タバコを吸えば肺ガンになる可能性が上がり、運動しなければ肥満になる可能性が上がります。
多くの人はこのような事実を潜在的に認識しており、自分の生活習慣を鑑みてリスクとなる病気を気にしながら生活していると思います。
その中で、飲酒は食道ガンや咽頭部ガンなどの悪性腫瘍や肝臓病の発症リスクを上昇させるものとして認識されているため、飲酒する多くの人は健康診断で自身の肝機能に注視していると思います。
しかし、近年では飲酒しなくても脂肪肝になってしまうNASHという疾患が増加傾向にあります。
飲酒してないため肝臓に負担をかけているという心当たりがない上に、NASHは自覚少女に乏しく発見が遅れやすい特徴があります。
しかし、気付かないうちにNASHが進行してしまうと肝硬変や肝細胞ガンを発症するリスクが増加するため注意が必要な病気です。
そこで、本書ではNASHについて解説するとともに、早期発見するための方法についても詳しく解説していきます。
<NASHという新しい疾患について>
肝臓に障害を与える代表的なリスク因子として飲酒、HBVやHCVなどの肝炎ウイルス、薬剤による副作用、自己免疫の4つが挙げられます。
特に日本では、当時の杜撰な輸血管理によってHBVやHCVなどの肝炎ウイルスによる肝障害が肝炎の原因の約8割を占めるまでになり問題となっていました。
しかし、近年では医療の発達に伴い輸血製剤の管理も徹底され、B型肝炎やC型肝炎自体の罹患者数は減少傾向にあります。
また自己免疫性肝炎は稀な疾患であり、薬剤性は新規に内服し始めた薬が無い限り疑いにくいです。
つまり、多くの方は過度な飲酒や乱れた生活習慣が原因で肝機能の低下を引き起こしています。
もし仮に毎日のように多量飲酒して、乱れた食生活による肥満などがあれば、多くの方は自分の肝機能を気にして生活しているはずでしょう。
しかし、近年ではお酒を飲まない、もしくは少量の飲酒のみでも脂肪肝に罹患する人が出てきました。
基準以下のアルコール摂取にも関わらず脂肪肝に罹患した場合、非アルコール性脂肪性肝疾患(Nonalcoholic Fatty Liver Disease)、略してNAFLDとなります。
脂肪肝患者全体が約3000万人、そのうちNAFLD患者は国内に1000-2000万人ほどいると言われており、飲酒歴が無くても脂肪肝に罹患する人は増加傾向にあるのです。
NAFLDはさらに、単純な脂肪肝である「非アルコール性脂肪肝(Nonalcoholic Fatty Liver: NAFL)」と、肝臓の線維化が進んでしまうリスクの高い「非アルコール性脂肪性肝炎(Nonalcoholic Steatohepatitis : NASH)」に分類されます。
NAFLDのうち約80-90%はNAFLであり、脂肪肝のまま肝臓の病気はほとんど進行しません。
しかし、残りの役10-20%はNASHに進行してしまい、ウイルス性肝炎と比較しても肝臓の線維化のスピードが速く、発見した時には症状が進行している可能性が高いです。
NASHはその後、肝硬変や肝細胞ガンに罹患する可能性も高いため、注意が必要な病気です。
NASHの厄介な点は「発症の心当たりがない」「自覚症状に乏しい」の2点です。
飲酒もせず肥満でもない人からすれば、自分が脂肪肝になっていると疑うことの方が難しいはずです。
さらに、自覚症状に乏しいため、多忙な日常生活の中で敢えて精査しに行く気になれないのも十分に理解できます。
とは言え、自覚症状が現れる頃にはもうすでに肝硬変にまで進行しており、それが原因で肝細胞ガンに罹患すれば命を落とす危険性も一気に増加してしまいます。
そこで、我々はどのようにしてNASHを早期発見するべきなのでしょうか?
<NASHへの対抗策とは?>
まず、NASHを早期発見するためにはどのような検査が必要になってくるのでしょうか?
まず最も簡易的に行える検査は血液検査です。
健康診断などでも行う範囲で言えば、ASTやALTなどの項目は肝機能を表した数値になります。
肝細胞内にはASTやALTが豊富に含まれているため、肝細胞がなんらかの原因で破壊されると血液中にASTやALTが流出し、これらの数値が増加します。
つまり、これらの数値が高い=現在進行形で肝細胞が破壊されていることを現しています。
逆に言えば、ある程度肝炎が進行した慢性期には正常化してしまうため、見逃す可能性もあります。
次に、腹部超音波検査や腹部CT検査などの画像検査も有用です。
これらの画像検査は基本的にその臓器の質ではなく、形態学的変化を捉える検査です。
例えば、腹部超音波検査では肝臓の表面の形が綺麗かどうか(汚ければ肝硬変の可能性があります)、肝臓内に異常な構造物がないか(ガンなどを検索します)などを非侵襲的にチェックできます。
さらに、肝臓実質がエコーで白く光るようであれば脂肪肝と診断できます。
腹部CT検査でも同様で、色や形から脂肪肝、嚢胞、ガンなどを検出可能です。
これらの検査を行えば脂肪肝である事自体は診断可能であるため、NAFLDである事までは診断できます。
しかし、そこからNAFLなのかNASHなのかを正確に診断するためには、肝臓に針を刺して肝臓の組織を直接顕微鏡で検査する針生検検査を行わなければいけません。
針生検検査は痛みを伴い、また出血のリスクもあるため、簡易的に症状もない人が受けるような検査ではありません。
したがって、実質的にみなさんの生活に即した形での早期発見の方法は、定期的に受診する健康診断の「肝機能検査」の数値に注目する以外ありません。
前述したASTやALTはもちろん、γ-GTP、ALPなども異常高値の場合は肝臓やその周辺臓器に異常が生じている可能性が高く、血液検査だけで簡易的に発見できるため、非常に有用な検査だと思います。
なんらかの異常がある場合は早急に医療機関への受診を推奨します。
そのほかの予防策としては、NASHにならないように普段から規則正しい生活習慣を送ることです。
まず、肥満の場合はダイエットが第一です。
また、かつては糖尿病対策を行なっている患者でNASHが安定してきたため、「血糖コントロールが関係している」と思われていましたが、最近になり脂肪肝を経ずに、そのままNASHへ至る症例も報告されてきたようです。
つまり、トリガーがはっきりと解明されていないことになり、具体的な生活習慣の指導も定まっていないのが現状です。
では、実際にNASHが進行してしまった場合はどういった治療法があるのでしょうか?
<NASHへの治療法とは?>
NASHは「保険病名」になっていないので、専用の薬も「ない」ことになっています。
そこで、痩せられない患者さんや痩せても血液検査で引っかかり続ける患者さんには、ケース・バイ・ケースで、糖尿病用の薬や抗酸化剤としてのビタミンEの処方を試みます。
そのほかにも、重度の肝機能障害により肝臓の機能が3分の2以上失われてしまった場合は、肝移植を検討します。
また、自己努力で痩せるのが困難な人には、減量を目的とした「胃腸の部分摘出」が選択肢に入ってきます。
ほとんどの場合、どちらも保険適用が認められた治療方法です。
【おすすめ】
当サイトは、皆さんの各種リテラシーをアップデートする情報やコラムを多数掲載しています。
特に、今回の解説に連動したこちらの記事はおすすめです。直下(黒いボタン↓)の 「続けてご覧になっていただきたい記事はこちら」 からご確認ください。
また、他の情報が気になる方には、下方の 「今回の記事に関連するおすすめ記事」 をお勧めします。お好みに合わせてご選択ください。
続けてご覧になっていただきたい記事はこちら:
【肝臓病】 恐ろしい…近年増えている「お酒を飲まない人」の「脂肪肝」
関連するおすすめの記事はこちら:
- 「心筋梗塞」と「急性心筋梗塞」の違いは?「 狭心症」とは何が違うの?
- 「脳卒中」と「脳梗塞」と「脳出血」の違いが分からない⁉
- 脳卒中リスクが8.5倍!? 高血圧で病気リスクはどれくらい変わる?
- 肝臓病による死亡率が一般人の6倍…「お酒を飲まない人」の脂肪肝
- 老化を加速させる物質がある⁉ そんなものがあるなら早く教えて!と思いませんか?
この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。
コメント