公的年金制度が担う3つの役目として老齢年金、遺族年金、障害年金が挙げられます。
その中でも遺族年金は、家族を経済的に養ってきた人が亡くなった時、残された家族の生活保障のために支給される年金です。
もし仮に一家の大黒柱を失った場合、その後の家計にも大きな影響を与え、場合によっては生活費の確保や住居費のことなどを考えて生活環境を変える必要が出てくるかもしれません。
だからこそ、遺族の方は確実に遺族年金を受け取る必要がありますが、中には支給要件を満たさず受給できないケースもあります。
そこで今回の記事では、遺族年金を受け取れないケースについて分かりやすく解説していきます。
遺族年金を受け取るための支給要件とは?
遺族基礎年金であっても、遺族厚生年金であっても受給資格を得るためには、下記の3要件を満たす必要があります。
- 亡くなった人に関する要件
- 遺族に関する要件
- 保険料の納付に関する要件
それぞれ具体的に解説していきます。
①亡くなった人に関する要件
支給要件 | |
遺族基礎年金 | ・ 国民年金の被保険者である
・ 国民年金に以前加入していた60歳以上65歳未満の人で、日本国内に住所がある ・ 老齢基礎年金の受給権者である ・ 老齢基礎年金の受給資格期間(25年以上)を満たしている
上記4つのいずれかを満たしている必要がある |
遺族厚生年金 | ・ 厚生年金の被保険者である
・ 被保険者期間の傷病が原因で、初診日から5年以内に死亡した ・ 障害等級1級・2級の障害厚生年金を受けとっていた ・ 老齢厚生年金の受給権者である ・ 老齢厚生年金の受給資格期間(25年以上)を満たしている
上記5つのいずれかを満たしている必要がある |
(引用)日本年金機構
②遺族に関する要件
支給要件 | |
遺族基礎年金 | 対象となるのは、死亡した方によって生計を維持されていた(※1)、子(※2)のある配偶者、もしくは子。
子のある配偶者が遺族基礎年金を受け取っている間や、子に生計を同じくする父または母がいる間は、子には遺族基礎年金は支給されません。 |
遺族厚生年金 | 対象となるのは、死亡した方によって生計を維持されていた遺族のうち、最も優先順位の高い方が受け取ることができます。
1)子がいる配偶者(夫は55歳以上、妻は年齢制限なし) 2)子 3)子のない妻 4)子のない夫(55歳以上) 4)父母(55歳以上) 5)孫 6)祖父母(55歳以上) |
(引用)日本年金機構
※1)「生計を維持されていた」とは、遺族の前年年収が850万円未満(または前年所得が655万5,000円未満)で亡くなっていた人と同居していた状況です。
別居であっても仕送りをされていたり、健康保険の扶養親族であったりする場合、「生計を維持されていた」と認められます。
※2)子とは次のものに限る。
1) 18歳になった年度の3月31日までにある方
2) 20歳未満で障害年金の障害者等級1級または2級の状態にある方
3) 既婚者でない
上表からも分かる通り、遺族基礎年金と比べて、遺族厚生年金は子の有無に関わらず支給対象が孫から祖父母までと幅広く保障されています。
また遺族基礎年金の場合、子がいないまたは、子が18歳以上(障害等級1級または2級の子の場合、20歳以上)になった配偶者は、遺族基礎年金をまったく受け取れないのでご注意ください。
③保険料の納付に関する要件
亡くなった方が老齢基礎年金の受給権者になっていない場合、保険料の納付に関してもいずれかの要件を満たす必要があります。
支給要件 | |
遺族基礎年金 | ・ 亡くなった日の前々月までに保険料滞納期間が被保険者期間全体の3分の1を超えていない(原則)
・ 亡くなった日の前々月までの直近1年間に保険料未納がない(令和8年3月末までの特例) |
遺族厚生年金 | ・ 亡くなった日の前々月までに保険料滞納期間が被保険者期間全体の3分の1を超えていない
・ 亡くなった日の前々月までの直近1年間に保険料未納がない |
(引用)日本年金機構
遺族年金を受け取ることができないケースとは?
ここまで、遺族年金を受け取るための支給要件について解説しました。
次に、遺族年金を受け取ることができないケースをご紹介します。
①保険料の未納または延滞
例えば、自営業の夫が死亡してしまった場合、子がいれば国民年金によって遺族基礎年金が支給されます。
しかし、「亡くなった日の前々月までに保険料滞納期間が被保険者期間全体の3分の1を超えている」か「亡くなった日の前々月までの直近1年間に保険料未納がある」場合、受け取ることができなくなります。
国民年金は未納・滞納保険料を、2年分さかのぼって後から納付できます。万一の時の家族のためにも滞納や未納がないように気を付けておきましょう。
また厚生年金の保険料は給与から天引きされるため滞納や未納はありませんが、国民年金保険料に関しては納付し損ねていることもあり、その場合は遺族厚生年金も受け取ることができなくなります。
②遺族年金の受給権を失っている
前述したように、遺族基礎年金を受け取るためには「生計を維持されていた子の配偶者、もしくは子」の存在が必要です。
よって、子供や配偶者が下記のような状態になれば受給権が喪失します。
- 子供が18歳になった年度の3月31日を過ぎた
- 子供や配偶者が結婚した
- 子供や配偶者が死亡した
- 子供が養子になった
- 配偶者と別居し生計が別となった
また、遺族厚生年金の場合は子の有無は受給権に関係ありません。
③年齢制限に引っかかっている
遺族基礎年金と異なり遺族厚生年金は対象者が幅広いですが、各遺族に対して年齢に関する制限があり、制限に引っかかってしまうと遺族厚生年金を受給できません。
夫と父母、祖父母の場合は55歳以上が受給要件であり、実際に受給できるのは60歳からです。
妻には年齢に関する受給要件はないため、無条件に受給できます。
しかし、夫の死亡時に妻が30歳未満、かつ子がいない場合は受給期間が5年のみです。
妻が30歳以上または夫の死亡時に子がいた場合は、一生受給できます。
ちなみに、夫の死亡後に妻が実家に帰り住所が変わる場合や、旧姓に戻すことで支給対象から外れることはありません。
遺族年金がもらえない場合の救済策
遺族基礎年金の場合は子を養育する目的が強く、子がいない場合は残された配偶者にまったく支給されません。
そこで、残された配偶者が窮状にならないように支えてくる救済策として、寡婦年金と死亡一時金があります。
①寡婦年金
寡婦年金は、妻が60歳から65歳になるまでの間、亡くなった夫の老齢基礎年金の4分の3を支給する年金です。
夫が国民年金のみに加入している場合、子がいないと妻には遺族年金が支給されません。
寡婦年金があることで、一定時期妻の生活を支えることができます。
寡婦年金を受けられるためには、亡くなった夫と妻はそれぞれ下記の要件の両方を満たさねばなりません。
亡くなった夫の要件:
亡くなった夫側の要件は次の2点です。両方ともに満たす必要があります。
- 老齢基礎年金の受給資格を得ている(25年以上保険料を納付している)
- 老齢年金や障害年金を受給していない
妻の要件:
妻が寡婦年金を受け取るためには、次の4点をすべて満たす必要があります。
- 結婚期間が10年以上ある(内縁や事実婚でも可)
- 亡くなった夫が妻の生計を維持していた
- 夫の死亡時に65歳未満(支給期間は妻が60〜65歳の間)
- 遺族基礎年金の受給資格がない
②死亡一時金
残された妻が遺族基礎年金だけではなく寡婦年金も受給できない場合は、死亡一時金を受け取れます。
国民年金の被保険者が年金をもらわず死亡した場合に、生計が同じだった遺族に支払われます。
死亡一時金の受給要件は、次の2点を満たすことです。
- 国民年金保険料の納付済期間が36カ月以上ある
- 老齢基礎年金も障害基礎年金も受けていない
なお、寡婦年金と死亡一時金はどちらかのみしか受給できません。
まとめ
今回の記事では、遺族年金を受け取れないケースについて詳しく解説させていただきました。
ご紹介したケースに注意して遺族年金をしっかり受け取ることができれば、経済的に支えてくれていた家族を失った後の“大きな支え”となります。
ところで、“大きな支え”といえば、配偶者の死亡時に備えて、任意で加入する生命保険や勤務先で団体加入できるグループ保険を活用して保障を充実させている方も多いと思いますが、皆さんは、それらの保険を契約する際に、「遺族年金によって受け取れる可能性のある金額」を考慮してご加入されているでしょうか?
あるリサーチによれば、約5割超の方が「社会保険のことはよくわからない」「社会保険で得られる分を考慮して加入していない」と回答している実態もあるようです。
既に準備されている保障があるにも関わらず、それを失念して同じ性質の保障が重なってしまうのは、さながら冷蔵庫の中身を確認せずに買い物をしてしまい、同じ食材が冷蔵庫内に存在してしまうようなものです。
遺族年金を人参や大根に例えるのは乱暴かもしれませんが、「支出」を観点にすれば、むじろ数百円のロスで済む食材とは違って、数千円の単位でムダが発生しかねない「保険料」の方が、気になってしまうのは私だけでしょうか?
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