今や2人に1人がガンに罹患し3人に1人がガンで死亡する時代であり、ここまで医療が発達してもなお、ガンの罹患者数を減らすことができていないのが現状です。
ガンは進行するほど治療法が制限され死亡率も高まっていく病気であるため、ガンによる死亡率を減らすには革新的な医療技術以上に早期発見も重要です。
ガンを早期発見できれば、治療に伴う仕事への負担も軽減できる可能性が高く、健康面のみならず経済面でも有利になります。
しかし、日本では海外と比較して検診受診率や質が低いという問題点を抱えています。
そこで、今多くの企業やベンチャーが1滴の尿や血液でガンを検知できるスクリーニング検査の開発に乗り出しています。
高精度かつ安価で簡便な検査器具の開発は、今後国内のガンによる死亡率増加の抑止力になってくれるかもしれません。
そこで本書では、ガンのステージと生存率の関係や、新しく開発されているスクリーニング検査についてわかりやすく解説していきます。
<ガンはどうして早期発見が重要なの?>
ガン細胞には正常細胞にない3つの特徴があります。
- 自律性増殖
正常な新陳代謝を無視して自律的にどんどん増殖してしまいます。
- 浸潤と転移
周囲の組織に滲むように広がり(浸潤)、血液やリンパ液を介して体の至る所に飛び火(転移)します。
- 悪液質
正常細胞が摂取するはずの栄養分をどんどん奪い取ってしまいます。
これらの特徴からも分かるように、発見が遅れれば遅れるほどガンはその分成長し、ほかの臓器や組織にも浸食し、ガンと闘うための体力すらも奪われてしまうのです。
例えば胃ガンであればステージⅠの5年生存率は90%以上ですが、ステージⅣではなんと10%程度であり、その他のどの部位のガンでもステージが上がるごとに5年生存率は低下していく傾向にあります。
逆に言えば、早期発見できれば生存率は大幅に改善します。
2021年4月に国立がん研究センターが全国各地のガン診療連携拠点病院における約24万例のデータをもとに、10年生存率の集計を初めて発表しました。
それによるとステージⅠで治療を行なった場合、胃ガン、大腸ガン、乳ガン、子宮頸ガンの相対生存率は90%を超えており、早く介入すれば決して「不治の病」ではないことが分かります。
<ガンを早期発見するためのスクリーニング検査とは?>
ガンの早期発見のためにはスクリーニング検査が必要です。
スクリーニング検査とは確定診断をつけるための検査ではなく、その病気の可能性がある人を効率的にピックアップするための検査です。
つまり、多くの人が検査を受診出来るように、高精度であり簡便かつ安価な検査である必要があります。
現状日本では、ある一定の年齢以上になった国民を対象にガン検診を公費助成で行なう事でガンの早期発見に努めていますが、2019年の国民生活基礎調査によれば、胃ガン、大腸ガン、肺ガン、乳ガン、子宮頸ガンの男女別検診受診率(40〜69歳)は、最多で53.4%(男性・肺ガン)、最少で37.1%(女性・胃ガン)に留まり、先進国の中でも検診受診率の低さが際立っています。
さらに、翌年2020年はコロナ感染を恐れて検診控えが加速した結果、ガン検診受診率は対前年比で30.5%の大幅減となり、多くのガン患者を取りこぼしている可能性があるのです。
日本とは逆に、ガン検診受診率の高いアメリカを見てみましょう。
2020年のアメリカ人の大腸ガン罹患者数は14万7950万人であったのに対し、人口が半分以下の日本では毎年約15万人が大腸ガンに罹患しています。
これは検診の受診率や質の差が主な原因であると考えられており、日本人の検診受診率は約40-50%ですが、アメリカは約70%が検診を受診するため多くの患者でガンの早期発見が可能なのです。
また日本では検便による血便の確認しか行いませんが、アメリカでは内視鏡検査を行うためより質の高い検診を行なっています。
乳ガンでも同様で、2015年の日本の乳ガン検診受診率は41%であり、アメリカの80%や先進国平均の61%を大きく下回っていました。
その結果、日本では1990年から2倍以上の罹患率増加を認めているのに対し、アメリカでは年々減少傾向にあります。
ここまでのデータから分かる通り、ガンで死亡する患者を減らすためには多くの人が早期からガン検診を受診する必要があるのです!
<ガン検診受診率を上げろ!企業や自治体の努力とは?>
働く世代がガンに罹患して就労できなくなることによる経済的損失は最大1.8兆円とも言われています。
そこで、検診受診率の低迷する日本においても企業や自治体を中心に徐々に対策が取られ始めています。
例えば、厚生労働省は2009年度から委託事業である「がん対策推進企業アクション」をスタートさせ、約3500の企業・団体が推進パートナーとして加盟し、従業員やその家族のガン検診受診率50%を目指して活動しています。
参加している企業は、働く世代がガンに罹患しても就労可能な労働環境の提供や、e-learningによるヘルスリテラシーの向上、検診受診者へのインセンティブなどを推進し、評価された企業は表彰を受けることになります。
特に女性の社会進出が進んだ現代では、40-60代の女性がガンによって離職してしまう状況は企業にとって避けるべき事態であり対応に迫られています。
こういった企業努力とは別に、もっと簡便かつ安価にガンを早期発見できるような検査があれば死亡率を抑えることができるのでは?という考えが徐々に増え、近年ではベンチャーを中心に最先端のスクリーニング検査がたくさん開発されています。
そこで、ガンによる死亡率低下を期待できる、最先端のスクリーニング検査をご紹介しましょう。
①尿一滴でガンを発見できる「N-NOSE」
以前からガンの匂いを嗅ぎ分けるガン探知犬が話題となっていましたが、2020年にベンチャーである「HIROTSUバイオサイエンス」は犬の代わりに線虫を使ったスクリーニング検査「N-NOSE」を開発しました。
線虫のガン細胞の匂いを好む特性を利用し、患者の尿一滴を用いて線虫の動きからガン細胞の有無を調べる検査方法です。
現状15種類ほどのガンの有無を検知可能で、尿1滴でステージⅠ以下の超早期ガンでも9割近い確率で検知できます。
自宅に送られた検査キットに尿一滴を使って返送するだけなので、非常に簡便かつ高精度で、費用も1万円程度で提供されています。
②血液一滴でガンを発見できるマイクロRNAチップ
血液中には約2,500種類ほどのマイクロRNAと呼ばれる物質が存在し、遺伝子やタンパク質を調節しています。
近年、血液中に含まれるマイクロRNAの種類や量が、ガンの発症によって変動することがわかってきました。
その性質を利用して、東芝は「血液1滴から13種類のガンを99%の精度で2時間以内に検出する技術」を開発し、検出するためのマイクロRNAチップも開発されました。
いまだに実用化はされていませんが、今後1回2万円程度で、まずは人間ドックでのサービス提供を考えているそうです。
③尿中のマイクロRNAを感知するナノワイヤデバイス
前述したマイクロRNAは尿中にも微量検出されるため、尿中のマイクロRNAを独自開発したナノワイヤデバイスで検出することで早期発見を可能にしたのがベンチャー企業の「Craif」です。
他の検査と比較して、約6倍以上の種類のマイクロRNAを検知可能で、より精密な検査が可能になる可能性があり、現在実用化のために開発が進んでいます。
まとめ
ご紹介したように、過去には考えられないような最先端の検査が目下開発されており、これらの検査が今後実臨床に広く普及されていくことで、検診受診率の低迷する日本でもガンの死亡率が徐々に減じていくと期待されています。
【おすすめ】
当サイトは、皆さんの各種リテラシーをアップデートする情報やコラムを多数掲載しています。
特に、今回の解説に連動したこちらの記事はおすすめです。直下(黒いボタン↓)の 「続けてご覧になっていただきたい記事はこちら」 からご確認ください。
また、他の情報が気になる方には、下方の 「今回の記事に関連するおすすめ記事」 をお勧めします。お好みに合わせてご選択ください。
続けてご覧になっていただきたい記事はこちら:
某医療系ドラマでも飛び交う「ケミカルサージェリー」って何のこと?
関連するおすすめの記事はこちら:
この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。
コメント