さらに、障害者総合支援法において「難病等」が追加されました。
筆者は地方中核病院に勤務する医師です。
病院で勤務をしているといろいろな形の障害をお持ちの方と話をする機会が多くあります。「障害」には多くの疾患や状態が含まれます。
「障害者基本法」を知っていますか?この法律は自立や社会参加を目的として、障害者対策をすすめるための基本理念を示した法律です。障害者とは「身体障害、知的障害、または精神障害があるため長期にわたり日常生活、または社会生活に相当な制限を受ける者」とされています。しかし、上記の定義に当てはまらないような障害による不自由をお持ちの方も多くいらっしゃいます。その後、2005年に「発達障害者支援法」によって発達障害が、2013年に「障害者総合支援法」によって難病が障害福祉サービスの対象になりました。
この記事では、難病や発達障害をはじめ、数ある障害の種類や支援について解説します。
難病
難病とは、原因があきらかでなく、治療方法が確立していない希少な病気のことです。原因や治療方法がはっきりしていないため、長期にわたって療養を必要とすることが多くあります。
難病には4つの定義があります。
- 発病の機構が明らかではない
- 治療方法が確立していない
- 希少な疾病
- 長期の療養が必要
という条件を満たした疾患です。対象疾患は限られていますが、難病に対する障害福祉サービスの拡充がすすんでいます。全ての難病ではありませんが、多くの難病が対象になっています。障害者総合支援法の対象疾病(難病等) |厚生労働省
さらに難病法に基づいて医療費助成制度の対象になる病気を指定難病といいます。難病のうち客観的な診断基準があり、人口の約0.1%に達しない病気が含まれています。医療費助成で公費負担とすることで、難病の原因究明や治療法の開発を推進する目的があります。指定難病の制度は名前を変えながらも2015年から続いています。また、対象の病気は年々増加しています。
発達障害
生まれつきの脳の機能障害が原因で乳幼児期から生じる発達の遅れのことをいいます。知的障害を伴うこともあります。
発達障害者支援法では、発達障害を主に以下のように分類しています。
- 広汎性発達障害 (自閉症、アスペルガー症候群など)
- 学習障害 (LD:Learning Disability)
- 注意欠陥・多動性障害 (ADHD:Attention Difict / Hyperactivity Disorder)
(引用:発達障害って、なんだろう? | 暮らしに役立つ情報 政府広報オンライン)
発達障害は複数伴う場合も多く、個人差が大きいです。周囲の対応や環境によっては二次障害 (引きこもりやうつ状態など) を発症しやすいです。
主な発達障害について以下に解説します。
広汎性発達障害 (自閉スペクトラム症)
言葉や認知など様々な領域の発達の遅れがみられる障害のことです。軽度〜重度までさまざまであり、多くの状態が含まれます。自閉症やアスペルガー症候群がこの疾患群の代表です。程度の差はありますが言葉の発達が遅い、コミュニケーションが苦手、こだわりが強い、対人関係・社会性に障害があるというのが、広汎性発達障害の特徴です。
アスペルガー症候群はその中でも比較的多くみられる症状で、「言葉の遅れや知的障害のない自閉症」と表現されることがあります。
学習障害 (LD)
全体的な知的発達に比べて「読み」、「書き」、「計算」の1つあるいは複数で極端な苦手があるという症状があります。理解や能力取得に困難が生じることがあります。他の発達障害と同様に脳の障害と言われています。さまざまな感覚を理解して統合する能力に問題があるとされています。「限局性学習症」とも呼ばれます。なお、LDはLearning Disabilityの略です。
注意欠陥・多動性障害 (ADHD)
次の3つの要素がみられます。
- 不注意 (集中力が続かない、忘れっぽい)
- 多動性 (じっとしていられない)
- 衝動性 (思ったことをすぐ行為に移す、順番を待てない)
知的障害はありません。それぞれの要素が目立つもので不注意優勢型、多動・衝動優勢型、混合型などさまざまなタイプがあります。「注意欠如・多動症」ともいわれます。なお、ADHDはAttention Difict / Hyperactivity Disorderの略です。
知的障害
知能指数 (IQ) 75 (もしくは70) 以下を指します。
記憶、知覚、推理、判断などの知的機能の発達に遅れがみられます。社会生活などへの適応が難しい状態をいいます。18歳までに生じるものを指します。精神遅滞とほぼ同義です。 知的障害に認定されると療育手帳が交付されます。
精神障害
精神疾患の総称です。精神機能に障害を生じる原因には以下のように様々です。
- 内因性 (遺伝性性質や体質)
- 外因性 (脳の損傷やホルモンバランスの崩れ)
- 心因性 (精神的ストレスや環境要因)
これらの原因によって意識、知能、記憶、感情、思考、行動などに障害が生じます。
主な精神障害について説明します。
うつ病
気分障害の1つです。1日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状があります。その影響で身体症状として眠れない、食欲がない、疲れやすいといった症状があらわれて日常生活に支障が出ます。
発症の原因は今のところよくわかっていません。精神的ストレスや身体的ストレスが一因と考えられていますが、それ以外にも発症の原因はあります。
統合失調症
こころや考えがまとまりづらくなってしまう病気です。気分や行動、人間関係に影響が出ることがあります。健康なときにはなかったものが現れる「陽性症状」と健康なときにあったものが失われる「陰性症状」があります。
陽性症状:幻覚、妄想
陰性症状:意欲の低下、感情表現の減少
周りから見ると「独り言をいう」、「被害妄想がある」、「話がまとまらない」、「1人でいることが多い」といったような症状があるように見えます。
双極性障害
双極性障害は「躁うつ病」とも呼ばれます。うつ病の症状があるけれど、ときに極端に調子がよくなって活発になる時期があります。ハイテンションで活動的な躁状態と、憂鬱で無気力なうつ状態を繰り返します。
躁状態では本人に病気の自覚がありません。うつ状態の時にだけ病院に行って、躁状態の時に病院に行かないのでうつ病と間違えられることがあります。躁状態の治療をせずに症状が悪化してしまうことがあります。本人だけではなく、周囲の人も日頃の様子や気分の波に気づくことが大切です。
薬物依存症
薬物の使用により脳の中枢神経系が覚醒、興奮または抑制されます。使用への欲求が抑えられなくなり、制限ができなくなる状態を言います。続けて使用すると耐性が形成されて使用量も増加します。薬物使用をやめると非常に苦しい離脱症状が出現します。また、使用をやめたり量を減らすことができていたとしても、ささいなことで再使用してしまうことがあります。
情緒、意欲、道徳などの面で大きな変化が生じて、幻覚や妄想などの中毒症状を合併します。人によっては自殺や凶悪な犯罪に発展してしまうこともあります。
てんかん
突然意識を失ったり、反応がなくなったりするなどの発作を繰り返し起こす病気です。原因や症状は人によってさまざまです。ありふれた病気の1つで乳幼児から高齢者までのどの年齢層でも発症し、100人に1人の頻度で発症します。
脳の神経細胞が突然異常な電気活動 (電気発射) を起こすことによって生じます。脳のどの部分で発射を起こすかによって症状が異なります。そのため、人によって症状は違います。
抗てんかん薬を服用することで60-70%の患者さんでは通常の社会生活を支障なくおくれます。効果がないときには「難治性てんかん」として専門的な治療をようすることがあります。
高次機能障害
脳の損傷のために認知機能に障害が起きた状態のことです。原因はさまざまで、脳の病気 (脳血管障害、脳症、脳炎など)や、頭部外傷などがあります。症状も脳の損傷部位によってさまざまで、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害、失語、失行、失認などがあります。症状に応じて、精神障害者保健福祉手帳、身体手帳、療育手帳が交付されます。周囲の状況に応じた行動をとることが難しいことも多く、生活に支障をきたします。外見上はわかりにくく、周囲の理解を得られないことがあります。
身体障害
先天的あるいは後天的な理由で身体機能の一部に障害を生じている状態のことです。身体障害者福祉法では次の5つに分類されています。
- 視覚障害
- 聴覚・平衡機能障害
- 音声・言語・咀嚼 (そしゃく) 機能障害
- 肢体不自由
- 内臓機能などの疾患による内部障害
それぞれの障害の程度が7等級に区分されています。1級〜6級までが身体障害者手帳の交付対象です。 (7級の場合は2つ以上の障害がある場合のみ交付対象です。)
まとめ
いかがでしたか?
多くの人は「障害」といえば四肢の不自由や視覚・聴覚をイメージすると思います。実際は支援の対象になっている「障害」には難病や発達障害、精神障害なども含まれています。「障害」として支援の対象になっている病気には、みなさんが想像するよりも多くのものが含まれていることをぜひ知っておきましょう。日本では障害のある人を支援するための制度として、障害年金、障害福祉、介護保険といった制度があります。社会的に支援の対象になる障害にはどのようなものがあるのかを知って、もしもの時に支援を受けられるように学んでおきましょう。
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