患者数(男性)は胃ガンや肺ガンを押しのけて、前立腺ガンが第1位に、大腸ガンが第2位になりました。
今や前立腺ガンは男性が最も罹患しやすいガンであり、年間9万人以上が新規で発症し、人口10万人中150人が前立腺ガンを持っている計算になります。
今まで胃ガンや肺ガンなどに比べて、あまり注目されてこなかった「前立腺ガン」ですが、なぜ今になって急増し始めたのでしょうか?
そして、我々が取るべき対策はどんなことがあるのでしょうか?
本書では、前立腺ガン急増の理由や、我々の取るべき対策について詳しく解説していきます。
<罹患者数第1位に躍り出た前立腺ガンとは?>
2003年、天皇陛下が前立腺ガンに対して手術を受けたのが記憶に新しいですが、2000年代に入り前立腺ガンに罹患する人が急増しており、多くの男性にとって他人事ではなくなって来ています。
そもそも前立腺ガンとはどのようなガンなのでしょうか?
膀胱に溜まった尿は尿道を通って排尿されますが、尿道は膀胱の下にあるくるみほどの大きさの前立腺内を通過しています。
この前立腺では、前立腺液と呼ばれる性液の一部を作っており、精子に栄養を与えたり運動を保護したりしています。
この前立腺がガン化すると、内部を通過する尿道が閉塞して排尿障害が出たり、骨に転移して痛みが生じる可能性があります。
2006年の段階では、前立腺ガンと新たに診断された患者数は年間約42000人であり、胃ガン、大腸ガン、肺ガンに次いで第4位でした。
しかし、2020年には前立腺ガンの年間罹患者数は92092人であり、男性における年間のガン罹患者数で第1位になっています。
前立腺ガンに次いで、増加傾向の大腸ガンが第2位、胃ガンが第3位、肺ガンが第4位となっています。
ここ20年で罹患者数は約5倍にまで増加した前立腺ガン。
なぜここまで短期間の間に罹患者数が急増しているのでしょうか?
主な理由は3つ挙げられます。
- 食文化の欧米化
前立腺ガンはテストステロンなどの男性ホルモンの影響を受けて増殖しています。
近年、ファストフードや加工食品などがよく食べられるようになり、日本人の食文化が徐々に欧米化しているため、以前に増して脂質摂取量が増加しています。
脂質は消化吸収され最終的にコレステロールになりますが、このコレステロールこそ男性ホルモンであるテストステロンの原料となっているのです。
よって、食文化の欧米化が男性ホルモンを増加させ、それにより前立腺ガンの罹患者数が増加したと考えられています。
- 高齢化
前立腺ガンは前述したように、男性ホルモンへの被曝量が発症に深く関わっているため、当然加齢とともに発症率は増加していきます。
特に50代から急激に発症率が増加し始め、70代で罹患率はピークに達します。
日本は少子高齢化社会であり、その影響もあって前立腺ガンに罹患する患者数は増加傾向にあります。
- PSA検査の普及
上皇さまが前立腺ガンを発症されたのが2002年、前立腺の全摘出術が行われたのは2003年でした。
すると、「PSA検査」を特定検診などで実施している自治体の割合が、2000年の14.7%から2015年には83.0%へと増加しました。
PSA検査の普及によって、今までマスクされていた前立腺ガン患者が表面化し罹患者数増加に繋がったと考えられます。
では、このPSA検査とは一体どのような検査なのでしょうか?
<前立腺の病気を見抜く!PSA 検査とは一体>
PSA検査とは、血液中のPSA値を測定する検査です。
PSA(Prostate-Specific Antigen)とは、前立腺特異抗原という意味で、前立腺上皮細胞から特異的に分泌されるタンパクのことです。
多くは精液中に分泌されますが、ごく微量が血液中に取り込まれます。
例えば、前立腺肥大症や前立腺炎、前立腺ガンなどの疾患では、PSA分泌量が増加するため、血液検査での測定値が上昇するわけです。
現在、PSA値の基準値は4.0ng/ml以下となっています。
PSA値と前立腺ガン検出率は正の相関関係にあり、PSA値4.0~10.0ng/mlで25~30%、10.0~20.0ng/mlで約50%、100ng/ml以上であればほぼ100%前立腺ガンと言われています。
ただし、4.0ng/ml以下でも前立腺ガンがないとは言えず、直腸診で異常所見がある場合などでは、精密検査が必要になることもあります。
逆に、PSA値が高値であったとして100%前立腺ガンと言えるわけでは無いため、PSA検査はあくまで早期発見のためのスクリーニング検査であり、診断には精密検査が必要になります。
PSA検査を受けたグループと、受けていないグループで、前立腺ガンによる死亡率がどう違うかを調べた統計がいくつかあります。
欧州7カ国でおこなわれた調査では、「PSA検査を受けたグループ」の死亡率が約20%低下し、別のスウェーデンの調査では、約44%低下したというデータもあります。
これはつまり、PSA検査の普及によって罹患率が増加したものの、その代わり早期発見が可能になり、死亡率を低下させる効果が得られたわけです。
そもそも前立腺ガンは10年生存率が95.7%と非常に高いガンです。
前立腺ガンが前立腺の中でとどまっている「ステージⅡ」以下なら、10年生存率は100%、ガンが前立腺の外に染み出す「ステージⅢ」でも96.4%。転移を伴う「ステージⅣ」になってはじめて44.5%と大きく下落します。
以上のことから、前立腺ガンは非常に高い生存率を期待できるガンであり、早期から定期的にPSA検査を受けることで早期発見に努めることが肝要なのです。
実際に、発症率が大きく増加する50歳以上から、1年に1回までであれば公費助成でPSA検査を実施している自治体が多いようです。
前立腺ガンを不安に感じる方は、是非定期的な検査受診を検討して見てください。
<もし前立腺ガンに罹患したら?>
前立腺ガンと診断された場合、そのステージや状態によって多くの治療法が用意されています。
手術療法、放射線療法、化学療法、ホルモン療法など多くの治療の選択肢がある点も、前立腺ガンの生存率が高い理由の1つです。
また、近年の医学の発達は目覚ましく、今までにはない全く新しい治療法も開発されています。
特に、前立腺ガンだけを狙い撃ちにして攻撃するPSMA療法は最新治療として非常に注目されており、諸外国ではすでに実施されています。
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