近年日本でも罹患率が急増している前立腺ガン。
特に、PSA検査の普及や食事の欧米化などを背景に、今や日本人男性にとって年間罹患率第1位という不名誉を獲得してしまいました。
その一方で、前立腺ガンは10年生存率95.7%と非常に高い生存率を誇るガンです。
前立腺ガンが前立腺の中でとどまっている「ステージⅡ」以下なら、10年生存率は100%、ガンが前立腺の外に染み出す「ステージⅢ」でも96.4%。転移を伴う「ステージⅣ」になってはじめて44.5%と大きく下落します。
つまり、前立腺ガンの罹患率は非常に高くなっているものの、早期発見できればそこまで怖くないガンであると言うことが分かります。
近年では、治療の面でも前向きです。
前立腺ガン表面の特異的タンパク質「PSMA」と結合率の高い薬で、ガン細胞のみを狙い撃ちする治療、PSMA治療が非常に注目を浴びています。
そこで本書では、前立腺ガンに対するPSMA治療について詳しく解説していきます。
<海外ではすでに実施されている>
前立腺がんに関係して、「PSMA」というキーワードをみかけます。
PSMAは、前立腺がんの細胞の表面に強く出ている物質です。 このPSMAを標的にするPSMA治療は、前立腺がんを「狙い撃ち」できる効果的な治療法です。 とくに悪性度の高いがんほど有効とされ、次世代の標準治療の1つになるといわれています。
もう少し詳しく教えてください。
PSMAは、前立腺がん細胞の表面に顔を出しているタンパク質の1つです。 このPSMAと結びやすい物質に治療薬をくっつければ、直接がん細胞に治療薬が届きます。 PSMA治療では、治療薬として“放射性物質”を用います。 前立腺がん細胞は放射線に弱いので、がん細胞に対してより効果的なのです。
放射性物質と聞くと、不安な印象をもってしまいます……。
放射性物質の届け役は正常な細胞をスルーしていくので、患部以外にとどまることはありません。 なお、国内認可が下りていない理由の1つは、「放射性同位元素の輸入」という扱いになるからです。 ちなみに、管轄も厚生労働省ではなく、経済産業省になります。
海外での実績はどうなのでしょうか?
2014年から、いくつかの国で順次、実施されるようになってきました。 PSMAを前立腺がんの診療に用いると、治療だけでなく「高感度の画像診断」が可能になります。 PSMAに結合しやすい物質に検査用の薬剤をくっつければ、PET検査などで極めて小さながんまで捉えられるようになるのが理由です。 こうした治療と診断を同時におこなえる“効率的な方法”を近年では「セラノスティクス」と呼んでいて、最新のトレンドとなっています。
<じつは、全身に転移しかねない前立腺がん>
一方の国内では現在、前立腺がんをどのように治療していくのでしょうか?
まずは、受診して検査しないと、前立腺がんを見つけることができません。 そして、前立腺がんは「自覚の乏しいがん」であることが知られています。 50歳を過ぎたら、オシッコの異常などが現れる前に、健診オプションなどを積極的に利用することをおすすめします。
健康診断でも前立腺がんかどうかわかるのですね。
血液検査の「PSA」という値が高ければ、前立腺がんを疑います。 字面的にはPSMAと似ていますが、中身はまったく異なります。 PSA検査は、前立腺から分泌されるタンパク質を調べる方法です。 なお、前立腺がんの確定診断には、組織を直接、採取して調べる生体検査が欠かせません。
その後の治療方法についても教えてください。
仮に手術によって前立腺がんを摘出できたとしても、その後、再発や全身への転移をおこす可能性は避けられません。 もし、がん細胞が全身へ広がってしまったら、ホルモン治療に進みます。 ホルモン治療は前立腺がんの増殖を抑える効果があり、副作用が少ないので治療の第一選択肢になっています。 しかし、ホルモン治療で抑えきれなくなってきたら、抗がん剤治療を検討します。 総じて「やっかいながん細胞ほど生き残ってしまう」ので、長期化する患者さんが一定数いらっしゃるのです。
その点、PSMAはどうなのですか?
むしろ、しぶとくて悪性度の高いがん細胞を狙い撃ちします。 ですから、国内承認されている治療方法とは真逆ですよね。 現状、上記の進め方で「悪性度の高いがん組織が広まってしまって、ほかに打つ手なし」というときに、海外でのPSMA治療を検討していきます。
<軽視されている前立腺ガンの長期予後>
前立腺がんによる死亡率は、ほかのがんと比べて低いのですよね?
いいえ、けっして「死亡率が低いがん」とはいえません。 がんの重篤度を示す4段階のステージのうち、Ⅰ~Ⅲ期においての5年生存率は100%とされています。 ところが、15年以上経過した段階での部位別死亡率となると、前立腺がんは男性の「4位」に急上昇します。
男性のがんで死亡率4位となると、看過できませんね。
そうなんです。 先ほどご説明した治療の流れからすると、治療開始から5年後や10年後は、「ホルモン治療によってがん細胞が抑えられている時期」ですよね。 ですから、この間の死亡率は下がります。 しかし、問われるのはその後です。 「生き残らせてしまった頑固ながん」との戦いが、その先に待っています。
治療の副作用として、男性の機能を失うこともあるそうですが?
たしかに可能性はあるもの、その判断をするのは専門の医師です。 一般人が、「男性の機能の維持のために治療を拒否する」というようなことは、ぜひともおやめください。 どこかに「前立腺がんは安全ながん」という認識があるとしたら誤解で、放置すると取り返しのつかないことになるかもしれません。
最後に、読者へのメッセージがあれば。
前立腺がんは、決して軽視できるがんではありません。 長期にわたる治療は患者さんの生活の質を徐々に低下させ、さらには経済的にも大きな負担となっていきます。 加えて、骨への転移によって長期にわたる痛みに苦しむことも稀ではありません。 前立腺がんは、採血でPSAを調べることによって早期の発見が可能です。 50歳を過ぎたら、PSAの検診を受けることをおすすめします。
まとめ
前立腺がんは“やっかいなガン”だからこそ、PSMA治療のような最新治療方法が研究されてきた経緯があるようです。
もちろん、ホルモン治療で寛解を得ている患者さんは少なくありません。
しかし、本当の強敵にはホルモン治療が効かないこともあり、そのときの選択肢の1つがPSMA治療なのです。
この記事を通じて、前立腺ガンに対する認識が変わったのではないでしょうか。男性のガンの部位別死亡率4位は、けっして無視できない事実です。
しかし、その一方でこれらの最新治療は未だに保険適応外であるため、治療を受けるにも自費で支払うか、もしくは民間の保険に加入しておくしか手段がありません。
これからの時代に適した準備をしておかなければ、お金のせいで命の選択肢を狭める可能性もあるのです。
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