「脂肪肝=肥満or多量飲酒」と言うイメージを持っている方も多いのではないでしょうか?
実際に余剰なカロリー摂取や多量飲酒、運動不足などは肝臓に脂肪を溜め込んでしまい、結果的に脂肪肝を招きやすくします。
しかし、近年では飲酒しない、もしくは少ない人でも脂肪肝になる「非アルコール性脂肪性肝疾患(Nonalcoholic Fatty Liver Disease: NAFLD)」という疾患が増えてきています。
NAFLDは、さらに単純な脂肪肝である「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」と、肝臓の線維化が進んでしまうリスクの高い「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」に分類されます。
NAFLD患者の約10-20%が、肝硬変や肝ガンを併発しやすいNASHに進行するため、飲酒量が少なく肥満が無かったとしても油断してはいけないのです。
また、アジア人は遺伝的にNAFLDの有病率が高いと言われているため、日本人はより一層注意すべきです。
そこで本書では、肥満も多量飲酒もないのに脂肪肝になるワケについて詳しく解説していきます。
<正常な肝機能と脂肪肝の関係とは?>
肝臓は人体の臓器の中でも最大の臓器であり、重さは約1.5kgにも及びます。
密に血管が入り組んだ組織であり、その重量以上に、人体のために担っている役割は非常に大きいです。
肝臓が担う役割の中でも、人体にとって最も重要な機能は「代謝」です。
代謝とは、消化管から取り込んだ栄養素を分解したり合成したりする機能のことです。
口から摂取した食べ物のうち、主な栄養素である糖質、たんぱく質、脂質はそれぞれ、唾液や胃酸、胆汁などによって消化され、小腸や大腸から吸収されます。
その際、糖質はグルコース、たんぱく質はアミノ酸、脂質は脂肪酸とグリセリンに分解されて吸収され、血液に取り込まれ全身に行き渡ります。
特にグルコースや脂肪酸は体を動かす時に必要なエネルギー源であり、肝臓に貯蓄されて必要な時にいつでも取り出せるようになっています。
これが肝臓における代謝機能なのです。
肝臓内においてグルコースはグリコーゲンに置換され、脂肪酸は中性脂肪として貯蓄され、体がエネルギー不足になった時にグリコーゲンを分解してグルコースを、中性脂肪を分解して脂肪酸を血液中に放出してエネルギー不足を補うように働いています。
人体にとって最も使いやすいエネルギー源はグルコースであり、まずグルコースを消費して体に必要なエネルギーを得ようとしますが、それでも消費カロリーを補いきれない場合、脂肪酸を分解して大量のエネルギーを得ます。
逆に、体内のエネルギーが過剰状態の時には、使用されないグルコースは脂肪酸の合成に使われてしまいます。
つまり、過剰なカロリー摂取や過量飲酒、運動不足の場合、相対的にエネルギー過剰状態になり、脂肪酸の出番がなくなってしまうため、肝臓内で中性脂肪としてどんどん貯蓄されていってしまうのです。
全肝細胞の30%以上が脂肪化してしまった場合、脂肪肝と診断されます。
脂肪肝になった場合、どういった影響があるのでしょうか?
<脂肪肝になると何が悪いの?>
脂肪肝に罹患すると、肝臓そのものへの影響と全身への影響の両方の危険性があります。
まず肝臓への影響ですが、脂肪肝が進行して慢性的な炎症が引き起こると、肝細胞周囲の組織が繊維化して血流が低下してしまい、代謝機能が低下し肝硬変に至ります。
また長期的な肝細胞へのダメージによって、肝臓ガンを発症する可能性も高まります。
全身への影響としては、主に「動脈硬化」と「インスリン抵抗性」の2つが挙げられます。
肝臓内に貯蓄された中性脂肪が血液中に流出し、血管壁を硬化させて動脈硬化が進展してしまいます。
また肝臓内に貯蓄した脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンと言う物質が血液中に分泌されると、インスリン抵抗性が生じてしまいます。
インスリンとは血液中のグルコースを細胞内に吸収するホルモンで、インスリンが分泌されることで初めて細胞はグルコースをエネルギーとして使用できるようになります。
皆さんも1度は聞いたことがある糖尿病という病気は1型と2型に分類され、1型はインスリンがそもそも分泌されず、2型はインスリンの効きが悪くなり、補うようにたくさん分泌される病気です。
どちらも結局は血液中のグルコースを細胞内に吸収できなくなるため、血糖値が上昇してしまいます。
ここでいうインスリン抵抗性とは2型糖尿病の病態と同じで、「インスリンの効果が効きにくくなる」ということです。
アディポネクチンによってインスリン抵抗性が上昇すると、細胞内にグルコースを吸収できない分血液中のグルコースが増加し始め、利用されないグルコースは肝臓内で中性脂肪に置換されてしまいます。
よって、脂肪肝→アディポネクチン分泌→インスリン抵抗性の上昇→中性脂肪増加→脂肪肝悪化という負のスパイラルに陥ってしまうのです。
この負の連鎖から抜け出すには、規則正しい食生活や定期的な運動習慣を身につけてエネルギー過剰状態を避けるように気を付けていくしかありません。
<恐怖の脂肪肝、NAFLDは日本人に多い?>
今までの説明で、脂肪肝は肥満や過量飲酒によって罹患しやすいということが分かるかと思いますが、中にはどんなに食生活や運動習慣に問題がなくても、遺伝的に脂肪肝になりやすい人がいます。
脂肪肝の中でも、飲酒が無い、もしくは少ない人の脂肪肝を「非アルコール性脂肪性肝疾患(Nonalcoholic Fatty Liver Disease: NAFLD)」と言います。
また、アジア人では遺伝的に肥満を認めないNAFLDの有病率が高くなっています。
同じ生活をしていても太りやすい人とそうでない人がいるように、肝臓への脂肪の溜まりやすさも体質によって変わってきます。
最近の研究では、脂肪肝になりやすい遺伝的素因として「PNPLA3」などの遺伝子の型が関係していることが分かってきました。
この遺伝子型を持つ人が比較的多いアジア人では、肥満でなくとも脂肪肝になる割合が多いのです。
また日本人は皮下脂肪に脂肪細胞を貯蓄しにくい体質であり、血液中に脂肪酸が溢れ出しやすい(これを「リピッドスピルオーバー」という)ため、内臓脂肪とともに肝臓や筋肉などの本来溜まるはずのない場所の異所性脂肪が溜まりやすいと言われています。
この結果、日本人では肥満でもないのに脂肪肝になり、インスリン抵抗性が上昇してしまう人が少なくありません。
NAFLDは、さらに単純な脂肪肝である「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」と、肝臓の線維化が進んでしまうリスクの高い「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」に分類されます。
NAFLであれば、生活習慣の改善で健康な状態に戻るので大きな問題にはなりません。
しかしNAFLD患者の約10-20%が、肝硬変や肝ガンを併発しやすいNASHに進行するため、飲酒量が少なく肥満が無かったとしても油断してはいけないのです。
その上で我々にできる対策とはなんでしょうか?
それは普通の脂肪肝であれ、NAFLであれ、NASHであれ、どちらにせよ規則正しい食生活と運動習慣を心がけることです。
まとめ
規則正しい食生活と運動習慣が身に付いていれば、体内でのエネルギー過剰状態を避けることができるため、肝臓に中性脂肪が蓄積するリスクは軽減できるからです。
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