肝臓の病気に罹患するリスク要因としては、飲酒、B型肝炎やC型肝炎などのウイルス、自己免疫性、薬剤性などが挙げられます。
これまで多くの医師は、肝臓が悪い患者に対してこれらの原因を念頭に考えて診察を行ってきました。
特に、飲酒による脂肪肝は放置すればそのまま肝臓ガンや肝硬変に至る可能性もあり注意が必要です。
しかし、近年ではお酒を飲まない人の脂肪肝が増加傾向にあり、肝臓に負担をかけている自覚が無い分発見が遅れ、重症化した状態で発見されるケースも散見されます。
また脂肪肝は、肝臓の病気以外にも脳卒中や心筋梗塞、睡眠時無呼吸症候群など多くの疾患を誘発するトリガーになるため、早期発見、早期対策が望まれる病気です。
そこで本書では、お酒を飲む人はもちろん、お酒を飲まない人でも罹患する脂肪肝の恐ろしさや病態について詳しく解説していきます。
<そもそも肝臓ってどんな臓器?>
某有名医薬品のコマーシャルで、二日酔いの男性が肝臓のイラストが描かれたドリンクを飲んで体調が回復するように宣伝していますが、そのせいもあってつい飲酒と肝臓を連想される方も多いのではないでしょうか?
しかし、具体的にどんな働きをしている臓器か言語化できる人は少ないと思います。
肝臓には主に3つの働きがあります。
- 代謝能
代謝とは、消化管から取り込んだ栄養素を分解したり合成したりする機能のことです。
人間が生きる上で必要な三大栄養素(糖質、たんぱく質、脂質)は、それぞれ摂取後に、糖質はグルコースに、たんぱく質はアミノ酸に、脂質は脂肪酸とグリセリンに分解されて、腸管から血管内に吸収されます。
グルコースは人体にとってのガソリンであり活動時にはエネルギー源として使われますが、エネルギーを必要としない時にはグリコーゲンとして肝臓に貯蔵されます。
血液中のグルコースが不足すると肝臓内のグリコーゲンを分解し、血液中のグルコースが補充されます。
アミノ酸は肝臓に取り込まれ、体の中で必要な様々なタンパク質に作り替えられます。
例えば、血液の成分である血小板やアルブミンなどが作られています。
脂肪酸は肝臓に取り込まれた後、中性脂肪やコレステロールなどの原料として使われます。
中性脂肪はグルコース同様エネルギー源に、コレステロールは様々なホルモンや胆汁酸の合成のために使われます。
以上の事から分かるように、肝臓が働くことによって食事から得た栄養素を効率よく利用できているのです。
- 解毒作用
肝臓には、血液中の有毒物質を分解して無毒化する働きがあります。
最も分かりやすい例は、お酒に含まれるアルコールです。
アルコールに含まれる有毒物質アセトアルデヒドは肝臓で代謝され、酢酸へと分解されて、最終的には無毒化し、二酸化炭素と水になって排出されます。
- 胆汁の生成、分泌
胆汁は主に脂肪の消化を行っています。
肝臓内で作られた胆汁は一旦胆嚢に蓄えられて、食べ物の通過とともに十二指腸から腸管に分泌されます。
<どうして肝機能は悪くなる?>
前述したように、肝臓は非常に多くの機能を有しており、かつ人体にとって非常に重要な役割を担っているため、その機能低下が与える影響も甚大です。
肝機能が低下する要因は、主に下記の4つです。
- 飲酒
- B型肝炎やC型肝炎などのウイルス感染
- 自己免疫性
- 薬剤性
自己免疫性肝炎とは、体内の白血球が肝臓の細胞を異物だと勘違いして攻撃してしまう病気のことです。
肝機能が低下した患者は倦怠感や発熱などを自覚するか、健康診断で指摘されることで医療機関を受診する方が多く、医療機関では肝機能低下に対してまず上記疾患を疑い、様々な検査を行って確定診断を付けます。
B型肝炎やC型肝炎は杜撰な輸血管理が主な原因であり、近年の医療の発達に伴い罹患者は減少傾向にあります。
また自己免疫性肝炎は稀な疾患であり、薬剤性は新規に内服し始めた薬が無い限り疑いにくいです。
多くの方は、過度な飲酒や乱れた生活習慣が原因で肝機能の低下を引き起こします。
前述したように、食べ物から摂取した糖質や脂質は肝臓内に貯蓄されますが、運動不足などで使い切れずに溜まっていくと中性脂肪として貯蓄されていきます。
また、アルコールが分解される過程で中性脂肪が合成されやすくなるため、過剰なカロリー摂取や過度な飲酒によって肝臓内に中性脂肪がどんどん溜まっていき、脂肪肝になってしまいます。
しかし近年では、飲酒をしていなくても脂肪肝になってしまう「非アルコール性脂肪性肝疾患(Nonalcoholic Fatty Liver Disease: NAFLD)」という疾患が注目されています。
<お酒を飲まない人の脂肪肝とは?>
お酒を飲む人で脂肪肝を気にする人は多いですが、まさかお酒を飲んでいないのに脂肪肝になると知っている人は多くありません。
国内の脂肪肝の患者数は、人間ドックのデータから約3000万人と推計されていますが、そのうちNAFLDの患者数は推計1000〜2000万人とも言われており、お酒を飲まない人の脂肪肝もかなりの人数になっています。
NAFLDは、さらに単純な脂肪肝である「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」と、肝臓の線維化が進んでしまうリスクの高い「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」に分類されます。
ちなみに、ここでの「お酒を飲む、飲まない」は、それぞれの飲酒量によって規定されています。
「お酒を飲む」とされる飲酒量は、1日あたり純エタノールとして男性では30g以上、女性では20g以上であり、ビールなら750mL(大瓶1本強)、日本酒なら1合半、ワインはグラス2杯半、ウイスキーではダブルで1杯半に相当します。
これよりも飲酒量が少なければ、NAFLDということになります。
前述したように、NAFLDの場合は飲酒量が少なく、脂肪肝のリスクを自覚している人が少ないため、肝臓の病気になっていると想像もしない人が多いです。
さらに、肝臓には痛覚が存在しないため仮に脂肪肝に罹患しても自覚症状はほとんどなく、健康診断の血液検査でも診断がつかないため、NAFLDは発見が遅れやすいという特徴があります。
またNAFLDのうち80-90%は脂肪肝のままで、肝臓の病気はほとんど進行しませんが、残りの10〜20%はよりリスクの高いNASHになり、肝硬変や肝臓ガンへ進行することがあります。
しかもNASHは、ウイルス性肝炎と比較しても肝臓の線維化のスピードが速く、発見した時には症状が進行している可能性が高いのです。
今のところNASHになる人とならない人の違いについてはっきりとした原因はわかっていませんが、メタボ人口の増加に伴い国内のNASH人口は増加傾向にあると考えられています。
<どうして脂肪肝がいけないの?>
肝臓に中性脂肪が溜まっていくと脂肪肝になりますが、それに伴い慢性的に炎症が起こると徐々に肝細胞の周囲が繊維化して、肝細胞への血流が低下してしまいます。
血液との交通が減少すると、肝臓の機能である代謝、解毒などが正常に行えなくなり肝硬変に至ります。
さらに進行すると、肝臓ガンを発症する可能性も高まります。
また脂肪肝の怖いところは、肝臓以外の多くの臓器にも悪影響を及ぼす点です。
肝臓内に蓄え切れない中性脂肪は血液中を流れることになるため、血液はドロドロになり動脈硬化が進展してしまうのです。
動脈硬化が進展すれば、脳卒中、心筋梗塞に罹患しやすくなり死亡率も急激に高まってしまいます。
以上のことからも、飲酒しない人でも普段の食生活や運動習慣を見直して、脂肪肝を予防するような生活を心がけるべきです。
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