皆さんはヒトパピローマウイルス(Human Papilloma Virus: HPV)をご存知でしょうか?
HPVは子宮頸ガンの原因となるウイルスとして有名であり、なんと100種類以上の型を持っていて、女性であれば80%以上、男性であれば90%以上が生涯で一度はいずれかの型のHPVに感染すると言われています。
このように多くの女性がHPVに感染してしまいますが、そのうち約90%は体内に侵入したHPVを自身の免疫能力で殺してしまいます。
しかし、残りの約10%の人はウイルスが残ってしまい数年から数十年かけて子宮頸ガンを発症させます。
また、近年子宮頸ガンの罹患率は増加傾向にあり、それに対し日本では現在、小学6年生から高校1年生相当の女子を対象に、2価か4価の子宮頸ガンワクチンの定期接種を行なっています。
しかし、欧米ではさらに強力なワクチンである9価の子宮頸ガンワクチンの接種が進んでいるにも関わらず、長い間日本では9価の子宮頸ガンワクチンの公費での接種は認められていません。
しかし、2022年8月ついに「今後9価の子宮頸ガンワクチンの定期接種化を進めていく」と厚生労働省が発表しました。
そこで本書では、子宮頸ガンを予防する最新の「9価HPVワクチン」について詳しく解説していきます。
<HPVと子宮頸ガンの関係について>
HPVは私達の生活にとって非常に馴染み深いウイルスであり、実は日常のありとあらゆるところに存在しています。
主に性行為によって皮膚や粘膜に感染し、女性であれば80%以上、男性は90%以上が生涯で一度はHPVに感染すると言われています。
HPVには100種類以上の型が存在し、その型によって特性も異なります。
例えば、HPV16、18を中心に31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68などは子宮頚ガンの発生に関係があると考えられており、ハイリスクHPV と呼ばれています。
その一方でHPV2、3、4、6、10、11は尖圭コンジローマなどの良性腫瘍の発生に関係していると考えられており、ローリスクHPVと呼ばれています。
このハイリスクHPVに感染すると子宮頸ガンを発症する可能性があります。
実は近年、日本人女性における子宮頚ガンの年齢調整罹患率(高齢化の影響を除いた罹患率)は増加傾向にあり、場合によって子宮そのものを切除しなくてはいけなくなり、若年女性の妊孕性に大きな支障をきたす可能性もあるため、日本では早急な対応が求められています。
そこで、現在厚生労働省は20歳以上の女性に対し、2年に1回の頻度で子宮頸ガン検診の受診を推奨し、早期発見に努めています。
また子宮頸ガン最大の予防策として、子宮頚ガンワクチンの接種も推奨しています。
では次に、日本における子宮頸ガンワクチンの現状を解説していきます。
現在、日本において子宮頸ガンワクチンは下記の2つから自由に選択し、公費で接種可能です。
・ハイリスクHPVであるHPV16、18をターゲットにしているサーバリックス
・ハイリスクHPVであるHPV16、18に加え、ローリスクHPVであるHPV6、11もターゲットにしているガーダシル
冒頭で述べた、2価や4価という単位は、それぞれのワクチンがカバーしているHPVの型数であり、サーバリックスはHPV16。18の2価の子宮頸ガンワクチン、ガーダシルはHFR16、18、6、11の4価の子宮頸ガンワクチンという事になります。
子宮頸ガンの原因となるハイリスクHPVのうち、どちらのワクチンもHPV16、18をカバーしており、子宮頸ガンを引き起こすHPV全体の60-70%をカバーできると考えられているため、小学6年生から高校1年生相当の女子を対象に、計3回の定期接種を行なっています。
しかし、裏を返せば国の指示通りワクチン接種を行っても、子宮頸ガンを引き起こすHPV全体の30-40%はカバーできないという事になります。
前述したように、子宮頸ガンの原因となりうるハイリスクHPVは、HPV16、18を中心に31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68などが挙げられますが、現行のワクチンでは、ハイリスクHPVの中で対象としているのはHPV16、18のみであることが原因だと考えられます。
そこで近年、欧米では9価の子宮頸ガンワクチンの定期接種化が進んでいます。
<9価の子宮頸ガンワクチンと日本における使用状況>
9価のワクチン「シルガード9」(海外での商品名:ガーダシル9)は、既存の4価のワクチンに加え、ハイリスクHPVであるHPV31、33、45、52、58の5つの型を追加でカバーしています。
気になるのはその効果ですが、4価の子宮頸ガンワクチンと比較した場合、既存の4種のHPVによる子宮頚ガンの発症に関しては同等の減少効果が得られ、追加されたHPV31、33、45、52、58に関しては、子宮頸ガンの発症を97.4%も減少させたと報告されています。
つまり、既存のワクチンと比較してより広域に子宮頸ガンの発症を予防できるわけです。
また安全性については、もちろん副反応の報告はあり、頻度の高い副反応としては、注射部位の疼痛、腫脹、紅斑が挙げられます。
しかし、まだ十分なデータが揃ってはいないものの、現状で重篤な副作用は報告されていない為、安全かつ効果的なワクチンであると認識されています。
以上のことから、9価の子宮頸ガンワクチンはすでに世界80カ国以上で承認されていて、米国ではすでに11-12歳の男女に国の正式な定期接種として接種が推奨され、9-14歳では2回接種が承認されています。
シルガード9は日本でも2020年7月21日に製造販売が承認され、2021年2月24日に発売されているものの、正式な定期接種化はなされていないのが現状です。
振り返れば、日本では2009年から子宮頸ガンのワクチン接種が始まっていましたが、副作用の観点から2013年には厚生労働省が各自治体に対し、積極的に接種を勧奨することを一時的に差し控えるように勧告しました。
結局2022年4月には安全性を認め、9年ぶりに定期接種の積極的な勧奨が再開されました。
日本は医療安全に対する意識が強過ぎるあまり、どうしても新しい治療や検査の導入に関して、世界各国に遅れを取ってしまうのです。
9価ワクチンにおいても、日本で未だに承認されていないのが良い例です。
しかし、2022年8月ついに「今後9価の子宮頸ガンワクチンの定期接種化を進めていく」と厚生労働省が発表しました。
9価の子宮頸ガンワクチン接種が承認される日もそう遠くないかもしれません。
まとめ
強過ぎる医療安全に対する意識以外に、日本が医療分野で世界に遅れを取ってしまう理由は、保険制度の違いにあります。
シルガード9に限らず、今世界では様々な最先端検査や治療が開発されていますが、保険制度の違いから日本で同じように使用すると様々な問題が発生しまうため、政府は新規導入に二の足を踏んでしまうのです。
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