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超高額医薬品を保険適用とする是非… なぜ、1回の投薬で3000万円?

 

ナノマシンを用いたケミカルサージェリーや、免疫細胞によってガンを攻撃する免疫療法など、既存の標準治療とは異なるアプローチの最先端のガン治療はその効果が期待される一方で、このままでは国民皆保険制度の破綻を招きかねないほどの高額すぎる医療費が問題になっています。

 

ナノマシンを用いたケミカルサージェリーはその技術料だけでも200万円以上と高額で、まだまだ国内での医療保険の適応は限定的です。

 

免疫療法の1つであるCAR-T細胞療法に用いられる希少疾病用再生医療等製品「キムリア」は、なんと1回の投薬で3000万円以上の超高額な医療費が掛かってしまうことが問題となりました。

 

公的医療保険が適応されれば患者の医療費負担は減りますが、高額すぎる薬は医療保険の財政を圧迫し、日本の医療を支えている国民皆保険制度を破壊します。

本当にそれほどのリスクを背負うほど効果のある薬なのでしょうか?

 

そこで本書では、新薬キムリアがどのような効果や作用を持つ薬なのか、その上で現状抱えている問題点についても解説していきます。

 

<最先端ガン治療「CAR-T細胞療法」とは?>

 

 

何年もの間、ガンに対する治療は手術療法、放射線療法、薬物療法の3本柱で支えられてきました。

また、ここ20年ほどで新たに分子標的薬が開発され、標準治療としての地位を固めてきたと言えます。

 

しかし近年、新たなるガン治療として免疫療法が非常に注目されています。

免疫療法の中には多種多様な治療法が存在しますが、基本的なコンセプトは患者個人の免疫細胞を活性化させてガン細胞を攻撃することです。

 

免疫細胞の主な役割は体内の異物の除去であり、外部から侵入してきた病原菌を殺すことで感染症から体を守っています。

また正常細胞の遺伝子に変異が生じて発生するガン細胞も、自分の体内で作られたとは言え厳密に言えば異物であり、免疫細胞の攻撃対象になります。

つまり、免疫細胞の機能を増幅させて正常細胞に影響することなくガン細胞を破壊することが免疫療法の目的なのです。

 

免疫療法のうち、CAR-T細胞療法は患者の免疫細胞であるT細胞を患者の血液から抽出し、遺伝子組み換え技術を用いて標的とするガン細胞に特異的に結合できるように改造し、攻撃力を増幅させた上で患者体内に戻す治療法です。

 

スイスのノバルティスファーマ社が2012年から開発を行い、2017年にはCAR-T細胞療法に用いられる世界初の薬として「キムリア」が米国で承認されました。

2019年には日本国内でも医療保険の適応が認可され、対象となる疾患は「B細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)」もしくは、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」のうち、今までの治療で効果の無い難知性のものです。

 

では実際にどのように使用されているのか、解説していきます。

 

<キムリアの使用法とその効果とは?>

 

 

まず日本国内の特定の病院で対象患者から血液を採取し、そのうちT細胞だけを分離して冷凍保存します。

冷凍保存したT細胞はそのままアメリカのニュージャージー州にあるノバ社に運ばれ、そこで遺伝子操作を行い対象患者用のキムリアを製造します。

その後製造されたキムリアを日本に返送し、改造されたT細胞が血管から体内に注入されます。

患者は採血や返血の際には入院が必要になります。

 

治療自体は1回の投与で終わりますが、全行程で約2ヶ月の期間がかかります。

また医師以外にも、看護師、臨床工学士、臨床検査技師など多くの職種が関与し、製造や管理に手間とコストがかかりやすい仕組みになっています。

 

ここまで手間とコストがかかるキムリアですが、気になるのはその治療成績です。

3-21歳のB-ALLの患者を対象とした国際共同第2相試験では、日本人2例を含む最終解析時点(n=75)での全寛解率は81.3%でした。

18歳以上のDLBCL患者を対象とした国際共同第2相試験では、日本人2例を含む主要解析時点(n=81)での奏効率(完全奏功または部分奏功)は53.1%でした。

 

この結果は、難知性で他に選択肢のない血液ガン患者にとって驚異的な治療成績でした。

 

<キムリアの抱える問題点①「適応」>

 

 

前述したように素晴らしい治療成績をあげているキムリアですが、いくつかの問題点を抱えています。

 

まず「適応」の問題です。

現状2疾患のみが適応であり、かつ難知性または再発性のものと非常に限定的です。

特に血液ガンにとって非常に有効な治療ですが、多くの固形ガンにはなかなか効果が得られていないのが現状です。

 

固形ガンでは効果が得られにくい理由として、ガン細胞が塊になっているためT細胞の攻撃だけでは消滅しきれず、またガン細胞の顔つきもそれぞれ微妙に異なるためT細胞が攻撃しにくいなどの理由が挙げられます。

 

仮に今後研究が進み多くのガンにキムリアの適応が拡大したとして、そうなると次は「医療費」が問題になります。

 

<キムリアの抱える問題点②「医療費」>

 

2019年には国内でキムリアが承認され、3349万3407円という当時最高額の薬価は大いに注目を集めました。

キムリアの場合、患者は3割負担で約1000万円の負担、かつ高額療養費制度を使えば、年収500万円の患者の負担額は約40万円にまで軽減され、差額の約3300万円は社会保険料から捻出しなければなりません。

 

高額な「医療費」の問題は、日本の医療を支えている国民皆保険制度を破壊し兼ねない深刻な状況なのです。

 

そもそも新薬の薬価とはどのように定められているのでしょうか?

結論から言えば、新薬の薬価は製薬会社の言い値で決まります。

特に、最先端の免疫療法に使われる新しいアプローチの治療薬であるキムリアの場合、比較できるような類似薬が存在しないため参考となる価格が存在しないのです。

 

そこで製薬会社は開発や研究にかかった費用を積み上げて薬価を導き出しますが、内訳が公表されていないため非常に不透明なのです。

 

こういった高額医療費の問題が最初に注目されたのは、2014年に皮膚ガンの治療薬として保険適応になった「オプジーボ」です。

患者一人当たりの総医療費が年間3500万円以上かかり、その高額な薬価にも注目が集まりましたが、患者数が470名と少なかったこともあり医療費全体の圧迫には至りませんでした。

 

しかし、その後オプジーボの保険適応が次々に拡大し、使用患者数が増えたことで医療費が増大したため薬価の見直しが進み、2018年には年間1090万円まで引き下げられました。

 

まとめ

これらの高額医療費問題に対して、政府は薬価の見直しを強化しています。

前述したようにオプジーボは値下げを繰り返し、高額薬の費用対効果を調べて価格を調整する仕組みも2019年4月に本格導入され、キムリアはこの仕組みで初めて値下げされました。

 

この「費用対効果評価」は、類似の医薬品・医療技術等に比べて、費用対効果が優れているのか、あるいは劣っているかをデータに基づいて判断します。

「費用対効果が優れている」と判断されれば価格は据え置きとなり、「費用対効果が劣っている」と判断されれば価格の引き下げが行われます。

逆に「きわめて費用対効果が優れている」製品については、価格の引き上げも行われます。

 

費用対効果が優れているのか、劣っているのかの判断は難しいところですが、実際にキムリアは「ある使用方法では費用対効果が優れているが、別の使用方法では費用対効果は優れていない」と判断され、3264万7761円に値下げされました。

 

「保険承認すれば患者が最良の治療を選択できるが、財政は破綻する。保険承認しなければ財政は維持できるが、患者は自由診療で治療を選択することになる。」

日本政府は今、答えのない2択を迫られているのです。

それに対し筆者の考える最善策は、安価で有効な治療を実践していくことです。

 

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