脳は多くの機能を有し、睡眠中でも常に機能しているため、非常にエネルギーの消費が激しい臓器の1つであり、常に酸素やグルコースなどの栄養分を消費しなければ活動を維持できません。
しかし、脳梗塞によって脳の血管が詰まってしまうと、閉塞した血管が栄養していた部分に対する酸素やグルコースの供給が途絶え、時間経過とともに脳細胞が壊死し始めます。
従来の脳梗塞の治療は、神経細胞の壊死や浮腫を抑えるような薬を点滴から投与するものでしたが、近年の医療の発達に伴い、強制的に血栓を溶解させる「t-PA」という治療法や、血管内のカテーテル操作で直接血栓を取り除く「血管内治療」という治療法も出てきました。
脳の神経細胞は一度壊死してしまうと基本的に再生することが困難な細胞であり、脳細胞の損傷とともに麻痺やしびれ、呼吸や循環など多くの機能に障害を来してしまうため、t-PAや血管内治療のような最新の治療法であっても、早期介入できない場合は重大な合併症が残ってしまう可能性が高く、脳梗塞の治療においては早期発見、早期介入が非常に重要です。
そこで本書では、脳梗塞に対する2つの最新治療について詳しく解説して行きます。
<三大疾病の1つ!脳梗塞ってどんな病気?>
脳梗塞とは、一言で言ってしまえば脳の血管が詰まってしまう病気であり、その原因によって大きく3つに分類されます。
①アテローム性血栓性脳梗塞
脳の太い血管に動脈硬化が及ぶことで血管内にアテロームというコブができ、そのコブに血液のかたまりである血栓ができた結果、太い血管が閉塞する脳梗塞をアテローム性血栓性脳梗塞と言います。
②心原性脳梗塞
基本的に心臓のリズムは一定ですが、中には不整脈と呼ばれる病気になる方もいます。
不整脈では心臓のリズムが乱れ、まるで川の流れの遅い部分にゴミが溜まるように、心臓内の流れの遅い部分に血栓ができてしまいます。
血栓が心臓から送り出されてしまうと、最初に行き着く臓器は脳であり、心原性脳梗塞に至ります。
③ラクナ梗塞
脳の深部を通る直径100-300μm程度の穿通枝と呼ばれる細い血管が、動脈硬化の影響で内腔が閉塞することで穿通枝に栄養されていた脳細胞に栄養が届かず壊死してラクナ梗塞を起こします。
壊死する脳の範囲が15mm未満とされていて、ラクナとはラテン語で「小さなくぼみ」という意味です。
これらの原因によって脳血管が閉塞すると、脳が活動を維持するために必要な酸素やグルコースの供給が途絶えてしまい、閉塞部位に応じた脳が壊死し始めます。
脳は休むことなく常に働いているため、非常に酸素需要の高い臓器であり、虚血部位に対する治療が遅れると多岐にわたる後遺症が残ってしまう可能性があります。
<脳梗塞における後遺症とは?>
最も代表的な症状としては、運動を司る神経が障害されることによる麻痺と、感覚を司る神経が障害されることによるしびれです。
これらは退院後も歩行や移動、排泄や食事など多くの基本的動作に支障をきたすため、極力避けるべき後遺症です。
そのほかにも、脳の中を走行する様々な神経が障害される可能性があります。
視神経が障害されると視野障害が起こり、物が二重に見えたり、見ている視野が欠損したりします。
迷走神経や舌咽神経が障害されると、声門部や喉頭の筋肉をうまく動かすことができず、うまく話せなくなったり、食べ物の飲み込みができなくなります。
ほかにも、認知症やうつ病の併発や、排尿障害をきたす可能性もあります。
脳は非常に多くの機能を有しているため、障害の範囲に応じて後遺症の程度も悪化します。
<脳梗塞に対する治療とは?>
脳梗塞に対する治療法とはどんな治療でしょうか?
脳梗塞の治療は時系列ごとに方法が異なります。
①発症から4.5時間以内の超急性期
発症から4.5時間以内に閉塞血管を再開通させれば梗塞部位の範囲を最小限に留めることが可能であり、神経学的予後が改善される可能性が高いです。
そこで発症から4.5時間以内で、そのほかの条件を満たす患者さんであれば血栓溶解療法「t-PA」を行います。
静脈に投与した薬で血栓を無理やり溶かしてしまうのです。
②発症から4.5時間以降の急性期
発症から4.5時間以上経過している場合、血栓溶解療法で無理やり再開通させてしまうとすでに壊死して脆弱になっている組織に血液が一気に再流入することで、今度は逆に脳出血の可能性が高まります。
よって発症から4.5時間以上経過している場合は血栓溶解療法よりマイルドな抗血小板薬の内服が推奨されています。
抗血小板薬は血液をサラサラにする効果があり再発や症状増悪を防ぐことができます。
また、発症後8時間以内であれば、血管内でのカテーテル操作で直接血栓を回収する「血管内治療」も良い選択肢です。
③慢性期
慢性期には、血栓の再発を防ぐ目的で抗血小板薬を継続するのはもちろんですが、そのほかに降圧剤の内服で原因である高血圧に対して治療を行うことが推奨されています。
また、心原性脳梗塞の場合は心臓のリズムを調節する薬や、ワーファリンと呼ばれる抗凝固剤の内服も推奨されています。
また、麻痺やしびれなどの神経症状に対しては、より急性期からリハビリテーションなどの理学療法や作業療法の介入を行った方が神経学的予後は良いです。
では、一部ご紹介したt-PAと血管内治療について詳しく解説して行きます。
2005年、脳梗塞に対する新しい治療法として血栓溶解療法(t-PA)が登場し、従来の治療法から大きく進歩を遂げました。
従来の治療では、血栓で詰まった脳の血管の再開を積極的に目指す治療法はなく、病状の悪化を防ぐ目的で脳保護薬などが使用されてきました。
脳梗塞によって脳の神経細胞が徐々に壊死すると、その周囲からは活性酸素などの有害物質が発生してしまいますが、脳保護薬は活性酸素などの有害物質の働きを抑えて神経細胞を保護する働きがあります。
一方で、t-PAは脳の血管を詰まらせていた血栓を強制的に溶かし、再び血液を脳の神経細胞に行き渡らせる効果があります。
脳梗塞が発症したとしても、早い段階でt-PAを投与すれば壊死の範囲を最小限に留めることができます。
しかし、前述したようにt-PAは発症時刻から4.5時間以内に行う必要があります。
ここでの発症時間とは、「患者自身、あるいは症状出現時に目撃した人が報告した時刻」であり、こう言った情報が得られない場合は「患者が無症状であることが最後に確認された時刻」を指します。
実際の医療現場では、脳梗塞の発症後比較的早期に医療機関を受診できたとしても、そこから診察、血液検査、頭部CT検査、頭部MRI検査などを行う必要があるため、診断には1時間以上かかることがほとんどです。
また、多くの患者は自分が受診した病院がt-PAを行える病院かどうかも分からずに受診することになります。
t-PAを行える病院は全国でもそこまで多くないため、場合によっては転院する間にタイムオーバーしてしまうこともあります。
仮に、時間的、もしくは設備的にt-PAを行える環境下であったとしても、t-PAには適応外となる項目が多数存在し、「過去に脳出血を起こしたことがある」「脳梗塞の範囲が広い」「血圧が非常に高い」「大きな手術後2週間以内」「血液検査(血液の凝固機能や血糖値、血小板数など)に異常がある」といったケースでは、脳出血を起こす危険性が高いためt-PAを使用することができません。
もし4.5時間以上経過してt-PAを行えなかった場合でも発症後8時間以内であれば血管内治療が行うことができます。
血管内治療はt-PAを受けられない場合や、太い血管に大きな血栓が詰まっていてt-PAの効果が得られにくい場合などに行われます。
血管内治療は、脚の付け根の大腿動脈からカテーテルを脳の血管に送り込み、先端についたデバイスで脳の血管に詰まっている血栓を取り除きます。
最近では、機能的で安全性の高いデバイスが登場したことで、後遺症を残さなくて済むケースが増えてきました。
まとめ
近年では、t-PA単一の治療よりも、t-PAと血管内治療の併用が治療効果を飛躍的に高めることが分かってきました。
発症後4.5時間以内の患者であれば2つの治療法の併用が最も効果的ですが、高度な医療技術が必要なため、実際に施行できる施設は非常に限られることが課題です。
どちらにせよ、発症から治療開始までの時間は短ければ短いほど治療の選択肢が増え、また後遺症や生命予後にも関わるため、早期発見、早期介入が非常に重要であることを理解しておく必要があります。
【エピローグ】 もし、このようにお考えなら
今回の記事はいかがでしたか?既にご存じの情報もあれば、「そうなんだ」「知らなかった」といった情報もあったのではないでしょうか?
中でも、心疾患や脳血管疾患の内訳となる“病名(種類)”については、「混乱してしまう」「わかりにくい」といった声が多く聴かれます。
・ 【心疾患】 心筋梗塞と急性心筋梗塞の違いは? 狭心症とは何が違うの?
・ 【脳血管疾患】 脳卒中と脳梗塞と脳出血の違いが分からない⁉
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