脳は人間が生きる上で必要不可欠な臓器です。
多くの神経細胞の集合体である脳の機能は多岐に渡り、人体の運動や感覚、内臓の運動、体温調節、睡眠、記憶、感情、血圧、呼吸など多くの機能を担っています。
寝ている間も常に休むことなく機能している脳の主なエネルギー源は酸素とブドウ糖であり、これらは心臓からの血液によって常時供給されています。
しかし、脳の血管になんらかの異常が生じると脳はすぐに酸素不足に陥ってしまい、わずかな時間で壊死してしまいます。
一度壊死してしまった神経細胞は基本的に再生しないため、障害される範囲や部位によっては重篤な後遺症が残ってしまう可能性もあります。
代表的な後遺症としては麻痺やしびれ、呼吸不全や膀胱直腸障害などが挙げられ、日常生活に多大なる影響を与えてしまいます。
以上のことからも、脳に異常が生じる病気、つまり脳卒中が人体に与える影響は非常に大きく、特に罹患しやすい中高年の方では注意が必要です。
しかし、意外にも「脳卒中」と「脳梗塞」「脳出血」などの違いをしっかりと理解できている人は多くありません。
そこで本書では、脳卒中やそのリスクについて解説していきます。
<脳卒中、脳梗塞、脳出血の違いとは?>
結論から言えば、脳卒中とは病名ではなく、実は医学用語ですらありません。
一説によれば、脳卒中という言葉は中国から伝わった言葉であり、脳の病気で突然倒れる(卒倒する)ということからこの名前がついたと言われています。
正式な医学用語としては「脳血管障害」という名前がついています。
脳卒中(脳血管障害)は1つの病気を表しているわけではなく、脳に血液が流れなくなることによって脳の神経細胞が障害されるいくつかの病気の総称です。
したがって、いわゆる脳卒中は脳梗塞や脳出血、クモ膜下出血などの病名の総称として扱われています。
近年では医療の発達や予防医学の向上によって、脳卒中の罹患者数や死亡率は年々減少傾向にあり、2021年の全死亡数に占める割合は7.3%にまで減少し、死因別ではガン、心疾患、老衰についで第4位でした。
いかに患者数や死亡者数が減少傾向にあると言え、一度罹患した場合には麻痺やしびれ、呼吸不全や自律神経障害、膀胱直腸障害など多くの合併症を伴う可能性があり、しっかりと予防すべき病気であることに変わりはありません。
脳卒中がなぜ危険な病気かと言えば、脳に酸素や糖質などの栄誉を供給している血管(動脈)に異常が生じて、脳にエネルギー不足が引き起こるからです。
脳へ行くはずの血流量が減少することで、脳の神経細胞はエネルギー源を失ってしまい生命維持できなくなってしまい壊死してしまいます。
すると、障害部位に応じて半身のしびれ、麻痺、言語障害といった症状が現れるのです。
脳の血管に異常が起こる、つまり脳卒中は、大きく2つのタイプに分かれます。
脳の血管が「詰まる」病気である脳梗塞と、脳の血管が「破れる」病気である脳出血です。
では次に、脳梗塞と脳出血の違いについて解説していきます。
<脳の血管が詰まる脳梗塞とは?>
脳梗塞とは、脳を栄養する血管が動脈硬化によって狭小化したり、血栓が飛んでしまい閉塞してしまう病気のことです。
脳細胞は心筋と同様、酸素なしでは生きられない細胞であり、血流が途絶えることで壊死してしまいます。
脳梗塞は血管が詰まる原因によって大きく3つに大別されます。
- 心原性脳塞栓症
不整脈やペースメーカーが原因で心臓の中に血の塊(血栓)ができて、脳に飛んでしまう病態です。
この場合心臓から血栓が飛んでいくため、左右の脳が両方同時に詰まる可能性が高いです。
- アテローム性血栓性脳梗塞
動脈硬化や血管内に蓄積した脂肪の塊(アテローム)により、脳へ血液を送る頚動脈や脳の太い血管が閉塞してしまう病態です。
アテロームが太い血管に詰まるため、広範囲で脳が損傷する可能性があります。
- ラクナ梗塞
ラクナ梗塞とは、動脈硬化によって徐々に血管が細くなっていくことで脳の奥深くのより細い血管が閉塞する病態です。
特に最大のリスクは高血圧であり、長期的な高血圧はそれだけ血管に負担がかかるため徐々に血管壁が肥大していきます。
筋トレでマッチョになるのと同じイメージです。
血管壁が太くなれば当然血管内の空間は狭くなり、細い血管ほど詰まりやすくなってしまうわけです。
その他に糖尿病や慢性腎臓病でもリスクは高まると言われています。
細い血管から障害されるため、梗塞部位は局所的で、梗塞巣は大きいものでも15mm以下であるとされています。
「ラクナ」とはラテン語で「小さなくぼみ」という意味で、これが由来となっています。
脳梗塞の中でもラクナ梗塞の頻度は約20-30%と報告されています。
近年では医療の発達により、脳梗塞が起こってから4-5時間以内に血栓を溶かす治療を行うことができれば、障害が残らない可能性もあります。
しかし、必ずしも早期に治療を開始できるわけではないため、障害が残るケースも多いです。
<脳の血管が破れる脳出血とは?>
脳出血は、何らかの原因により脳の血管が破れて、脳の中に出血を起こす病気です。
もともと動脈瘤や動脈硬化によって脆弱性のある血管に対し、急激な血圧の変動が加わることで血管が破綻し出血することが多いです。
出血による血の塊が脳を圧迫したり、脳に浮腫が起こったりして、脳の機能が障害されます。
症状は頭痛や吐き気、嘔吐、手や足の運動麻痺・感覚障害などさまざまです。
脳出血の中でも特に、脳の表面の血管にできた「こぶ(脳動脈瘤)」が破れて出血する病気をクモ膜下出血と呼びます。
脳は表面を硬膜、クモ膜、軟膜の3つの膜で覆われており、クモ膜の下には動脈が豊富に走行しています。
そのため、クモ膜下の動脈が破綻するとクモ膜下出血に陥るわけです。
脳は頭蓋骨という固い器で囲まれた閉鎖空間に存在しているため、その内部で出血が起きると、頭蓋内の内圧が急激に上昇してしまい脳そのものが圧迫されてしまいます。
その結果、脳がコントロールしている呼吸や循環が停止し死に直結することもあります。
突然バットで殴られたような痛みや、吐き気、意識を失うこともあります。
脳梗塞であっても脳出血であっても重度の後遺症を残す可能性があり、場合によっては命を落とす可能性もあるため、予防することに損はありません。
まとめ
脳卒中である「脳出血」「脳梗塞」「クモ膜下出血」は、いずれも手遅れになると命を落とす危険性が高い病気です。
中でも高血圧、糖尿病、脂質異常症、不整脈、喫煙は脳卒中の5大リスクといわれていますが、いずれも生活習慣の見直しで改善することができるものです。
食生活や運動不足、睡眠不足を改善し、定期的な健康診断を受けることが予防の観点から非常に大切です。
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