かつて世界第5位だった日本の賃金。OECDでは最下位グループ。米国の約半分、韓国より低い実態のなぜ?
日本の名目GDPは世界第3位。2010年に中国に抜かれたものの、経済大国としての地位は健在です。しかし、賃金水準は米国の約半分、韓国よりも低く、OECD(経済協力開発機構)加盟国38カ国中22位に沈んでいます。なぜ日本はこのような状況に陥ってしまったのでしょうか。
日本の平均賃金は3万8,515米ドル(約443万円)
OECDが公表している年間平均賃金(Average wages)によると、2020年の日本の平均賃金は3万8,515米ドル、1米ドル115円換算で約443万円となっています。
これは同年の米国の平均賃金6万9,392米ドルの約半分、韓国の4万1,960米ドルを下回る水準です。
【OECD加盟国の平均賃金(2020年・米ドル換算)】
失われた30年、日本の賃金はほとんど上がっていない
バブル崩壊後、1990年から2020年までの約30年、日本のGDPはほぼ横ばいの状態が続き、賃金もほとんど上がっていません。
【日本・米国・韓国の平均賃金推移(米ドル換算)】
出典:Average wages|OECD Dataをもとに作成
日本の平均賃金の上昇幅は、この30年間でわずか1,636米ドル。その間に韓国の平均賃金は倍増し、2015年には日本を上回り、その後も差は広がっています。
米国との賃金格差はさらに大きくなっています。年収1,000万円といえば、日本では高給取りのイメージを持つ方も多いでしょう。しかし、賃金の高騰しているニューヨークでは、年収約1,000万円のスーパーの惣菜料理人の求人さえ埋まらないような状況です。
日本の国際的な購買力は大きく低下している
賃金が伸び悩む中で、日本の国際的な購買力も大きく低下しています。購買力とは、モノやサービスを買う力のことです。購買力の国際比較には、一般的に「購買力平価ベースの1人あたり名目GDPが用いられ、その国の平均的な生活水準を表します。
※購買力平価とは、同じモノの価格は世界中どこでも同じになるとする「一物一価の法則」に基づいて、為替レートが決定されるという考え方です。
【購買力平価ベースの1人あたり名目GDPの推移(米ドル換算)】
出所:World Economic Outlook Databases|IMF(2021年10月版)をもとに作成 ※カッコ内は世界での順位
日本の購買力平価ベースの1人あたり名目GDPは、この30年間で約2倍に増加しました。しかし、他国と比べるとその伸びは鈍く、1990年に21位だった日本の順位は、2020年には33位まで低下しています。
1990年に約3,000米ドルだった米国との差は、2020年には2万米ドルを超え、大きく溝をあけられています。この間に経済成長を遂げた韓国は、49位から28位まで順位を上げ、平均賃金と同様に日本を上回りました。
国際的な購買力の低下は、国際的に日本が貧しくなっていることを示しています。
給料が上がらなくても生活に困らないのは物価が上がっていなかったから
日本は給料が上がらず、国際的にみて貧しくなっています。しかし、日本に暮らしていると貧しくなったという実感はあまりないのではないでしょうか。それは国内の物価(モノの値段)がほとんど上がっていないからです。
下表は世界中で販売されているマクドナルドのハンバーガー「ビッグマック」の価格の推移を示したものです。
【ビッグマックの価格の推移(カッコ内は2000年4月比での値上がり率)】
出所:The Big Mac index|The Economistをもとに作成
2000年から2022年までのビッグマックの値上がり幅は、日本の約3割に対し、米国では2.3倍。賃金水準が大きく上昇している米国では、それを上回るペースで物価も上昇しているのです。特に賃金が上がりにくいとされる低所得者層は、物価の上昇に賃金の上昇が追いつかず、生活に困窮する人も少なくありません。
その点、日本は賃金と物価のバランスがとれており、一見問題ないように思えます。しかし、世界では物価の上昇が続いており、エネルギー価格や原材料価格の高騰が日本の物価にも影響し始めています。企業努力による価格の維持が限界に達し、値上げに踏み切る企業が相次いでいるのです。長年デフレに悩まされてきた日本も、インフレへの転換点を迎えつつあります。
持続可能な経済成長には生産性の向上が不可欠
経済成長には、物価の緩やかな上昇が好ましいとされ、適度なインフレはむしろ歓迎すべきものです。実際に日銀は2%の物価上昇を目標に掲げ、その実現に向けた金融政策を実施しています。
ただし、賃金の上昇が伴わなければ成長は続きません。給料が上がらずモノの値段だけが上がっていく状態では、すぐに生活が成り立たなくなるでしょう。
日本の賃金が上昇するには、企業の技術革新や業務効率化による生産性の向上がカギとなります。人口が減少に向かう日本では、労働力の増加による生産や消費の拡大、賃上げという流れはあまり期待できないからです。
アベノミクスは成功だったのか?
2012年から続いたアベノミクスによって、日本企業の業績は大きく改善し、失業率の低下や税収の増加、株価の上昇といった成果を実現しました。
しかし、アベノミクスによって賃金はほとんど上がっておらず、国際的にも低い水準のままです。この間に日本の相対的な購買力は低下しており、実態としてはアベノミクス前よりも貧しくなっています。
賃金の低さ自体は企業にとってはメリットです、コストを抑えられるため価格競争力が高まり、割安な日本製品の輸出も増加します。輸出が増えれば、円の価値が高まり(円高になり)、外貨ベースの賃金は上昇します。円高は対外的な価格競争力の低下要因となるため、企業が競争力を維持するには、技術革新や効率化によって生産性を高めなければなりません。その結果従業員一人あたりの生産性が向上し、円ベースでの賃金が上昇するというのが理想的な流れです。
アベノミクスでは、金融緩和によって市場に大量の資金が供給されました。その結果、円の価値が下がり(円安になり)、企業は生産性を向上させなくても利益を上げられる状況が生まれます。企業業績は向上し、円安によって割安感の高まった株価も大きく上昇しました。しかし、企業の生産性は向上していないため、円ベースでの賃上げは実現していません。むしろ円安によって外貨ベースの賃金や購買力が低下し、日本は国際的にみて貧しくなってしまったのです。
上がらない賃金、インフレに備えるには
日本に住んでいると相対的な賃金の低さや、国際的な購買力の低下は実感しにくいといえます。しかし、その事実を知り、早いうちから備えておくことが大切です。賃金が低いまま物価が上昇に転じれば、日本の貧しさは一気に現実味を帯びてくるでしょう。
政府も企業に対して賃上げを要求していますが、その実現には企業と従業員一人ひとりの努力による生産性の向上がカギを握ります。給料を増やすためにわたしたちができるのは、自身の能力を高める努力をし、その能力が評価される環境で働くことです。
すでに保有している資産についても、インフレによる価値の目減りを防ぐための備えが必要です。保有目的や期間に応じて適切な配分となっているか、今一度見直しておきましょう。
【おすすめ】
当サイトは、皆さんの各種リテラシーをアップデートする情報やコラムを多数掲載しています。
特に、今回の解説に連動したこちらの記事はおすすめです。直下(黒いボタン↓)の 「続けてご覧になっていただきたい記事はこちら」 からご確認ください。
また、他の情報が気になる方には、下方の 「今回の記事に関連するおすすめ記事」 をお勧めします。お好みに合わせてご選択ください。
■ 続けてご覧になっていただきたい記事はこちら:
1,000兆円を超えた日本国債の半数を保有する日銀が日本経済を救う?その方法とは
■ 今回の記事に関連するおすすめ記事:
- 習ってないから仕方ない?テストで点数が高いのは「日本人」「欧米人」どっち?
- ライフプランニングの必要性と今から始める資金計画
- 資産形成の基本 簡単便利な「72の法則」をご存じですか?
- 1000万円の“たんす預金”が820万に???
この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。