ここまで予防医学が発達しているにも関わらず心疾患での死亡者数は増加傾向にあり、2021年における全死亡者数に対する割合は14.9%でした。
多くの場合、心疾患に罹患する原因は動脈硬化です。
動脈硬化というワードを皆さんも一度は耳にしたことがあると思いますが、狭心症や急性心筋梗塞などの虚血性心疾患の原因には動脈の弾性が失われ硬くなっていく動脈硬化が挙げられ、その背景には高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病や喫煙が挙げられます。
虚血性心疾患の中でも特に、急性心筋梗塞は発症した人の約30%が死亡すると言われており、発症から6時間以内の治療が求められるため、非常に緊急性や致死性の高い病気です。
もしこれらの疾患に罹患した場合、健康面での被害はもちろんですが、就業不能による経済的リスク、長期に渡る入院、家族への負担など様々な弊害が生じます。
また、心疾患は男性の方が罹患しやすいという報告もあり、男性の場合はより一層の注意が必要です。
そこで本書では、心疾患における年齢や男女の差について解説します。
<心疾患における男女差とは?>
皆さんは急性心筋梗塞や急性大動脈解離という病気をご存知でしょうか?
これらの疾患は動脈硬化や高血圧などが原因となって発症する心臓や大動脈の病気です。
どちらも発症とともに胸痛や胸部不快感が生じますが、早急に治療を行わなければすぐにでも死に至る危険な病気です。
特に急性心筋梗塞は発症した人の約30%が死亡すると言われており、発症から6時間以内の治療が求められるため、非常に緊急性や致死性の高い病気です。
治療としては、血管に詰まった血栓を取り除くステント治療や、手術による冠動脈血行再建術などが挙げられます。
どちらの治療であっても長期にわたる入院や、それに伴う経済的負担、介護などの必要など様々な弊害が生じます。
これらの心疾患は40-60代の働く世代の方でも発症する可能性があり、特に家計を支えている中高年男性にとっては無視できない病気だと思います。
そこで疑問なのは、これらの疾患は男性と女性ではどちらに多いのでしょうか?
<大規模研究PURE調査とは?>
実際に心疾患における男女の違いについて、下記の論文では大規模な研究が行われています。
それは2020年6月に世界的な医療論文雑誌「Lancet」でMarjan Walli-Attaei氏らによって報告された論文であり、『Variations between women and men in risk factors, treatments, cardiovascular disease incidence, and death in 27 high-income, middle-income, and low-income countries (PURE): a prospective cohort study』というものです。
非常に興味深い内容でしたのでご紹介します。
まず、この論文は「Prospective Urban Rural Epidemiological study」略してPURE研究と呼ばれる研究を報告したものです。
研究者であるMarjan Walli-Attaei氏らがなぜこの研究を始めたかというと、実は今までに行われてきた研究においては、女性の方が男性よりも心血管系疾患による死亡率が高いという報告があったからです。
しかし、これらの過去の研究に用いられてきたデータは先進国から得られたデータであり、実際に心血管系疾患で死亡する人の多くは、発展途上国や低〜中所得国であることから、果たして本当に女性に心血管系イベントが多いのか疑問があったのです。
そこでPURE研究では発展途上国や低〜中所得国を対象にして、改めて心疾患における男女の差について検討を行ったのです。
PURE研究の具体的な方法としては、2005年1月6日から2019年5月6日までの期間、全27ヶ国の都市部および農村部に住む35-70歳の168490人を対象に、心臓の状態やリスクファクターなど様々な情報を記録し、心血管疾患の発生と死亡について平均して約10年追跡しました。
気になる研究結果ですが、結論から言えば心血管系疾患の発症率、死亡率、再発率全てにおいて、男性よりも女性の方が有意に少なかったのです。
これは過去の研究結果を覆す結果となりました。
さらに細かくデータを見ていくと、心血管疾患の1年あたりの発症率(/1000人)は、女性が4.1であったのに対し男性では6.4と、女性の方が25%低い数字でした。
次に、心血管疾患の1年あたりの死亡率(/1000人)は、女性が4.5であったのに対し男性では7.4と、女性の方が38%も低い数字でした。
また心臓に対するケアとして、二次的な予防や治療、心臓検査、および冠動脈血行再建術が行われた割合は、研究対象となった全ての国で女性の方が少なかったようです。
しかし、心血管疾患の1年あたりの再発率(/1000人)は、女性が20.0であったのに対し男性では27.7と、こちらも女性の方が27%低い数字でした。
つまり、女性の方が心疾患の再発予防としての検査や治療が行われていなかったにも関わらず、実際の再発率は低かったことになります。
今回のPURE研究の結果から、以前まで通説となっていた「女性の方が男性よりも心血管系疾患による死亡率が高い」という知見は否定され、むしろ男性の方がハイリスクである可能性が示されました。
もちろん、いかに大規模なPURE研究とはいえ全世界の人類を対象にした結果ではなく、あくまで発展途上国や低〜中所得国の168490人を対象にしたものであり、必ずしも日本人に当てはまる結果であるわけではありません。
しかし、その反面でここまで大規模な研究によって示された結果である以上無視するわけにもいかないと思います。
本研究で示されたように、男性であれ心疾患、特に急性心筋梗塞への対応は怠って良い訳はなく、出来得る限りの予防策や対策を行っておくべきです。
実際、急性心筋梗塞という言葉は聞いたことがあっても、発症するとどれほど体に影響が出てしまうのか理解できている人は少ないと思います。
そこで、次に急性心筋梗塞に伴う体への影響について解説します。
<多大なる影響を与える心筋梗塞の脅威とは?>
心臓を栄養する3本の冠動脈のうち、どれか1本でも完全に閉塞してしまうと急性心筋梗塞と呼ばれる状況に至ります。
心臓の筋肉は常に酸素をエネルギー源にして運動を行なっているため、血流が途絶えて酸素不足に陥ると機能を維持できず、壊死してしまいます。
心筋が壊死すると胸痛や胸部不快感を自覚する方が多く、これらの症状がきっかけで救急車を呼ぶか、病院に受診される方が多いですが、発見が遅れて心筋が壊死してしまうと、心臓は上手く収縮運動を行えなくなってしまいます。
心臓は全身に血液を送って栄養を供給するポンプとしての役割や、肺に血液を送って血液に酸素を取り込む役割を担っています。
つまり、心臓が上手く動かなくなるということは全身に影響が出てしまうのです。
特に、脳への血流が低下すると、脳細胞が正常に機能できず意識障害が生じる可能性もあります。
また、肺にも上手く血液を送れなくなってしまい、酸素を取り込むこと自体ができなくなってしまいます。
つまり、ただでさえ全身への血液供給が少ない上に、送っている血液そのものも酸素が少なく質が低くなるため、一気に全身の機能が破綻していきます。
まとめ
このように、急性心筋梗塞は非常に怖い病気なのです。
しかし、だからと言って怖がるだけでは意味がありません。
適切な対応を行えば十分助かる見込みもある病気です。
そのためには、みなさんそれぞれにも取るべき対策があります。
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