1年間で贈与された財産の合計金額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。そこで、年間110万円以内の財産を贈与すれば、遺産を減らして相続税の負担を軽減できます。(※定期贈与とみなされた場合は贈与税が発生する可能性もあるため注意が必要)
ところが、この生前贈与を利用した相続税対策が、将来的に通用しなくなるかもしれません。令和4年度税制改正大綱において「現在は別の税制である相続税と贈与税のあり方について、諸外国の制度も参考にしつつ見直しをする必要がある」と記載されたためです。
そこで本記事では、諸外国の制度と日本の現行制度を比較しながら、相続税と贈与税が今後どうなるかを考えていきます。
相続税と贈与税の改正が検討されている背景
では、なぜ諸外国の制度も参考にしながら相続税と贈与税を見直す必要があるのでしょうか。まずは、見直しが必要と考えられている背景や、日本と諸外国の税制の違いをみていきましょう。
若い世代に資産がわたりにくくなっている
少子高齢化が進行する日本では、財産を残す人と相続する人のどちら側も高齢者となるケースが増えてきました。その結果、相続では若い世代に資産がわたりにくくなっています。
高齢者の資産が若い世代にわたり、マイホームや自動車の購入、子どもの教育などに有効活用されれば、日本の景気は良くなっていくでしょう。しかし若い世代に資産を贈与しようにも、年間で110万円を超える財産をわたしてしまうと贈与税がかかってしまいます。
そこで贈与税を廃止すればよいのかといわれれば、そんなに簡単な話ではありません。贈与税をなくすと、相続税の課税を逃れる目的で多くの人が生きているうちに資産をわたすようになり、相続税の税収が大幅に減ってしまう恐れがあるためです。
税金は、医療費や年金といった社会保障制度、保育所や子ども手当などの社会福祉制度などに使われます。税収が減れば、社会保障制度や社会福祉制度などを通じた富の再分配がうまく機能しなくなるでしょう。
富の再分配ができないと、お金持ちは代々お金持ちのまま、資産が少ない人は次の代以降もそのままという「格差の固定化」につながる恐れがあります。
そのため、相続や贈与によって資産が移るときには課税しつつも、若い世代に資産が行きわたるような仕組みを作る必要がある、と国は考えているのです。
贈与を利用した税金対策により富裕層にうまく課税できていない
贈与税の税率は、相続税よりも高めに設定されています。これは、相続税の負担を軽くするために、生前贈与をして遺産を減らそうとする人が出てくるのを防ぐのが目的です。
しかし実際は、相続税を節税するために生前贈与をする人は少なくありません。毎年110万円以内の財産を少しずつわたしていく「暦年贈与」をすることで、贈与税がかかることなく遺産を減らして相続税の負担を抑えられるためです。
富の再分配がうまく機能するためには、富裕層に多くの税金を納めてもらうのが望ましいでしょう。しかし、資産を持っている人ほど生前贈与による税金対策をしており、富裕層にうまく相続税が課税できていないのが実情です。
これを問題視している国は、諸外国の税制も参考にしながら、相続税と贈与税のあり方を見直そうとしています。
諸外国は相続と贈与が一体化されている
諸外国では、基本的に財産を贈与と相続のどちらで取得しても、基本的には同じ税金がかかるようになっています。
例えばアメリカでは、1年間で贈与された財産のうち一定金額まで税金がかからない点は日本と同じです。一方で、一定金額を超える部分については、亡くなった人から引き継いだ財産とまとめて遺産税(日本でいう相続税)の課税対象になる点が異なります。
また、ドイツとフランスでは、相続が始まる前の一定期間内で贈与された財産は、遺産とともに相続税の課税対象となります。ドイツは相続開始前10年以内、フランスは15年以内に贈与された財産が課税の対象です。
諸外国の税制も参考にしながら見直しを検討するということは、相続税と贈与税を一つの税制にまとめられる可能性があるということ。そしてこれまでのように、毎年110万円以内の財産を贈与する税金対策はできなくなると考えられます。
相続税と贈与税はこれからどのように変わっていくのかを考察
では、相続税と贈与税の一体化が進むとすれば、現行制度はどのように改正されていくのでしょうか。ここでは、2022年10月現在で分かっている情報をもとに、今後の税制がどのように変化するのかを考えます。
1.生前贈与の3年以内加算ルールが段階的に延長される
現在の日本でも、相続が始まる前の3年以内に贈与された財産は相続税の課税対象です。これが近い将来、ドイツやフランスのように相続開始前の10年や15年などの期間内に贈与された財産も、相続税の課税対象になるかもしれません。
将来的にはアメリカと同じく、贈与と相続のどちらで財産を得ても同じ税金が課せられるようになる可能性はあります。しかし、突然大幅に制度を変更すると国民の混乱は避けられません。そのため、まずは相続税の課税対象になる贈与の期間が段階的に延長されるのではないでしょうか。
2.暦年課税制度は相続時精算課税制度に統一される
現在の日本では、贈与税の課税方法について「暦年課税」と「相続時精算課税」を選択できます。暦年贈与は、受け取った年ごとに贈与税を計算する方法です。何も手続きをしなければ、暦年課税で贈与税を計算します。
一方で相続時精算課税制度は、特定の人から贈与された財産の合計金額が2,500万円に達するまで贈与税がかからなくなる制度です。60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子どもまたは孫に贈与をするときに選べます。
相続時精算課税制度を選ぶと、2,500万円までの贈与について贈与税がかからなくなる代わりに相続税の課税対象となります。2,500万円を超える贈与については、一律20%の贈与税がかかりますが、納税額は相続税額から差し引かれて精算される仕組みです。
相続時精算課税制度は、高齢者から若年層への財産移転と消費を促すことを目的として、2003年に導入されました。贈与によって若い世代に資産がわたりやすくするために、暦年課税は廃止され相続時精算課税制度に統一される可能性も考えられます。
まとめ:生前贈与をするのであれば早めに行動を起こそう
令和4年度税制改正大綱には、現行制度について「不断の見直しを行っていく必要がある」と記載されています。早ければ令和5年度の税制改正で何らかの変更があるかもしれません。暦年贈与での税金対策を考えている方は、今のうちに行動を起こすと良いでしょう。
遺産の総額が「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算される基礎控除額の範囲内であれば、相続税はかかりません。
保有する財産を確認し、遺産総額が基礎控除額を上回る可能性があるのなら、制度が改正される前に暦年贈与で対策をするのも方法の1つです。
出典:
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