「医療のファーストフード化」という言葉をご存知でしょうか?
今我々が日本において医療を受ける場合、多くは疾患毎に定められた診療ガイドラインに則って、画一された診療を提供されるようになっています。
民主主義国家である日本で、貧富の格差に関係なく画一された医療を受けられるという意味ではメリットですが、その反面で患者毎に理想的な医療をオーダーメードで提供されることは少なくなってきています。
効率化、均質化を求めた結果、ガイドラインで定めた標準治療のみが提供され、最先端な治療を求める場合は自費で支払わなくてはならないのです。
そもそもそういった実情を知らない患者さんは、病院で提供される医療をファーストフードではなく高級料理だと思い込んでしまっている可能性もあります。
多くの理由で、患者にとって不利なファーストフード化した医療ばかりを提供されていることに気付いていますか?
本書では、今の医療に起きている問題点について解説し。患者として取るべき対策について説明します。
<医療現場でよく見かける不条理>
- 早期食道ガン患者のケース
筆者は以前、あるコラムを目にしました。
早期発見された食道ガン患者が、発見された病院では手術療法のみを勧められ、その他の選択肢は提示されなかったというコラムでした。
現代のガン治療の標準治療は、「手術療法」「放射線療法」「化学療法」の3つであり、補助的に分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤が併用されています。
食道ガン患者の診療ガイドラインでは、標準治療として抗ガン剤併用の手術療法はもちろんのこと、抗ガン剤併用の放射線療法も認められています。
つまり、この患者にとっては本来複数の治療の選択肢があったわけですが、病院で外科医に「選択肢を示してほしい」と相談したところ、医師からの回答は「何度聞かれても抗ガン剤併用手術療法の一択です」という驚くべき返答が返ってきたそうです。
これに不信感を抱いた患者はセカンドオピニオンを経て、最終的に他院でより低侵襲な放射線療法を選択されました。
執筆者である患者は、その後無事回復して現在は仕事に復帰されています。
- 急性虫垂炎患者のケース
急性虫垂炎、いわゆる盲腸は若年層の方が緊急手術となることの多い手術です。
手術となる場合、標準治療として腹腔鏡手術が選択されますが、腹腔鏡がそもそも設備として病院にない、もしくは外科医の技術的にできない場合、侵襲度の高い開腹手術が選択されることも決して少なくありません。
そんな時、患者に対して他院での腹腔鏡の選択肢を提示する外科医は多くありません。
手術のリスクや合併症はたくさん説明するにも関わらず、自分にできないことの選択肢を提示してあげる医師は少ないのです。
このような現状は、諸先進国と比較しても日本では顕著です。
例えばアメリカでのステージⅠの肺ガンの治療法の選択は、手術比率が71.9%(2005年)から60.3%(2012年)に減少し、逆に放射線治療が13.5%から25.8%に上昇しています。
2015年度のオランダのデータでは、手術比率が47%に対して、放射線治療が41%と拮抗していました。
それに対し日本のステージⅠの肺癌の手術数は3万件(2014年)に上りましたが、同期間に放射線治療を受けた患者は1600人と全体の5%程度であり、以降もこの比率に大きな変化はありません。
なぜ日本では提供される医療にこうも偏りがあるのでしょうか?
根本な原因は、「医療の標準化」にあります。
<標準治療が我々にもたらしたものとは?>
かつての日本の医療現場では、「経験に基づく診療(Experience Based Medicine: EBM)」と言われる、医師の裁量によって自由度の高い医療が展開され、日本医師会が強い政治的発言力を持っていました。
しかし、バブル崩壊によって経済が停滞するなかで医療費の高騰が問題視され、2000年以降は医療の効率化が求められ、医師の裁量に大きく委ねられていた状態が問題視されるようになったのです。
そこで、「根拠に基づく医療(Evidence based medicine: EBM)」を行う流れが強まり、「標準化」の波が襲ってきました。
科学的根拠に基づいた標準治療とは聞こえがいいですが、これによって各疾患に診療ガイドラインが定められ、医療費の高騰を招かないような医療のみが提供されるようになったのです。
つまり、今我々に提供されている医療は確かに科学的根拠を持ちますが、あくまで政府の財源の範囲内で提供可能な医療であり、一人一人の状態や希望に沿ったオーダーメードの医療ではなく、均質化、効率化を重視したファーストフードのような医療なのです。
これらの背景によって、患者には選択肢が与えられることは少なく、医師の言いなりで治療方針が決まってしまうという現状が招かれているのです。
もちろん効率化、均質化は悪いことだけではなく、貧富の格差が広がる現代社会において画一的な医療を受けることができる点では非常に魅力的だと言えます。
しかしその一方で、背景にある「病院経営の苦難」「外科が権威を持つ現場」「医療費財源の逼迫」「財政緊縮」がこの現状にさらに追い打ちをかけています。
医療資源の高騰、高額な手術件数の減少、外来患者数の減少に加えて、従業員に対する働き方改革の推進で労働力も以前より制限されています。
その上、コロナウイルスの影響もあり「病院経営の苦難」は年々厳しいものになってきています。
また、医療現場によっては「外科が権威を持つ現場」もあります。
色々な治療法があるにも関わらず、そういった選択肢を検討せず、患者にも提示せず、外科医がやりたい手術のみを独断で行う。
そんな旧態依然とした医療現場も少なくありません。
さらに問題なのは、「医療費財源の逼迫」です。
最先端の治療や検査には高額な医療費を要するため、保険診療で提供した場合7-9割近くを社会保険料から捻出しなくてはなりません。
高齢化社会が進む日本では年々医療費が高騰しており、こういった治療を保険診療で提供するのが難しくなってきています。
また、医療現場は常に人手不足・予算不足に悩まされているにも関わらず、政府は団塊の世代が高齢者のピークを超えた後の医療費削減を目指して病床数の削減を進めようとしています。
こういった「財政緊縮」により我々に提供される医療は、よりローコストになってしまうのです。
では、こういった現状を受けて我々が取るべき対策とは何なのでしょうか?
<患者力を磨け!>
国民の2人に1人がガンに罹患する時代にも関わらず、患者の意思だけが無視されて政府や病院が勝手に標準治療というシステムを構築してしまいました。
この流れに歯止めをかけるのは他でもなく、患者本人かもしれません。
患者自身が様々な医療情報を取り入れ、治療の選択肢の幅を広げる努力をしなくては理想的な医療を受けることはできないのです。
患者としてのヘルスリテラシーを高める、つまり患者力を磨かなくてはいけない時代がやってきたのです。
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