2022年現在、脳梗塞を初めとする脳血管障害は日本人の死因ランキング第4位であり、概ね13人に1人が脳血管障害で死亡しています。
また恐ろしいのは死亡だけではありません。
運良く命に別状がないにしても、脳の神経細胞は爪や髪の毛とは異なり、一度損傷すると基本的に回復することはなく、障害される脳の部位によってはその後の日常生活に大きな支障をきたす後遺症を残す可能性があります。
しかし、発症後早期に治療やリハビリを行えば後遺症を最低限に抑えることも可能です。
早期に治療しても運動障害や麻痺が残ってしまう可能性があるため、発症してしまった際は適切な治療だけではなく、治療後の早期リハビリを行うことも大切だとされています。
急性期、回復期、維持期を通して積極的にリハビリを行うことで、その後の生活におけるクオリティーにも大きな違いが出てきます。
そこで、本記事では脳梗塞の種類や原因、リハビリの方法や注意点について解説します。
脳梗塞についての正しい知識を身につけ、正しく治療やリハビリをしていきましょう。
<そもそも脳梗塞ってどんな病気なの?>
脳梗塞とは一言で言えば「脳を栄養する血管が詰まる病気」です。
脳を栄養する動脈が詰まったり閉塞したりすることによって、その先の脳は虚血状態となり脳が壊死してしまう疾患です。
特に脳は我々が寝ている間も常に働き、体のありとあらゆる機能を支配し恒常性を保っているため、非常に酸素需要の高い臓器です。
わかりやすく解説します。
寝ているときにも脳は呼吸や血圧、脈拍などを適切にコントロールしており、起きて運動し始めるときにも脳が働き、心臓の脈拍を早くしたり、血管を収縮させることで血圧を高めに維持しようとコントロールしています。
脳の機能は血圧や脈拍だけではなく、体温調節、記憶、感情、ホルモン分泌、運動、感覚などありとあらゆる機能を維持、調整しているため、非常に仕事量が多い臓器なのです。
だからこそ、脳細胞がエネルギー源とする酸素や糖質は必要不可欠な栄養素であり、裏を返せば脳細胞は酸素不足や糖質不足に非常に脆い臓器でもあります。
脳への血流が数時間途絶すると、脳細胞はエネルギー不足に耐えきれず壊死してしまいます。
壊死の範囲や部位に応じて様々な後遺症を引き起こし、最悪死に至ります。
しかし、罹患したからといって必ず死に至る病気だということではなく、治療やリハビリで状態が改善することもあります。
では、なぜ脳の動脈が詰まってしまうのでしょうか?
<脳梗塞の3つのタイプとは?>
原因別に大きく3つの疾患に分けることができます。
- 心原性脳塞栓症
心原性脳塞栓症は、脳梗塞のうち20%を占めます。
心臓内の血液は常に一定のリズムで駆出されていますが、不整脈によってリズムが乱れる場合やペースメーカーなどの異物が挿入されると、心臓内の血液の流れに乱れが生じて、心臓の中に血の塊(血栓)ができてしまいます。
これは、川やプールの流れの悪い部分にゴミが溜まるのと同じ理論です。
血栓はそのまま心臓から脳に飛んでしまう可能性があり、心原性脳塞栓症となります。
この場合心臓から血栓が飛んでいくため、左右の脳が両方同時に詰まる可能性が高いです。
- アテローム性血栓性脳梗塞
動脈硬化や血管内に蓄積した脂肪の塊(アテローム)により、脳へ血液を送る頚動脈や脳の太い血管が閉塞してしまう病態です。
アテロームが太い血管に詰まるため、広範囲で脳が損傷される可能性があります。
アテローム血栓性脳梗塞は、脳梗塞のうち25%を占めています。
欧米に多いタイプの脳梗塞でしたが、欧米型の食生活を送る人が増えてきた現代の日本でも、患者数が増えてきています。
高血圧や高脂血症、糖尿病などを抱える人は、動脈硬化を引き起こしやすいため注意が必要です。
睡眠中や起床時など安静時に発症しやすい傾向があり、言語障害や片麻痺の症状が現れやすいです。
- ラクナ梗塞
ラクナ梗塞とは、動脈硬化によって徐々に血管が細くなっていくことで脳の奥深くの細い血管が閉塞する病態です。
高血圧による動脈硬化が最大のリスクであり、長期的な高血圧による血管内腔の狭小化は主な原因です。
血管壁が太くなれば当然血管内の空間は狭くなり、細い血管ほど詰まりやすくなってしまうわけです。
その他に糖尿病や慢性腎臓病でもリスクは高まると言われています。
ラクナ梗塞も、脳梗塞のうち25%を占める脳梗塞の種類です。
<脳梗塞の治療とは?>
脳梗塞の治療は超急性期、急性期、慢性期で異なります。
・超急性期(発症から4.5時間以内)
この時期の治療は「血栓を溶かして血流を再開通させる」ことが目的になります。
血栓を溶かし血流を再開させることで梗塞による壊死の範囲を最小限に抑え、症状の進行を止めるのです。
そのためにはt-PAという薬を血管内に投与して、一気に血液をサラサラにする「血栓溶解療法」を行います。
発症から4.5時間以上経過している場合はすでに梗塞部位の血管が破綻している可能性が高い状態にあります。
これは、ボロボロのトンネルと一緒です。
この道を再び誰かが歩けば崩落の危険性があるのです。
つまり血栓を溶解し血流を再開させると、血管が完全に壊れ出血する可能性が高いのです。
ですので、血栓溶解療法のリミットは発症後4.5時間以内とされています。
・急性期(発症から4.5時間以降)
発症から4.5時間以降は、血液の固まりを抑える抗血小板薬や、脳細胞を保護する薬(脳保護薬)を投与します。
主な治療の目的は梗塞による症状の進行を抑えることです。
また可及的速やかにリハビリを開始することで後遺症の軽減を図ることが出来ます。
・慢性期
慢性期には新規梗塞を作らないことが治療の目的になります。
よって原因疾患である高血圧や糖尿病を内服でコントロールすることが重要です。
また血液の固まりを抑える抗血小板薬を長期的に内服する場合もあります。
<脳梗塞の後遺症とリハビリについて>
脳梗塞の後遺症として下記の症状が代表的です。
・片麻痺
体の左右どちらかの半身麻痺のことで、歩行などの日常生活に影響を及ぼします。
・感覚障害(しびれ感)
体の左右どちらかの半身にしびれ感やジンジン感が残り、日常生活に影響を及ぼします。
・嚥下障害
嚥下を司る神経が障害されることで、飲食物の飲み込みが悪くなったり、誤って気管に誤嚥しやすくなります。
・構音障害
舌の動きを司る神経が障害されることで、呂律が回らず上手く話せなくなってしまいます。
・血管性うつ病
自身が脳梗塞になったというショックや、情動を司る前頭葉が障害されることで脳梗塞後にうつ病を併発することも少なくありません。
これらの後遺症に対し、病状がある程度安定していれば積極的に早期からリハビリを開始するべきです。
病状が急性期を脱した後には食事、移乗、整容、トイレ、入浴、更衣、排便、排尿などのADL動作の練習を行い、在宅復帰を目指します。
早期からのリハビリによる介入は、その後の回復期、維持期のリハビリの質にも関わってくるため、予後改善のためには非常に重要です。
まとめ
ご自身やその家族がいつなるかもわからない脳梗塞。
どんな治療やリハビリが理想的なのか、知っておくに越したことはありません。
本書では、脳梗塞の症状やリハビリについて解説しましたが、近年では、リハビリだけではなく脳梗塞への治療分野でも最先端の治療が開発されています。
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