個人や企業の所得に占める税金や社会保険料の割合が過去最高になる理由とは?
国民負担率は、個人や企業の所得※に占める税金や社会保険料の割合を示す指標です。公的負担(税負担および社会保障負担)の重さを国際比較するために利用され、毎年財務省が公表しています。
2022年2月に公表された国民負担率の2020年度実績値は47.9%。2019年度実績値の44.4%から3.5ポイント上昇し、過去最高を大幅に更新しました。上昇幅も同指標が公表されている1970年度以降で最も大きくなっています。
※国民負担率の計算における所得には、国民所得もしくは国内総生産(GDP)が用いられますが、国民所得を用いるのが一般的です(以下、国民負担率は国民所得をベースに計算したものです)。
国民負担率は上昇が続いている
1970年度以降公表されている対国民所得比の国民負担率(実績値)は、次のグラフのように推移しています。
【国民負担率(対国民所得比)の推移/1970〜2020年度実績値】
※国民負担率(財務省)をもとに筆者作成
国民負担率は、1970年度の24.3%から2020年度の47.9%へ、ほぼ倍増しています。2020年度実績と同時に公表された2021年度の実績見込みは48.0%となっており、過去最高をさらに更新する見込みです。
近年の国民負担率上昇の背景には、2014年と2019年に行われた消費税率引き上げや、高齢化に伴う医療・介護費の社会保障負担の増加があります。2022〜2024年にかけては、いわゆる団塊の世代が75歳を迎え、社会保障費はさらに増加していくものと予想されます。当面は国民負担率の上昇しやすい状況が続くといえるでしょう。
欧州諸国に比べて低水準ではあるが、差は縮まってきている段
日本の国民負担率は、低福祉のアメリカに比べると高いものの、高福祉の欧州諸国に比べて低い水準です。しかし、2015年と2019年の国民負担率を比較すると、ドイツを除く欧州諸国が横ばいで推移しているのに対し、日本は大きく上昇しています。増税や高齢化に伴う社会保障費の増大が主な要因であり、欧州諸国との差は縮まっています。
【国民負担率の国際比(対国民所得比) 2015年・2019年】
※国民負担率(財務省)をもとに筆者作成(日本は年度、その他の国は暦年)
海外ではGDP比で計算した国民負担率が一般的段
日本では租税と社会保障の負担を国民所得で割って計算した値を一般的に国民負担率としています。これに対し、海外では租税と社会保障の負担をGDPで割った値を用いるのが一般的です。国民所得もGDPをもとに算出されるものですが、次のような調整が行われています。
- 海外での日本人の所得を加え、国内の日本人以外の所得を除く
- 設備などの減価償却(固定資本減耗)を除く
- 消費税などの間接税を除き、値引きに使われた補助金を加える
このうち、間接税の税率は国による違いが大きく、GDPが同じ場合、間接税の税率が高い国の方が国民所得は小さくなります。つまり、間接税率の高い国では、GDP比の国民負担率が国民所得比の国民負担率よりも高くなるのです。
欧州諸国の間接税率の高さも、国民所得比の国民負担率が高くなる一因となっています。
GDP比の国民負担率で比較すると、欧州諸国との差はさらに縮まる段
2019年の国民負担率を国民所得比とGDP比で比較したのが、次のグラフです。各国ともGDP比のほうが値は小さくなりますが、間接税率が相対的に低い日本の減少幅は欧州諸国よりも小さく、その差はさらに縮まります。
【国民負担率の国際比較(対国民所得比・対GDP比) 2019年】
※国民負担率(財務省)をもとに筆者作成(日本は2019年度、その他の国は2019年)
国民負担率は今後さらなる上昇が見込まれる
財務省による国民負担率の公表では、昨年度の実績とあわせ、今年度の実績見込みと来年度の見通しが示されます。
2022年2月に公表された2021年度の国民負担率の実績見込みは48.0%、2022年度の見通しは46.5%でした。2021年度は前年度から0.1%上昇し、2年連続で過去最高を更新する見込みです。
2022年度の見通しは2020年度の実績よりも低くなっていますが、安心はできません。なぜなら、実績は事前に公表される実績見込みや見通しよりも高くなる傾向があるからです。
【実績・実績見込み・見通しの比較(カッコ内は実績との乖離)】
※国民負担率(財務省)の2016〜2022年公表資料より筆者作成
65高齢者の医療や介護を支える財源はわたしたちが支払う税金や社会保険料(社会保障負担)であり、国民負担率の上昇は避けられない状況といえるでしょう。
一定以上の所得がある75歳以上の高齢者の医療費自己負担割合が1割から2割に引き上げられるなど、高齢者の負担も増加しています。
これから老後を迎えるわたしたちは、もらえる年金が減少するだけでなく、社会保険料などの負担が増えることも想定しておかなければならないのです。
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